さまざまな種類の乾電池が出回り、その特性を知ることが、回路設計および電池寿命の見積もりに 欠かせなくなりました。経験的に単三形マンガン電池は約500mAh程度の容量であることを知ってはいますが、 定量的な分析を見かけたことがありません。そこで作成したDMMを使って実測してみました。 DMM にはパソコンに取り込めるソフトがあり、一定時間間隔でCSV形式のファイルに書き出すという データロガー機能を備えています。データを表計算ソフトにかけて処理します。
現在出回っている乾電池の種類をまとめました。もっともよく使われる単三形(SUM3,AA)を前提にしています。
一般名称 JIS型式 一次/二次 公称電圧 正極 負極 電解液 備考 マンガン電池 R6P 一次 1.5V 二酸化マンガン(MnO2) 亜鉛(Zn) 塩化亜鉛(ZnCl) 10本100円などポピュラー アルカリ電池 LR6 一次 1.5V 二酸化マンガン(MnO2) 亜鉛(Zn) 水酸化カリウム(KOH) 4本100円などポピュラー ニッケル電池 ZR6 一次 1.5V オキシ水酸化ニッケル(NiOOH) 亜鉛(Zn) 水酸化カリウム(KOH) 東芝のGigaEnergy、Panasonicのオキシライド リチウム電池 FR6 一次 1.5V 二硫化鉄(FeS2) リチウム(Li) 有機電解液 単三型は富士写真フィルムのみ。EnegizerからのOEM。3000mAH ニッカド電池 KR6 二次 1.2V オキシ水酸化ニッケル(NiOOH) カドミウム(Cd) 水酸化カリウム(KOH) 有害なカドミウムと容量面でニッケル水素電池へ代替 ニッケル水素電池 HR15/51 二次 1.2V オキシ水酸化ニッケル(NiOOH) 水素吸蔵合金(MH) 水酸化カリウム(KOH) 小型大容量、急速充電 リチウムイオン電池 --- 二次 3.7V コバルト酸リチウム(LiCoO2) 炭素(C) リチウム塩 小型軽量。故障モードが破裂であるため制御が必要
定電流負荷を使って「電圧」「時間」特性を測定すれば、放電容量mAHをすぐに求められます。 放電容量2000mAHとは放電終止電圧に達するまで0.2C(400mA)で5時間放電を続けられるという意味です。 電流と時間の積で表されることから、電流がわかれば放電時間をある程度見積もることができます。 使われ方によって放電容量は変わります。 放電終止電圧は二次電池では1.0Vを想定していることが多く、一次電池では0.9Vを想定しています。 これは電池の特性から、どこまでの電圧までなら安定に使えるかに起因します。 ここでは固定抵抗を使って「特性」と「放電容量」を測定します。 一分間隔で負荷電圧を測定することで、その区間内の電流がわかります。 これを放電終止電圧に達するまで積算すれば放電容量を求められます。
放電容量[mAH] = Σ(E / R / 60min x 1000mA)
ここでは4つ電池を比較します。
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※公称容量の90%を急速充電します。
一般名称 メーカー 単価 マンガン電池 100円ショップ、6本100円 17円 アルカリ電池 100円ショップ、4本100円 25円 ニッケル電池 Panasonic オキシライド、4本500円 125円 ニッケル水素電池 POWERLOOP 2000mAH、急速充電器使用※ 200円
放電特性に「固定抵抗」を使うのはなぜというお問い合わせがありましたので、 お答えしたいと思います。一部の例外を除き、一般論になります。
●実際の電子機器は「一般的に」「定電流負荷(定消費電流)」ではない
規定されている放電容量の測定方法は確かに、「定電流負荷」です。 しかし、世の中に存在する電池駆動の電子機器は「定電流負荷」ではありません。 電池電圧が下がれば、消費電流も下がるのが一般的です。その証拠に電池駆動の モータは電圧が下がると電流も下がります。懐中電灯も同様です。 ラジオは音量により電流が変化しますが、電池電圧が下がればやはり平均消費電流は下がります。 このように実生活においては一部の例外を除き、定電流負荷(定消費電流)ではありません。 世の中に存在する電池駆動の電子機器はむしろ固定抵抗に近い振る舞いをします。 固定抵抗の場合、オームの法則から、駆動電圧が下がれば消費電流も下がります。 ただし正常動作範囲において、消費電流が1/100になるなど極端に変わるものでもありません。 (最近のデジタル機器ではスリープ機能により、待機電流を最小にすることがあります。これは例外です。) 一般的に駆動電圧が半分になれば、消費電流も半分になるといった程度です。 実態とかけ離れた測定をしても意味がありません。実態に則した測定方法が有益です。
