バッテリー比較

■はじめに

さまざまな種類の乾電池が出回り、その特性を知ることが、回路設計および電池寿命の見積もりに 欠かせなくなりました。経験的に単三形マンガン電池は約500mAh程度の容量であることを知ってはいますが、 定量的な分析を見かけたことがありません。そこで作成したDMMを使って実測してみました。 DMM にはパソコンに取り込めるソフトがあり、一定時間間隔でCSV形式のファイルに書き出すという データロガー機能を備えています。データを表計算ソフトにかけて処理します。

■乾電池の種類

現在出回っている乾電池の種類をまとめました。もっともよく使われる単三形(SUM3,AA)を前提にしています。
一般名称JIS型式一次/二次公称電圧正極負極電解液備考
マンガン電池R6P一次1.5V二酸化マンガン(MnO2)亜鉛(Zn)塩化亜鉛(ZnCl)10本100円などポピュラー
アルカリ電池LR6一次1.5V二酸化マンガン(MnO2)亜鉛(Zn)水酸化カリウム(KOH)4本100円などポピュラー
ニッケル電池ZR6一次1.5Vオキシ水酸化ニッケル(NiOOH)亜鉛(Zn)水酸化カリウム(KOH)東芝のGigaEnergy、Panasonicのオキシライド
リチウム電池FR6一次1.5V二硫化鉄(FeS2)リチウム(Li)有機電解液単三型は富士写真フィルムのみ。EnegizerからのOEM。3000mAH
ニッカド電池KR6二次1.2Vオキシ水酸化ニッケル(NiOOH)カドミウム(Cd)水酸化カリウム(KOH)有害なカドミウムと容量面でニッケル水素電池へ代替
ニッケル水素電池HR15/51二次1.2Vオキシ水酸化ニッケル(NiOOH)水素吸蔵合金(MH)水酸化カリウム(KOH)小型大容量、急速充電
リチウムイオン電池---二次3.7Vコバルト酸リチウム(LiCoO2)炭素(C)リチウム塩小型軽量。故障モードが破裂であるため制御が必要

■測定方法

定電流負荷を使って「電圧」「時間」特性を測定すれば、放電容量mAHをすぐに求められます。 放電容量2000mAHとは放電終止電圧に達するまで0.2C(400mA)で5時間放電を続けられるという意味です。 電流と時間の積で表されることから、電流がわかれば放電時間をある程度見積もることができます。 使われ方によって放電容量は変わります。 放電終止電圧は二次電池では1.0Vを想定していることが多く、一次電池では0.9Vを想定しています。 これは電池の特性から、どこまでの電圧までなら安定に使えるかに起因します。 ここでは固定抵抗を使って「特性」と「放電容量」を測定します。 一分間隔で負荷電圧を測定することで、その区間内の電流がわかります。 これを放電終止電圧に達するまで積算すれば放電容量を求められます。
放電容量[mAH] = Σ(E / R / 60min x 1000mA)
ここでは4つ電池を比較します。
一般名称メーカー単価
マンガン電池100円ショップ、6本100円17円
アルカリ電池100円ショップ、4本100円25円
ニッケル電池Panasonic オキシライド、4本500円125円
ニッケル水素電池POWERLOOP 2000mAH、急速充電器使用※200円
※公称容量の90%を急速充電します。
放電特性に「固定抵抗」を使うのはなぜというお問い合わせがありましたので、 お答えしたいと思います。一部の例外を除き、一般論になります。

●実際の電子機器は「一般的に」「定電流負荷(定消費電流)」ではない
規定されている放電容量の測定方法は確かに、「定電流負荷」です。 しかし、世の中に存在する電池駆動の電子機器は「定電流負荷」ではありません。 電池電圧が下がれば、消費電流も下がるのが一般的です。その証拠に電池駆動の モータは電圧が下がると電流も下がります。懐中電灯も同様です。 ラジオは音量により電流が変化しますが、電池電圧が下がればやはり平均消費電流は下がります。 このように実生活においては一部の例外を除き、定電流負荷(定消費電流)ではありません。 世の中に存在する電池駆動の電子機器はむしろ固定抵抗に近い振る舞いをします。 固定抵抗の場合、オームの法則から、駆動電圧が下がれば消費電流も下がります。 ただし正常動作範囲において、消費電流が1/100になるなど極端に変わるものでもありません。 (最近のデジタル機器ではスリープ機能により、待機電流を最小にすることがあります。これは例外です。) 一般的に駆動電圧が半分になれば、消費電流も半分になるといった程度です。 実態とかけ離れた測定をしても意味がありません。実態に則した測定方法が有益です。

●固定抵抗を使用しても電流変動は小さい
固定抵抗(1Ω)を使用した場合、二次電池は 1.3V(初期電圧) から 1.0V(終始電圧)に変化しますが、 この時の消費電流は 1.3A から 1.0A の変動しかありません。 これはほぼ定電流負荷と言っても差し支えないでしょう。 大きく見積もっても電流の変動幅は30%しかありません。 つまり、固定抵抗を使用しても定電流負荷とさほど変わりはありません。 しかも「区間積算」して放電容量を計測するため、この変動誤差を吸収します。

