古典的なコンピュータと量子コンピュータの違い
- 2018-02-21 初版
- 2019-10-24 量子コンピュータの実現が難しい理由
- 2023-09-30 量子力学に内在する確率の存在証明
はじめに
- 量子コンピュータが登場しました。
- 当初は眉唾物ではないかと言われていましたが、研究開発として利用できる量子コンピュータです。
- 市販されている有名な量子コンピュータはD-Wave System社のD-Waveです。
- まだ現在のスーパー・コンピュータを超えるまでの性能に達していないため、実用にはいたっていませんが、今後注目を集めるかもしれません。
- スーパー・コンピュータの性能を超えると言われています。
- なお、量子コンピュータは現在のコンピュータを置き換えるものではありません。
- つまり将来においてパソコンの代わりになるものではありません。
- 現在のスーパー・コンピュータが苦手としている分野、不得意な分野を打破する目的です。
- 今まで解決できなかった問題を解決できるかもしれない新たな分野の開拓と挑戦です。
- 一方で量子コンピュータに不得意な分野もあります。
- プログラミングの考え方もがらりと変える必要があります。
古典的なコンピュータと量子コンピュータの違い
- 古典的なコンピュータ(現在のスーパーコンピュータ)と量子コンピュータの違いを単純化して説明しようと思う。
- 巷にいろいろと解説されているが読んでもいまいちだったからである。
- これはちょうど古典力学のアプローチと量子力学のアプローチの違いである。
- 数式よりも根底にある考え方(本質)を理解しておくことの方がはるかに重要である。本質を理解していないと何をしているのかわからなくなる。
- 難しいことを難しく説明するのはたやすいが、難しいことをわかりやすく説明するのは難しい。
- 本来、専門的な前提知識がないと理解できないからである。できるだけ一般的な言葉を使うことにする。数式も使わない。
- ※筆者は量子力学で基本となる式を一通り導出した。数式を知らないわけではない。
- ※量子力学では数式を簡略化(一般化)するために、定数や演算子を定義している。例えばディラック定数やハミルトン演算子(ハミルトニアン)など。
- ※さらにヒルベルト空間やテンソルなど物事を一般化する数学的な概念の理解が必要である。
- ※こうして量子力学の基本となる一般化した数式、シュレディンガー方程式が登場する。
- ※なお、シュレディンガー方程式は一般的に(簡単に)解けない。特別な条件に絞り込むことでやっと解ける。
- ※微分積分、複素数なんてものは当然理解していなければならない。
- 正確性を欠くが、概要を理解する助けになる。多少の間違い(厳密性)は大目に見ていただきたい。
- イメージとして違いを捉えるとよい。
古典的なアプローチ
- 古典力学では個々の動きを捉え、その積み上げで全体の動きを捉えようとする考え方である。
- 1+1=2だから1+2=3のように次々に積み上げて、全体像をとらえようとする。
- 空気全体の動き(流体)を捉えようとするとき、空気を構成している個々の分子の動きを捉え、相互作用をすべての分子間で計算すれば、全体の動きを捉えることができる。
- ビリヤードに例えるなら、ワンショット(一突き)で発生する個々のボールの動きをすべて計算すれば全体の動きを捉えることができる。
- 理屈や理論としては正しい。
- 2つの物体AとBが衝突するときの運動は簡単に計算できる。
- ※エネルギーの式や運動方程式から計算できる。
- ところが、無数の物体が同時に衝突するとき、計算量が莫大になり現実的な時間内に結果を得られない。
- 正確な動きを捉えようとして1万年後に結果がわかっても意味がない。だから精度を落として計算せざるを得ないのが現状である。
- 古典的なアプローチは個々の現象の積み上げで、大きな全体の現象を理解しようとする考え方である。
- 理論としては正しいが、全体の動きを捉えるのには向いていない。
- 0と1の二値(デジタル値)を計算として用い、解を導くのが古典的なコンピュータである。
- 2つのサイコロに例えるなら、すべての個別事象をとり(サイコロを振りまくり)、全体としての動きを解こうとするアプローチである。
量子的なアプローチ