●固定抵抗を使用しても電流変動は小さい
固定抵抗(1Ω)を使用した場合、二次電池は 1.3V(初期電圧) から 1.0V(終始電圧)に変化しますが、 この時の消費電流は 1.3A から 1.0A の変動しかありません。 これはほぼ定電流負荷と言っても差し支えないでしょう。 大きく見積もっても電流の変動幅は30%しかありません。 つまり、固定抵抗を使用しても定電流負荷とさほど変わりはありません。 しかも「区間積算」して放電容量を計測するため、この変動誤差を吸収します。
定電流負荷での放電容量計算方法
- 定電流負荷での測定では電流が一定であるため、電流に終止電圧までの時間を掛け合わせるだけで放電容量を求められます。
- つまり放電容量は単純な面積計算となります。
- 放電容量=定電流 x 時間
固定抵抗負荷での放電容量計算方法
- 一方区間積算は短い区間ごとに放電電流を計算し、それを終始電圧になるまで積算することで放電容量を求めます。
- 放電電流は短期間の小さな面積の合計になります。
- 放電容量=Σ(区間電流 x 区間時間)
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どちらも面積は同じであり、2000mAHの放電容量です。
●根本理由は「理想」ではなく「現実」の放電容量を見積もるため
我々一般人が知りたいのは、厳密に規定された試験環境における「理想の」放電容量ではありません。 むしろ実生活環境における「実際の」放電容量です。理想と現実には差があります。 試験環境のように常に20Cを保つ環境で使用することなどあり得ません。 上記のような考察から、固定抵抗を使用することで実生活環境に近づけ、なおかつ 電流負荷の変動幅も小さいことから、定電流負荷とかけ離れた測定でもなく、 理想と現実の比較もできます。
例えば、理想的には2000mAHの放電容量(つまりは公称容量)であっても実際には20%程度目減りを 予想して使用時間を見積もるなど「現実的な判断」に落とし込むことができます。 理想はあくまで理想です。一つの目安にはなりますが、実際には過小評価する必要があります。 自動車の公称燃費もやはり理想であり、実際にはある程度過小評価する必要があります。 出発点から目的地まで時速60kmで走り続けることなど実生活ではありえません。 また理想環境はメーカに有利な条件であり、都合のよい条件でもあります。 嘘ではないものの実状とかけ離れていることもあります。
実環境を考慮し、環境依存性やどの程度の余裕をみておけばよいか、それを把握しておくことが重要です。 我々は研究者ではありませんので、決して厳密性を追求するものでもありません。 むしろ利用者として、理想は理想と理解した上で、現実に有効活用するすべを知ることが重要です。
デジタルカメラ、デジタルビデオに代表される大電流を想定した測定です。 常時1200から1000mAの電流を必要とするレンジです。 デジタル機器はアナログと違い、ある動作電圧を下回ると機能を停止します。 まさにデジタルで、動くか動かないかという二値の状態をとります。 測定負荷として1Ωの抵抗を使用します。
(測定温度は20Cから25Cの範囲、原則購入直後の新品)
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放電終止電圧=1.0V 一般名称 放電容量 放電時間 マンガン電池 0mAH 0:01 アルカリ電池 645mAH 0:34 ニッケル水素電池 1699mAH 1:22 ニッケル電池 867mAH 0:41
放電終止電圧=0.9V 一般名称 放電容量 放電時間 マンガン電池 92mAH 0:01 アルカリ電池 851mAH 0:47 ニッケル水素電池 1731mAH 1:24 ニッケル電池 947mAH 0:46
- マンガン電池が大電流用途に向いていないことが良くわかります。
- このレンジではニッケル水素電池が圧倒的に有利といえます。
CDプレーヤー、MDプレーヤーに代表される中電流を想定した測定です。 常時240から200mAの電流を必要とするレンジです。 測定負荷として5Ωの抵抗を使用します。
(測定温度は20Cから25Cの範囲、原則購入直後の新品)
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放電終止電圧=1.0V 一般名称 放電容量 放電時間 マンガン電池 506mAH 2:10 アルカリ電池 1876mAH 7:50 ニッケル水素電池 1824mAH 7:17 ニッケル電池 1601mAH 6:12
放電終止電圧=0.9V 一般名称 放電容量 放電時間 マンガン電池 601mAH 2:40 アルカリ電池 2038mAH 8:41 ニッケル水素電池 1855mAH 7:27 ニッケル電池 1646mAH 6:26
