パワー・アンプ
はじめに
- 「電力アンプ」の概要を紹介します。
- 本来パワーアンプ=電力増幅器ですが、現在、電圧増幅器で代用しています。
- そこで「電力アンプ=電力増幅器」と呼ぶことにします。
- この「電力アンプ」は負荷の変動によらず、入力電圧に比例した電力を出力します。
- 当たり前といえば当たり前ですが、その当たり前のことが今までできていなかったのです。
- その当たり前のことを実現したパワーアンプです。
- 実はスピーカーのインピーダンスは周波数によって変動します。コイルのインダクタンスは測定周波数によって変動します。
- 電力アンプはスピーカーのインピーダンスに左右されず、低音を忠実に再現することができます。
- まず電力アンプの必要性から見ていきましょう。なぜパワーアンプが必要とされているのかその理由です。
スピーカーのインピーダンス
- スピーカーのインピーダンスは周波数によって変動します。
- フルレンジ・スピーカー8Ωの典型例を示します。
- こんなに変動するのかと驚かれるかもしれません。
- 公称インピーダンスは最低インピーダンスを表示しているに過ぎません。
- 低音の共振周波数では48Ω、高音では20Ω以上にもなります。
- みなさんが聞いている音は本来の原音とかけ離れた音を聞いているかもしれません。
- 今までの常識が正しいか疑ってみると真実が見えてきます。
Fostex PK800Kのインピーダンス特性
JBL スピーカーのインピーダンスとは
スピーカーの周波数特性
- スピーカー周波数特性の典型例を示します。
- 一般的に平坦なところから6dB下がった低音と高音の範囲を再生周波数帯域と呼びます。
- この例では100Hz〜16KHzです。
- 6dBとは電力にして4倍の違いです。音量が4倍違います。
- 人は音量6dBの違いを聞き分けられます。
- 正確には10dBを下回らない条件でメーカーが指定でき、それを実効周波数範囲と呼びます。
- 低音部と高音部で低下するのはどちらもインピーダンスが上昇するためです。
- 本来周波数特性がフラットでなければなりませんが、インピーダンスの影響を大きく受けます。
北日本音響株式会社(スピーカー・メーカー) 周波数特性の解説
著作権と免責事項
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パワーと音圧レベル
- スピーカーの音圧レベルは1W入力時、正面1mでのdB値です(0dB=20uPa)。一般的に80dBから90dBくらいです。これは騒音問題になる極めてうるさいレベルです。
- 音圧の単位は0dB=20uPaで示されるように、音圧(音量)は圧力を示すパスカルPaです。Pa=N/m2であり、1平方メートルに1ニュートンという力を加えたときの単位です。
- 同様にワットWはW=J/s=N*m/sであり、仕事率です。
- つまり、音圧もワットも同じエネルギーの単位です。スピーカーは「電気というエネルギー」を「音というエネルギー」に変換する装置です。
- 決して、スピーカーに加えられた「電圧」を「音エネルギー」に変換するものではありません。電圧と音圧は単位の次元が違います。
- 電力はP=IV=V2/Rです。そのため電圧増幅器では電圧が一定なら負荷抵抗Rが大きいほど出力電力が小さくなります。
- つまり一般のアンプでは8Ω負荷と16Ω負荷で出力電力が2倍違います。
- スピーカーのインピーダンスは周波数によって変動するため、電圧増幅器では周波数によって出力電力が変動します。
- つまり電圧増幅器は周波数によって音量にムラを生じます。出力電力をスピーカーに正しく伝えきれていません。
- もちろんスピーカーメーカーは周波数によるインピーダンス変動が最小になるように努力しています。
- たとえばインピーダンス補正回路やネットワーク回路(2Way以上)を組み込んだりします。しかしその弊害として補正回路でもエネルギー消費されてしまい、エネルギーの変換効率が低下します。
- スピーカーのインピーダンス特性が48Ω at 100Hz, 8Ω at 1KHz, 20Ω at 10KHzとすると、アンプが1W出力しようとしても0.17W at 100Hz, 1W at 1KHz, 0.4W at 10KHzと変動します。
- 高音と低音で本来の出力がされておらず、音量不足です。当然の結果として低音不足や高音不足を感じることになります。これを補うべく誤った手段としてパワー競争に走ります。
- どんなに高級なスピーカーでも公称インピーダンス8Ωで実際のインピーダンスは32Ωくらいまで変化します。これは電力変動に換算すると6dBであり、人はその変化を聞き分けることができます。
- ところが、電力アンプの出力電力はインピーダンスに影響されず一定です。
- これが意味するところは、電力アンプはすべての音域で音量にムラを生じません。電力アンプは1W出力すれば1W at 100Hz, 1W at 1KHz, 1W at 10KHzになります。
- 電力アンプはスピーカーの周波数によるインピーダンス変動に影響されず、音を忠実に再現します。
- ある程度のスピーカー性能があれば、インピーダンスに影響されず、すべての音域で本来あるべき音量になります。
- 電圧増幅器では再現されなかった低音や高音が再現されるため、出力電力が小さくても大きな音に感じます。それゆえパワーも必要ありません。
- 電力アンプの優れている理由がここにあります。
- 考えてもみてください。スピーカーは1Wのエネルギー入力を80dBから90dB程度の音エネルギーに変換し、これは騒音問題になるくらいの大音量です。
- 部屋で音楽を楽しむなら、本来1Wも必要しないです。スピーカーに10Wや100Wも入力したら、とんでもない大音量になります。
- コンサートホールや映画館なら10Wや100Wのアンプが必要なのもわかります。音量はスピーカーとの距離の二乗に反比例するからです。
電力アンプのヒント
- では電力アンプをどのように実現しているのでしょうか。
- そもそも今まで実現できなかったのに、そんなことできるのでしょうか。
- 私も長年悩まされました。パワーアンプの解説本を読み漁りましたが、結局最後には電圧増幅器に話がすり替わってしまいます。
- 幸いなことに秘策を持ち合わせていました。
- ただ当時、複雑すぎて設計できませんでした。
- 私の秘策の元は古くから知られている「オペアンプの定電流回路」でした。これは教科書にも載っているでしょう。
- ただこのままでは、電力増幅器として動作してくれません。
- 工夫が必要です。
- 試作を繰り返し、電力増幅としての動作確認もして、とうとう実現しました。
まとめ
- アンプとスピーカー間の電力伝達という一番重要な部分をおろそかにしてきました。
- 音は電力に比例します。
- 本来、電力を伝達するからパワーアンプです。これは言葉としても科学的に正しいのです。
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