- 量子的なアプローチとは個々の動きはどうあれ、確率的に全体の動きを捉えようという考え方である。
- もともと量子の世界では、「不確定性原理」があり、個々の動きを捉えようとしても捉えられないという問題にぶち当たった。古典的なアプローチができない。
- そこで、個々の動きを捉えるのをあきらめ、全体の動きを確率的に考えることにした。
- こうして個々の動きを捉えることはできないが、全体としての動きを捉える(理解する)ことができるようになった。
- 実際に半導体におけるトンネル効果を理解できるようになった。
- このトンネル効果とは本来通過することのない壁を電子が通過してしまう不思議な現象である。トンネル効果を持つダイオードとしてエサキ・ダイオードが知られている。
- ※超えることのない壁を通過する現象を計算で導いたときは驚きでしかなかった。通過すると書いたが一部が漏れる(にじみ出る)といったほうが正しい。
- ※量子の世界ではこんなことが起こるのだとびっくりした。ボールを壁に投げたら、ボールの一部が壁を突き抜けるなんてありえない。
- 確率として考えるため、0から1の間のアナログ値(確率)を計算として用い、解を導くのが量子コンピュータである。
- ※正確にいうと「重ね合わせ状態」を持つ「量子ビット」を計算に用いる。量子ビットを用いて確率を計算する。
- 2つのサイコロに例えるなら、個別事象はどうあれ(サイコロを振らずに)、サイコロのそれぞれの目の出る確率を(既知)1/6として、全体としての動きを解こうとするアプローチである。
- 個々の動きを捉えることをあきらめたので、全体の動きを捉えることに向いている。
- 絶対的な結果ではなく、少しあいまいな確率の結果(最適解)を導くのが得意である。
- 量子的な考え方は途中経過を知ることができないため、なぜそうなるのかはわからないけれど結果的にそうなることだけを理解できる。
- ある意味ブラックボックス化されてしまう。こうした意味で人間の能力を超えているともいえる。
不確定性原理とは
- 不確定性原理とは例えば原子核の周りを回る電子の「位置を計算する」と「運動量を計算できず」逆に「運動量を計算する」と「位置を計算できない」という二律背反の原理である。
- 位置を特定しようとすると運動量がわからなくなり、運動量を特定しようとすると位置がわからなくなる。
- ※確かに計算しようとすると、発散(特異点)してしまい計算不能に陥る。
- ※不確定性原理の式にプランク定数が登場する。これがゼロでないことが重要。ゼロか否かで大きな違いになる。
- ※なお正確なプランク定数を定めることでキログラムも規定することにした(2019年)。
- そこで電子の位置を特定せず、オービタルと呼ばれる軌道空間に分散した確率で存在(確率分布=波動関数)していると考える。
- ※なるほどだから確率を持ち込んだのだなと納得したものだ。こうして波動関数が導かれていく。
- ※どこにあるかはわからないけれど、あるのは確かで全部の確率を足せば1(100%ある)になる。
- 結果として量子は粒子(物質の性質)と波(状態の性質)の両方の性質を持つ。
- ※だから特定の時刻、場所にあるかもしれないし、ないかもしれない。「ある」と「ない」が確率的に共存する。これを「重ね合わせ状態」と呼ぶ。
- ※「シュレディンガーの猫」の話を参照のこと。
- ※この思考実験は本来「ある」か「ない」かの2値(デジタル)しか取りえないことを指摘している。
- ※結果的に2値しか取りえないのに、中途半端な「半分ある」なんて確率的に考えるのはおかしいのではと指摘している。
- ※しかし私たち人間も特定の時刻や場所として「家にいる確率」と「家にいない確率」を考えることはできる。
- ※24時間のうち何時間いるのかわかれば、確率として考えることができる。
- ※荷物の配達人にしてみれば、訪問する前までは「いる確率」と「いない確率」で考えられるが、訪問して結果をしれば「いる」か「いない」かのどちらかでしかない。
- ※これは数学の極限(連続と不連続)と似ている。確率として(近似した)極限値 lim f(x) は必ずしも結果f(x)と同じではない。例ガウス関数。
量子論の確立
- 1900年代に入って未知の世界であった量子の世界を形作る量子論が確立していった。
- 当時、やっと原子の構造がわかり始めてきた。
