自動車用バッテリの充電制御
はじめに
- バッテリの充電制御を搭載した自動車が増えました。
- 燃費改善を目的にしていますが、果たして本当でしょうか。
- またアイドリング状態では充電しないとの話もありますが本当でしょうか。
- その仕組みを解説し、科学的に解明します。
- アイドリング・ストップも廃止の方向にあります。なぜなのか考えてみましょう。
バッテリ充電の仕組み
- 現在のところ2種類の仕組みがあります。
- (1)定電圧充電方式
- (2)充電制御方式
- 充電制御システムとは(Panasonic)
- 従来との違いが解説してあります。この図に抜けている部分があります。実は満充電状態でエンジン負荷は軽減されます。
- 鉛蓄電池は起電力2Vのセルを6つ直列接続した構造です。
- 電圧は12Vです。
- 主にエンジンの始動に利用します。
- もっとも大きい消費(負荷)はスターターです。瞬間的に大電流(100Aから150A)を必要とします。
- 一般的にエンジンが始動してしまえば、オルタネータ(発電機)で電気をまかなうため、もうバッテリは不要です。
- バッテリを外してもエンジンは回転し続けます。ただし最近の電子制御車では止まるかもしれません。
- 一時的に車内の電気消費が増えたとき、バッテリが補助します。
- そのため、エンジン始動後はバッテリ充電が行われます。
- 次のエンジン始動に備えて充電しておきます。エンジンの余力のあるときに充電します。
- ※夏場のエアコン(電動ファン)は消費電力が大きいため、一時的にバッテリの力を借ります。
- ※そのためバッテリの充電と放電を繰り返すため、バッテリを酷使することになります。
アイドリング状態では充電しない?
- たまにアイドリング状態では充電しないとの記述を見かけます。本当でしょうか。
- もともと鉛蓄電池の充電は定電圧方式が一般的です。
- 12Vの電圧(実際には少し高い電圧)をかけるだけで充電し、満充電になれば自動的に充電電流が止まります。
- そのためオルタネータ(発電機)の出力電圧を12V(実際には13.8V前後)に制御するだけです。
- オルタネータは交流発電し、整流して直流を出力します。
- このときエンジンの回転数が変動しても定電圧(13.8V)を出力します。回転数が上がると電圧も上がっては困ります。
- ですからアイドリング時も高速回転時も定電圧(13.8V)です。
- 実際にバッテリの電圧をエンジン始動前と始動後で測定してみましょう。
- エンジン始動前のバッテリ電圧=12.5V前後
- エンジン始動後のバッテリ電圧=14V前後
- エンジン始動後の電圧が低い場合はオルタネータ(発電機)が故障しています。
- 電気は電圧の高いところから低いところに流れます。この逆はありません。
- アイドリング時の電圧が14Vとは発電機の電圧です。
- バッテリの(内部)電圧のほうが低いので、発電機からバッテリに電流が流れます。
- つまりアイドリング状態でも充電します。
- ※バッテリの端子部分まで発電機の電圧がかかります。バッテリの内部電圧(端子から内側)が低いので、バッテリに電気が流れ込みます。
- ※充電するとバッテリの内部電圧が徐々に上昇します。そしてバッテリの内部電圧と外部電圧が同じになると、充電が止まります。
- ※充電制御システムはバッテリ電圧が低いなら、アイドリング状態であっても充電します。そのように制御します。
- ※充電制御システムはバッテリ電圧が高いなら、アイドリング状態であっても充電しません。必要がないからです。
- ※エンジン始動直後は大量の電気を消費したことからバッテリ(内部)電圧が低下します。
- 電気は電圧の高いところから低いところに流れるという科学的な事実を知っているだけで真相がわかります。
充電制御システムの効果
- さて充電制御システムは燃費向上のために考えだされました。
- 満充電状態にオルタネータ(発電機)のエンジン負荷を下げようとして、充電制御しました。
- エンジンの負荷を下げれば燃費向上につながるからです。
- ところが、満充電状態では自動的に充電電流は止まるため(あるいは少ししか流れない)発電機は回転していても負荷はかかりません。
- 満充電状態で発電機によるエンジン負荷は無駄だから削減しようとしたのですが、そもそも負荷が小さかったわけです。
- ※満充電状態で充電電流が大きいと勘違いしていたわけです。満充電に近づくほど電流が小さくなります。つまり満充電に近づくほど発電機の負荷は小さくなります。
- 一方で、バッテリに充放電を繰り返し、酷使することになり、バッテリの寿命を短くしました。
- そのため充電制御システムを搭載した車のバッテリはもっと高性能を要求されることになりました。
- しかも充電制御システムによる燃費効率の寄与は1%くらいしかありません。
- 最近アイドリング・ストップ機能は廃止の方向に切り替わりました。
- 燃費向上の効果が低く、バッテリ負荷が大きいために費用対効果が見合いません。払う費用に対して見合う効果を得られません。
- アイドリング・ストップ機能が廃止されたように、充電制御システムも廃止されていくでしょう。
- 小さな効果しか期待できないなら、それに見合うコストは払えません。
- そもそも内燃エンジン(効率30%くらい)から電気モーター(効率95%くらい)に切り替わろうとしています。
- エネルギー効率を大きく改善できるため、費用対効果が大きいからです。
- エネルギー効率を数%改善するより、数10%改善するほうがメリットは大きいです。
物事はトータルで考える
- アイドリング・ストップも充電制御システムも「個々の改善」を行うものでした。
- 個々の改善を積み上げていけば、全体の改善につながるはずという考え方です。
- しかし、実際には「改善に見合うコスト」とはならず、全体としてコスト高になりメリットを見いだせない結果となりました。
- これは「囚人のジレンマ」として知られる現象です。物事が複雑になると発生します。
- 「個々の利益」の追求が必ずしも「全体の利益」になりません。
- アイドリング・ストップも充電制御システムも挑戦や努力としては認めますが、全体の利益につながらないなら失敗です。
- (全体として)顧客に受け入れられるメリットも見出せなければなりません。
- 作り手だけなく使う側のメリットも見出し、トータルで物事を考えなければなりません。
- 一方的な考えでなく、全体として考える必要があります。
- 使う側からすれば、コストに見合う以上のメリットを得られるなら受け入れるでしょう。
- 「コスト」<「メリット」
- これが逆転しているなら、使う側は納得しません。
- アイドリング・ストップ機能で燃費は向上したが、バッテリのコストが跳ね上がりました。
- ガソリン代は下がったが、バッテリ代が上がっては、コストを付け替えただけです。
- ガソリン代をバッテリ代に移動しただけです。
- 1%のメリットを得られるなら、1%のコスト高は公平でしょう。
- 1%のメリットを得られるなら、2%のコスト高は不公平です。そんなコストは払いません。
- 2%のメリットを得られるなら、1%のコスト高は納得するでしょう。
- 総合的なメリットとコストが重要です。
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