- マンガン電池も使用できるレンジですが、容量が少ないのは否めません。
- このレンジではオキシライド、アルカリ電池とニッケル水素電池は同容量といえます。
- オキシライドは初期電圧が高いものの、最後はニッケル水素電池と同じような特性を示します。
時計、電卓に代表される小電流は測定時間がかかりすぎるので省略しますが、上記の傾向から想像できます。
- このレンジでは自己放電の問題からニッケル水素電池は向きません。
- アルカリ電池かマンガン電池が向いています。
物事はやはりトータルで考えなければなりません。一見安いようにみえてもトータルでは高くつくかもしれません。 ニッケル水素電池の充電回数500回にそろえて考えてみましょう。 つまりはランニングコストを比較してみます。※電気料金はひとまず無視。4本同時に充電。
一般名称 ランニングコスト トータル放電容量 放電容量/コスト(車の燃費に相当) マンガン電池 単価17円x1541本=26,197円 601mAHx1541本=926,141mAH 35mAH/円 アルカリ電池 単価25円x455本=11,375円 2038mAHx455本=927,290mAH 81mAH/円 ニッケル水素電池 単価200円+充電器4,000円/4本=1200円※ 1855mAHx500回=927,500mAH 773mAH/円 ニッケル電池 単価125円x563本=70,375円 1646mAHx563本=926,698mAH 13mAH/円
- ニッケル水素電池は総合的に考えてお得といえます。
- 次に100円ショップのアルカリ電池がお得です。
- オキシライドはアルカリ電池と容量的にはさほど差がないことからコストが見合いません。
- オキシライドは初期電圧が高いので軽飛行機には確かに向いていますが、それははじめだけであり容量が半分以下になるともう使えません。 寿命が半分になると別の使い方をするか捨てなければならず、このエコの時代に不経済です。
ニッケル水素電池にも欠点があります。欠点を知った上で上手く使いこなしましょう。
自己放電 もっとも考慮しなければなりません。 使用しなくても保存温度20Cで、月に20%程度目減りします (保存温度が高い場合、もっと目減りします)。 保存があまり効かず、生ものといえます。 充電後すぐに使うことが理想です。 使用期間が1年など小電流、長時間使用に向かないのはこのためです。 最近サンヨーから自己放電を抑えたeneloopが発売になりました。 ちなみにアルカリ電池の使用期限は2年です。 メモリ効果 使い切らずに継ぎ足し充電を行うと見かけ上の容量が減る現象です。 実はあまり気にする必要はなく、最悪のケースでも10%程度の目減りしかありません。 急速充電すると容量の90%しか充電せず、すでに10%目減りしており、誤差の範囲といっていいでしょう。 正常な充放電を繰り返しているうちに直るため、 極限まで使いこなそうとしない限り、気にする必要はありません。 充電時間が必要 ニッケル水素電池は二次電池のため充電時間を必要とします。 一次電池はすぐに使えるメリットがあります。 しかしニッケル水素電池の予備を用意し、一方を放電している間にもう一方を充電するなどの 運用でカバーすることができます。 最近では超急速充電器が登場し、単3形2500mAHを15分で80%充電するものまで現れました。 寒さに弱い 0C以下では見かけ上放電容量が目減りします。 極寒地での使用には対策が必要です。常温に戻せば回復します。 劣化 充電回数は公称容量の60%を保つ回数で決められています。 つまり500回充放電を繰り返すと60%になります。 最近ではパルス充電方式で急速かつ電池を傷めず、充電回数を飛躍的に伸ばす方法があります。
SANYOから自己放電を改善したeneloopが発売になりましたので特性を測定してみました。 常温(25-30℃)で保存し、一ヶ月(30日)放置後の放電容量と充電直後の放電容量を比較します。 測定負荷として1Ωの抵抗を使用します。
以下3つを比較します。
※公称容量の90%を急速充電します。
一般名称 メーカー ニッケル水素電池 eneloop、2000mAH、急速充電器使用※ ニッケル水素電池 POWERLOOP、2000mAH、急速充電器使用※ ニッケル水素電池 BetterPower、2500mAH、急速充電器使用※
放電終止電圧=1.0V
一般名称 放電容量 放電時間 容量比 eneloop(充電直後) 1746mAH 1:28 100% eneloop(30日後) 1596mAH 1:23 91.4% POWERLOOP(充電直後) 1564mAH 1:21 100% POWERLOOP(30日後) 1239mAH 1:06 79.2% BetterPower(充電直後) 1537mAH 1:19 100% BetterPower(30日後) 890mAH 0:47 58.0%