- 見える物理(古典力学)から見えない物理(量子力学)に拡張していった。
- まだ、原子があることさえ一般的には浸透しておらず、まして電子があるなんて考えもしない時代であった。
- ※電子の発見は1896年(トムソン)
- ※原子核(原子)の発見は1911年(ラザフォード)、「ドルトンの原子論(1808)」でも原子があると仮定すると化学を説明できた。
- ※原子論は古くからあったが、確証がなかった。
- ※原子核の発見により原子の存在は確定したが、正確な構造まではわからなかった。
- ※ボーアの原子モデルもまだ正確ではなかった。
- ※原子は点の原子核を電子雲が包んでいる状態。境界はぼやけており明確な半径はない。平均的な半径はある。
- ※しかもイメージの世界でしかなく、そう考えると辻褄が合うだけである。真の構造である保証はない。
- ※見えない世界を見える世界で表現できない。表現しようとすることが間違いである。
- 量子力学は見えない量子の世界を確率的な数学で表現できるともいえる。
- 量子の世界と確率論の紐づけに成功した。
- 理由はわからないが、確率論を用いると量子の世界を説明できるようになった。
- 数学の理論と量子の現象が一致した。理論で現象(実験、現実)を説明できるようになった。
- 量子の世界を表現できる数学的な理論を獲得したことで、計算上で起こりうる量子の現象を予言できるようにもなった。
- しかし当時の科学者さえ、量子論を信じきれなかった。
- アインシュタインは「神はサイコロ遊びをしない」と友人に手紙を当てている。
- これは確率なんて考えてはいけないと指摘している。
- シュレディンガーも「シュレディンガーの猫」で同じことを指摘している。
- ※科学理論とは未来永劫、正しいかはわからない。
- ※現時点で正しいとしか言えない。誰が確かめても理論通りになる。誰も否定できない。
- ※ただし、誰かが少しでも理論と異なることを発見したら理論は崩れ去る。
- ※歴史的に耐え抜いてきた理論が生き残る。
- ※その理論は嘘だというなら、否定できる証拠を提示してみろというのが科学だ。
- シャーロック・ホームズの言葉を紹介しよう。これは論理的判断の根底をついている。
- "When you have eliminated the impossible, whatever remains, however improbable, must be the truth."
- 「不可能を排除していったとき、何が残ろうと(どんなにありそうもないことであっても)真実に違いない。」
- コナンドイルは医者であった。様々な病気の可能性を否定していったとき、最後に残るものが真の病気に違いない。
量子力学に内在する確率の存在証明
- アインシュタインは量子論に反対していたのではない。理論はまだ不完全ではと主張していた。
- 量子論の中に偶然性(確率)が存在するなら、まだ科学ではないと主張していた。
- 古典力学では実験を行う前から結果を予測できる。すでに結果は決まっている。
- 運命は(あらかじめ)決定されている。因果律に支配されている。そこに偶然性はない。
- 「ラプラスの悪魔」とも呼ぶ。
- アインシュタインはこの偶然性(確率)を嫌っていた。科学に確率を持ち込みたくなかった。
- そこで量子力学の学者に対していくつもの思考実験をぶつけて反論を試みた。
- 科学理論とは一つも例外を許さない。
- だから天才による反論はむしろ抜け穴をつぶす良い機会になった。
- 理論の抜け穴がこうしてふさがれた。
- ※量子力学に内包する、重ね合わせ状態、不確定性原理、観測した時点で結果が決定、という考え方が正しいのか議論した。
- ※これは物理現象と科学の在り方にかかわる話。
- ※かなり抽象的ではあるが高度な議論。
- ※科学は物理現象を正とするので、そもそも物理現象に沿わない科学は間違いとなる。
- ※物理現象に科学(理論)を合わせる必要がある。
- ※そもそも物理現象に確率が含まれていたら、科学も確率を含む必要がある。
反論の主張
- アインシュタインが最後にぶつけた「EPR論文」(1935)は強烈な反論であった。
- 科学は「局所実在論」であるべきだという主張である。
- 意訳すれば世の中の現象は「事前に状態を把握できるなら、結果は事前に決まっている」という主張。
- 局所的に考えるなら(実験内容を把握しているなら)、実験する前(観測する前)から結果は決まっている(実在している)と主張した。
- ※量子力学では観測するまで結果は決まらない(ある程度の範囲は予想されるが確定はしない)。
- ※局所性とは全く関係性のない(干渉しない)状態も含む。むしろ実験ではこちらを採用する。お互いに干渉しない実験条件を作る。
- 古典力学の経験則に基づいた主張であった。
- これは長い間、論争となった。
局所性
- Principle of locality、局所性原理
- localとは近い領域を意味する。反対は remote 遠隔のである。
- 相対性理論前のニュートン力学において、物理作用は瞬時に伝わると考えていた。これを(物理学における)局所性原理と呼んだ。
- 2つの物体が衝突したら瞬時に力が作用する。
- だから事前に実験内容を把握しているなら(2つの物体という狭い範囲で考えるなら)、未来は決定されている。
- 瞬時に力が伝わり、外因が入り込む余地がないから、物理法則に従う。偶発的な要素の入り込む余地がない。
- 物理現象は瞬間の積み重ねで成り立っている。古典的な考え方である。
- ところが相対性理論が発見され、物理作用は瞬時に伝わらないことが判明した。
- 光速を超えられない。
- 2つの物体間は粒子にしろ、波にしろ、光の速度を超えて物理作用(力も含む)しない。
- 太陽の光が地球に届くのに約8分かかる。突然、太陽が消滅しても8分間気が付かない。
- 相対性理論における局所性とは、2つの物体を遠方に配置した場合、光の速度を超えて物理作用は伝わらないことを意味する。
- 本当は局所性ではなく、遠隔性原理と呼ぶべきものである。
- ところがである。量子力学になると、瞬時に情報(状態)が伝わる(ように見える)。
- 量子力学では観測した時点で状態が確定するので、観測しない限り状態は確定しない。
- 量子もつれ状態にある量子Aと量子Bを遠方に配置する。
- どちらも観測するまで状態はわからない。
- 不思議なことが起こる。量子Aの状態を確認した瞬間に量子Bの状態も決定する。
- 観測するまで状態は確定しないために、一方が確定した瞬間に他方も決定する。
- これは時間を超越している。情報が伝わっているわけではない。これまでの物理的な作用ではない。
- ※お互いの状態を伝え合うには光速の時間が必要であるが、これに反しているように見える。
- ※量子の世界においては、時間という概念が通用しない。
- ※量子の世界に不確定原理があり、これは時間に対しても当てはまる。
- ※量子の世界で、時間は本質的に不確定である。だから時間を排除して確率を持ち込んだ。
- ※量子の世界に、時間を持ち込めない。
- どんでん返しの連続である。
- 本来の意味で局所性原理=瞬時に作用が伝わること(瞬時作用)
- 本来の意味で遠隔性原理=瞬時に作用が伝わらないこと(非瞬時作用)
- ニュートン力学では局所性原理であった(光速を知らなかった、時間をあいまいに考えていた)。
- 相対性理論では遠隔性原理であった(光速を超えられない、時間を厳密に考えた)。
- 量子力学では局所性原理のように見える(そもそも時間を持ち込めない、時間を考えない)。
- 物理現象を追求していくと、我々の想像を超える世界があった。
- 普段我々が接している世界の物理現象は見かけ上の姿であり(表面上の現象)、その理論を根底にある内側の物理現象に持ち込んではいけない。
- 内側の物理現象には別の理論を構築しなければならない。内側の理論を近似すると外側の理論になる。
- 内側の物理現象が原因で外側の物理現象が結果である。
- 外側の理論を内側の理論に持ち込んではいけない。結果を原因に持ち込んではいけない。
- 相対性理論では2つの物体間の移動に光速という限界がある。作用の伝わる速度限界がある。
- 量子力学では2つの量子間の情報(状態)に時間は関与しない。観測した時点で状態が確定する。状態の作用(変化)に時間は関与しない。
- ※相対性理論までは物理的なモノを扱うのに対して、量子力学では物理的な状態(量子)を扱う。
- ※量子とはエネルギーの共振状態である。扱う対象がモノから状態(量子)に変わる。