- eneloopの実力は本当のようです。室温25-30℃と高めでしたが、一般のニッケル水素電池が半減するところeneloopは9割を保ちました。
- POWERLOOPは若干活性化していなかったようで充電直後の容量が公称容量の78%しかありませんでした。
- BetterPowerは使用頻度が少ないため活性化していなかったようで充電直後の容量が公称容量の61%しかありませんでした。
- 断続的でも2週間を超えて使うのでれば高容量(2500mAH)のニッケル水素電池より、公称容量2000mAHのeneloopの方が有利といえます。 eneloopの目減り率を10%/month、高容量のニッケル水素電池の目減り率を42%/monthと仮定すると約2週間で容量が逆転します。
- eneloopの目減り率を10%/monthとすると半年で半減する計算になります。SANYOの測定では20℃を想定しているため、条件が異なります。
アルカリ電池やオキシライドの自己放電が気になり始めました。 すでに販売を終了したオキシライドを使って自己放電の度合いを測定してみます。
製造年月日の異なるオキシライドを容量測定し、その期間差、容量差から自己放電率を計算します。
自己放電率=容量差/期間差
(測定温度は20Cから25Cの範囲)
その前にオキシライドには2つの種類があります。
名称 使用推奨期限 容量 発売開始 JIS型式 旧オキシライド 2年 1倍 04-2004 ZR6(Y) 新オキシライド 5年 1.2倍 04-2006 ZR6(XJ) ![]()
測定対象
名称 使用推奨期限 製造年月日 放置期間 旧オキシライド 04-2007 04-2005 44ヶ月 新オキシライド 11-2012 11-2007 12ヶ月 ![]()
放電終止電圧=1.0V 名称 放電容量 放電時間 容量比 旧オキシライド 641mAH 0:29 74% 新オキシライド 867mAH 0:41 100%
放電終止電圧=0.9V 名称 放電容量 放電時間 容量比 旧オキシライド 656mAH 0:30 69% 新オキシライド 947mAH 0:46 100% ![]()
放電終止電圧=1.0V 名称 放電容量 放電時間 容量比 旧オキシライド 941mAH 3:16 59% 新オキシライド 1601mAH 6:12 100%
放電終止電圧=0.9V 名称 放電容量 放電時間 容量比 旧オキシライド 953mAH 3:19 58% 新オキシライド 1646mAH 6:26 100%
- 旧オキシライドと新オキシライドの期間差は32ヶ月で、そこから自己放電率は月あたり約1%と計算できます。
- アルカリ電池もほぼ同じ自己放電率と予想されます。
- 月あたり約1%という数字はニッケル水素よりはるかに小さいですが、4年(48ヶ月)で半減する計算になります。
- 使用推奨期限を大きく過ぎた電池はやはり容量抜けするので、保管電池も入れ替えが必要です。
Panasonic から長持ちアルカリ電池が発売されました。外壁を薄くしたり、構造を最適化して高密度化しています。 その実力を検証してみます。(C)2005-2008 All rights reserved by Einstein.
常時400mA前後の電流を必要とするレンジです。これはニッケル水素電池と同等測定条件の0.2C(2000mAHなら400mA)を想定しています。
測定負荷として3Ωと5Ωの抵抗を使用します。
(測定温度は20Cから25Cの範囲、原則購入直後の新品)
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一般名称 メーカー 単価 アルカリ電池 Panasonic エボルタ、4本560円 140円
放電終止電圧=1.0V 名称 放電容量 放電時間 エボルタ-3Ω 1322mAH 3:29 エボルタ-5Ω 1699mAH 7:15
放電終止電圧=0.9V 名称 放電容量 放電時間 エボルタ-3Ω 1508mAH 4:04 エボルタ-5Ω 1782mAH 7:41 ![]()
- エボルタはニッケル水素電池と同じような特性を示します。
- 思ったほど容量がなく、しかも内部抵抗がニッケル水素ほど低くないため大電流にも向いていません。
- 残念なことに、100円ショップのアルカリ電池よりも、約10%も劣っています(上記、中電流特性参照)。コストが見合いません。
- これは実測値でありまぎれもない事実です。他の方も実測して落胆しているようです。
- まさか100円ショップのアルカリ電池がギネスを申請することはないでしょうから誇大広告かもしれませんね。あまり消費者を裏切り続けないほうがよいと思います。