- ※ただし、量子力学は相対性理論を否定するものではない。モノ(質量)は状態(エネルギー)と等価である。
論争の決着
- まず「ベルの不等式」(1964)が登場する。
- 「局所実在論」が満たすべき条件を「ベルの不等式」として数学的に導いた。
- 局所実在論が成り立つならこの上限を超えることはない。
- つまり世の中の物理現象が「ベルの不等式」を満足するかどうか実験で検証できるようになった。
- 「ベルの不等式」を満足するなら、アインシュタインの主張は正しい。
- 多くの実験が行われた。
- 1972年の実験で初めて「ベルの不等式」を満たさない結果を得た。ただ局所性の抜け穴が多かった。
- 1982年アスペの実験で(局所性の抜け穴をかなりふさぎ)「ベルの不等式」を満たさない結果を得た。
- これを「ベルの不等式の破れ」と呼ぶ。
- 量子力学でアインシュタインの主張は崩れ、観測する前に結果は決まらない(測定前の物理量は実在しない)。
- 古典力学の経験測が量子力学の世界で通用しないことを意味する。
- 見えない量子の世界はこれまでの常識(古典力学)が通用しない。
- 一歩下がって、次元を上げて考える必要がある。別の世界には別の科学法則がある。
- これまでの道具(数学、古典力学)をそのまま持ち込んではいけない。
- ※量子の世界では複素数や確率論に拡張して考えなければならない。実数では役に立たない。
- そして根底に量子力学があり、そこから古典力学が導かれる。古典力学は見かけ上の法則に過ぎない。
- 量子力学を近似すると古典力学になる。
数学的には自明
- 数学的に質問が投げかけられたとき、事前に答えが決定しているかを問わない。
- 事前に答えが決まっていようといなくても構わない。
- むしろ事前に答えが決まっていることが少ない。
- 計算して答えが出たとき、それが事前に決定していた答えなのか判断のしようがない。
- 実際「EPR論文」が投げかけらたとき、事前に答えは決まっていなかった。
- ということはもう議論の負けは決定していた。
- 事前に答えが決定していたという保証がない。
- 確認した時点(観測した時点)で答えが決まる。
- ※質問時点で答えが決まっているかはどうでもいい話。
- ※決まっている時もあれば(古典力学)、決まっていない時もある(量子力学)。
ちょっと補足
- 量子力学で「物理現象はすべて偶然である(偶然で決まる)」とは言っていない。ここをよく勘違いする。
- 偶発的(ランダム)に決まるとは言っていない。
- 不思議に聞こえるかもしれないがランダムから一定の確率が決まる。
- 無秩序から秩序が生まれる。
- 結果は確率的にこうなると示される。結果的にこうなる確率が高い。ある範囲内の答えに収まる。
- ※例えば、大地震は30年以内に70%の確率で発生する。これは量子力学的な答え方である。
- ※時間の幅を広げて1000年以内なら100%の確率で発生する。
- ※ピンポイントで断言はできないが、ある範囲内に答えは収まる。
- 決定的に断言はできないが、結果は予想される。完全なる偶然ではない。
- つまり量子力学であっても未来はある程度予測できる。
- 絶対的な保証はないが、やはり未来はある程度決まっている。
- むしろ量子力学は確率論と結びつき、未来をある程度予測できる。
- 決定的ではなく、若干の確率的な揺れ(遊び)があると言っている。あいまいさを許している。
- この「確率的な揺れ」が古典力学との違いである。
- 「確率的な揺れ」はわずかである。トンネル効果に当てはめるなら壁を通過するのはわずかである。
- 大半はやはり因果律に縛られている。偶然性はわずかにすぎない。
- 相対性理論でも速度が小さければ、時間の遅れは無視できるくらいに小さい。だから古典力学が成り立つ。
- 同様に量子力学でも量子の集合体になると、偶然性は無視できるくらいに小さい。だから古典力学が成り立つ。
- 宇宙空間やミクロな世界を考えるとき、古典力学が通用しなくなり、相対性理論や量子力学で考えなければならない。
- ※麻雀に精通していれば、勝敗は「実力」と「運(確率)」で決まることを経験する。
- ※実力だけではなく運もある。
- ※病気も潜在的な遺伝子だけでなく、おかれた環境という偶然にも左右される。
- ※世の中は自分の力だけで左右できるものではなく、偶然(確率)にも左右される。
- ※ボルトとナットは小さな遊びを許している。遊びをなくすと熱応力により伸縮で問題を起こす。
- ※原子内の電子は平均的な軌道に存在する確率が高い。揺れはあるが、ある程度決まっている。
- ※こう考えると量子力学も納得できる。
方法を問わない
力は等価
- 力に違いはない。
- 力は見かけ上であって、ひずみから生じる。
- 力はすべて等価である。
- だから重力も加速度による力も見分けがつかない。
- 弱い力も強い力も重力も電磁気力もすべて等価。
方法を問わない
- 電子やクォークは人が理解するために作り出した創造物にすぎない。
- 見えない存在なので、本当の姿はわからない。
- 理論構築するため、整合性の合うように作り出した。あてはめた。
- 理論に合う性質を持つ、電子やクォークを作り上げた。
- 物理現象を科学理論として矛盾なく説明できるなら、方法を問わない。
- だから複数の理論があっても構わない。
- 粒子として説明しても波として説明しても構わない。
- 量子を粒子として扱っても波として扱っても構わない。本質的な違いはない。理論的に等価である。
- 量子論を行列として表現しても波動関数として表現してもよい。
- ※2つの理論は同じことが証明された。理論は等価。
- 量子論をエネルギーの共振論として表現してもよい。
- むしろ電磁気学を知っているなら、共振論のほうがわかりやすい。
- 人間が理解しやすい理論を使えばよい。
- ※数学でも答えを求める方法は1つではない。どの方法でも正解にたどり着くなら間違いではない。
- ※こだわらない。
量子コンピュータとアナログ
- 量子コンピュータを単純化しアナログ回路で実現するなら、一例としてオペアンプによる加算回路がある。
- AとBの入力電圧(0Vから1Vの範囲)をアナログ回路で加算して出力電圧Cとする。
- これなら瞬間的に答えを得られる。
- 0Vから1Vを0%から100%に読み替えるとある現象(AとBの事象のOR確率)を(確率的に)シミュレーションしていると言える。
- ※神経学に詳しい方なら、ニューロンと同じことに気付くだろう。となると学習(ディープ・ラーニング)を繰り返せば、最適解を得られることが直観的にわかる。
- もしこれを古典的なデジタルのコンピュータで計算処理しようとするとAとBの入力電圧をAD変化して取り込み、AとBの値を加算処理して結果Cとしなければならない。
- デジタル処理に時間がかかる。
- もっと複雑なフィードバックを伴うシミュレーションをしたら、アナログ処理の方が圧倒的に速い。
- このように量子コンピュータは個別の計算をあきらめ、全体をシミュレーションするアナログ回路のように置き換えて結果を得る。
- 0か1かといった結果ではなく、0%から100%の間の確率結果を得たいなら、量子コンピュータが向いている。
- 人間の直観に似たような現象の解析に向いている。
- ※だから現象を分析して、適切なシミュレーション・モデルを作成することが量子コンピュータのプログラマに要求される。
- ※さらに、正しいモデルでディープ・ラーニングを行うと精度が向上する。
- ※ある意味、アナログ回路は(量子のふるまいをする)電子の動きを直接利用した、簡単な量子コンピュータということができる。
- ※量子力学の問題を解きたければ、実際に量子である電子を使ってシミュレーションさせればよいだけのこと。
- ※電子は身近な量子である。光も量子である。
最強のコンピュータ
- いっそのこと古典的なコンピュータと量子コンピュータを組み合わせたハイブリッド・コンピュータを開発したら最強であろう。
- それぞれの得意分野が重ならず、不得意分野を補うので最強になる。
- デジタル・コンピュータとアナログ・コンピュータの融合になる。
量子(Quantum)
- 量子とはなんでしょうか。
- 光は波と粒子の性質を持ちます。光の粒子を「光子」と呼びます。
- 同様に電気の粒子を「電子」と呼びます。
- 原子を構成している電子は電子殻と呼ばれる電子軌道にいます。電子殻はK殻、L殻、M殻、N殻、O殻、P殻として知られています。
- 外部からエネルギーを加えて、電子殻にいる電子をはじき出そうとすると、特定の飛び飛びのエネルギーが必要です。
- このように連続ではなく、不連続な値を持つとき、物理量の最小単位を量子と呼びました。転じてこうした物理的な特性を持つものを量子と呼びます。
- つまり量子は連続ではなく、不連続な値をとります。
- マクロの世界では連続に見えますが、ミクロの世界では不連続に見えます。
- マクロの世界で電流値は連続に変化するように見えますが、ミクロの世界でみると電子の電荷という不連続に変化します。
- Quantum とはラテン語の quantusに由来します。"how great" 「なんて偉大なんだ」「なんてすげーんだ」という意味です。
量子コンピュータの実現が難しい理由
- 現在直面している技術的な問題は「重ね合わせ状態」を持つ「量子ビット」の実現だ。
- いろいろな方法が考えられ、試みられている。
- 例えば、電子のスピン(自転)を利用した方法がある。
- 電子殻には右回りの電子と左回りの電子が共存できる。不思議ではあるがこのような性質がある。
- 一方が右回りなら他方は左回りである。
- だから電子殻の電子数は2の倍数である。
- 右回りの電子の状態と左回りの電子の状態が共存している。これを量子ビットとみなす。
- なぜ量子コンピュータの実現が難しいのかは、量子そのもの性質に由来する。
- 計算途中は「重ね合わせ状態」を維持し、結果を知ろうとして、観測した瞬間に「重ね合わせ状態」が解除されてしまうからだ。
- 「重ね合わせ状態」を維持するのは難しく、ビットを操作しようとして、ちょっとでも触れようものなら瞬間的に消えてしまう。
- 電子を捕まえて右回りか左回りかを観測しようとして触れた瞬間に「重ね合わせ状態」が消えてしまう。
- 計算途中の「重ね合わせ状態」が維持されているか、確認できない。
- 「重ね合わせ状態」を安定に保つことができない。不安定なのだ。外部刺激(熱など)に弱い。
- 「重ね合わせ状態」を保ちつつ、ビット数を増やすというのは、非常に難しい。
- 現在はこうした誤動作を防ぐために、量子誤りの訂正が必要になる。訂正の必要のない安定した量子ビットが望まれる。
- 安定した「量子ビット」をまだ実現できていない。つまり実験室の段階を抜け出せておらず、安定した製品としての品質がない。
- 古典的なコンピュータは64ビットが主流である。これを何百台も組み合わせてスーパーコンピュータとしている。
- スパコン京の次に富岳が計画されている。
- 量子コンピュータがスーパーコンピュータを超えるには100以上の量子ビット数が必要と言われている。
- もう一つ、量子コンピュータの実現を阻む理由はプログラミングだ。
- 現在のところ万能なプログラミング方法が存在しない。
- これが意味するところは、特定の問題を解くことしかできない。
- この問題を解くアルゴリズムを発見するのが難しい。
- シミュレーションともいえ、特定の問題を解くことしかできない。応用が利かず、万能ではない。
- これは現在のAIシステムと似ている。万能なAIシステムは存在しない。
- 例えば、将棋や囲碁のように特化したAIは存在するが、人間と同等のAI(人工知能)は存在しない。
- 人間は将棋もするが囲碁もできる。別のゲームだってできる。こうした万能性がない。
- 同様に量子コンピュータも特化した問題は解けるが、別の問題は解けない。
情報のテレポーテーション
- 量子には不思議な性質がある。
- 瞬時に状態が伝わって変化する。常に対になっている。
- 例えば、一方が右回りの電子なら、他方は左回りの電子である。
- 電子殻には右回りの電子と左回りの電子が共存できる。
- 右回りの電子を左回りにすると、他方も入れ替わって右回りの電子になる。
- 対になっており、一方を観測した瞬間に他方が確定する。
- 一方が1なら他方は0、一方が0なら他方は1になる。
- これを「量子のもつれ」と呼ぶ。
- コインの表と裏が表裏一体な状態にも似ている。
- 量子のもつれではないがわかりやすい例を紹介しよう。
- 静電気で考えてみよう。
- 誘電体という絶縁物質がある。はじめは電荷をもっていない。
- プラスの電荷を帯びた鉄の玉を近づけると近い側にマイナスの電荷を帯び始める。
- マイナスの電荷を帯びた鉄の玉を近づけると近い側にプラスの電荷を帯び始める。
- 鉄の玉と誘電体は離れているのに、反対の状態が現れる。
- つまり情報が伝わる。しかも瞬時に伝わる。
- 量子も似たような性質がある。
問題解決と次元の関係
- 数学の世界では一般的にn個の答えを知りたければn次元の方程式を解かなければならない。
- あるいは一つ上の次元で考えると、簡単になる。3次元にいる我々は、線(1次元)や平面(2次元)を理解できる。上の次元にいるからである。
- 3次元(時間を含めた時空で考えるなら4次元)の世界に暮らす我々は宇宙という殻の中にいる。
- 殻の中にいる以上、殻の外側を確認することはできない。宇宙の外を確認する方法がない。もし殻の外から確認することができれば、簡単に宇宙を知ることができる。
- 数学とは思考の道具であり、思考上なら殻を破ることができる。思考に限界や制限はない。
- こうして数学ではいろいろな殻を破る方法を編み出してきた。数学の拡張である。はじめは単純なものだった。
- 実在するお金は正(プラス)の整数しかない。しかし数学上で借金という負(マイナス)のお金を考えだした。正から負への拡張である。
- その後、整数から実数、実数から複素数(虚数)、と拡張してきた。
- 虚数はその名の通り、ありもしない数である。しかし一時的にありもしない数の手を借りると物事を簡単に理解できるようになる。
- 電気の世界では虚数を利用すると不思議な現象を簡単に理解できる。虚数を使わないと理解に苦しむ。
- 微分(方程式)、積分(方程式)は次元を上げ下げする手法である。
- 一旦、問題の次元を積分(方程式)で上げて、考え方を拡張すると簡単になる、最後に微分して元の次元に戻すと解を得られる。
- 微分、積分という手法は問題解決を容易にする手段である。
- 同様に科学の世界も拡張してきた。はじめは単純なものであった。リンゴが落ちるのをみて、力が働いていると考えた。
- 重さがあると空間が落とし穴のようにゆがむ。地球の重さが作る落とし穴に、リンゴが落ちただけである。
- 電気は見えない。そもそも確認しようがない。雷も電気が通った時に発せられる光を見ているだけなので、電気を直接見ているわけではない。
- 電気は電子の流れであるという考え方を発見(発明)した。間接的な事実によって電気は電子の流れであると確認した。
- 誰も電子を見た人はいない。発見した本人でさえ見たわけではない。見て確認したわけではないが、そう考えると理屈があう。
- ※電子顕微鏡は電子の流れを利用したものであり、電子自身を見ることはできない。電子より大きいものしか確認できない。
- ※小さいもので大きなものを測ることはできるが、大きいもので小さいものを測ることはできない。1mmの目盛りの定規で1umを測定することはできない。
- 誰もが確かめても理屈が合う。理屈を覆せる人がいない。誰も否定できない。長い歴史の中で耐え抜いてきた理論が科学的に正しいものとして存続していく。
- 科学的な理論は未来永劫、正しいかどうかはわからない。現時点で正しいとしかいえない。誰かが否定できたとき、理論は崩れ去る。
- 歴史的にみると、否定された科学理論は多い。天動説は観測から否定され、地動説が正しいとわかった。
- 昔、空間はエーテル(化学物質のエーテルではない)で満たされていると考えていた時代もある。
- 重いものが先に落ちるという科学常識を、1638年ガリレオが「落体の法則」を「新科学対話」で発表して打ち破った。
- 現在の宇宙論ではダーク・マター、ダーク・エネルギーがあるはずだと探している。まだ見つかってはいない。
- 我々が暮らしているマクロな世界の常識がミクロな世界では通用しない。
- ミクロの世界で古典的なアプローチ(マクロの常識)を試みたが通用しなかった。そこで考え方を拡張し、量子的な考え方に拡張した。
- 物事を観察するとき、一歩下がって客観的にみる(俯瞰で見る)必要がある。
- 問題の中にいると問題を解決できないが、一歩下がって問題の外側からみると問題を解決できる。
- その一つの方法が量子力学である。量子物理学(量子論)といってもよい。
- 量子力学は虚数のように実在していないかもしれないが、考え方を拡張することにより物事を理解する手助けになる。
- ※次元を上げる=殻を破る=外から見る=一歩下がる=拡張する、すべて同じ意味である。この感覚が伝わるであろうか。
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