定電流負荷での放電容量計算方法
固定抵抗負荷での放電容量計算方法
どちらも面積は同じであり、2000mAHの放電容量です。

●根本理由は「理想」ではなく「現実」の放電容量を見積もるため
我々一般人が知りたいのは、厳密に規定された試験環境における「理想の」放電容量ではありません。 むしろ実生活環境における「実際の」放電容量です。理想と現実には差があります。 試験環境のように常に20Cを保つ環境で使用することなどあり得ません。 上記のような考察から、固定抵抗を使用することで実生活環境に近づけ、なおかつ 電流負荷の変動幅も小さいことから、定電流負荷とかけ離れた測定でもなく、 理想と現実の比較もできます。
例えば、理想的には2000mAHの放電容量(つまりは公称容量)であっても実際には20%程度目減りを 予想して使用時間を見積もるなど「現実的な判断」に落とし込むことができます。 理想はあくまで理想です。一つの目安にはなりますが、実際には過小評価する必要があります。 自動車の公称燃費もやはり理想であり、実際にはある程度過小評価する必要があります。 出発点から目的地まで時速60kmで走り続けることなど実生活ではありえません。 また理想環境はメーカに有利な条件であり、都合のよい条件でもあります。 嘘ではないものの実状とかけ離れていることもあります。
実環境を考慮し、環境依存性やどの程度の余裕をみておけばよいか、それを把握しておくことが重要です。 我々は研究者ではありませんので、決して厳密性を追求するものでもありません。 むしろ利用者として、理想は理想と理解した上で、現実に有効活用するすべを知ることが重要です。

■大電流特性

デジタルカメラ、デジタルビデオに代表される大電流を想定した測定です。 常時1200から1000mAの電流を必要とするレンジです。 デジタル機器はアナログと違い、ある動作電圧を下回ると機能を停止します。 まさにデジタルで、動くか動かないかという二値の状態をとります。 測定負荷として1Ωの抵抗を使用します。
(測定温度は20Cから25Cの範囲、原則購入直後の新品)

放電終止電圧=1.0V
一般名称放電容量放電時間
マンガン電池0mAH0:01
アルカリ電池645mAH0:34
ニッケル水素電池1699mAH1:22
ニッケル電池867mAH0:41
放電終止電圧=0.9V
一般名称放電容量放電時間
マンガン電池92mAH0:01
アルカリ電池851mAH0:47
ニッケル水素電池1731mAH1:24
ニッケル電池947mAH0:46

■中電流特性

CDプレーヤー、MDプレーヤーに代表される中電流を想定した測定です。 常時240から200mAの電流を必要とするレンジです。 測定負荷として5Ωの抵抗を使用します。
(測定温度は20Cから25Cの範囲、原則購入直後の新品)

放電終止電圧=1.0V
一般名称放電容量放電時間
マンガン電池506mAH2:10
アルカリ電池1876mAH7:50
ニッケル水素電池1824mAH7:17
ニッケル電池1601mAH6:12
放電終止電圧=0.9V
一般名称放電容量放電時間
マンガン電池601mAH2:40
アルカリ電池2038mAH8:41
ニッケル水素電池1855mAH7:27
ニッケル電池1646mAH6:26

■小電流特性

時計、電卓に代表される小電流は測定時間がかかりすぎるので省略しますが、上記の傾向から想像できます。

■TCO(Total Cost of Ownership)

物事はやはりトータルで考えなければなりません。一見安いようにみえてもトータルでは高くつくかもしれません。 ニッケル水素電池の充電回数500回にそろえて考えてみましょう。 つまりはランニングコストを比較してみます。
一般名称ランニングコストトータル放電容量放電容量/コスト(車の燃費に相当)
マンガン電池単価17円x1541本=26,197円601mAHx1541本=926,141mAH35mAH/円
アルカリ電池単価25円x455本=11,375円2038mAHx455本=927,290mAH81mAH/円
ニッケル水素電池単価200円+充電器4,000円/4本=1200円※1855mAHx500回=927,500mAH773mAH/円
ニッケル電池単価125円x563本=70,375円1646mAHx563本=926,698mAH13mAH/円
※電気料金はひとまず無視。4本同時に充電。

■ニッケル水素電池のデメリット

ニッケル水素電池にも欠点があります。欠点を知った上で上手く使いこなしましょう。
自己放電 もっとも考慮しなければなりません。 使用しなくても保存温度20Cで、月に20%程度目減りします (保存温度が高い場合、もっと目減りします)。 保存があまり効かず、生ものといえます。 充電後すぐに使うことが理想です。 使用期間が1年など小電流、長時間使用に向かないのはこのためです。 最近サンヨーから自己放電を抑えたeneloopが発売になりました。 ちなみにアルカリ電池の使用期限は2年です。
メモリ効果使い切らずに継ぎ足し充電を行うと見かけ上の容量が減る現象です。 実はあまり気にする必要はなく、最悪のケースでも10%程度の目減りしかありません。 急速充電すると容量の90%しか充電せず、すでに10%目減りしており、誤差の範囲といっていいでしょう。 正常な充放電を繰り返しているうちに直るため、 極限まで使いこなそうとしない限り、気にする必要はありません。
充電時間が必要ニッケル水素電池は二次電池のため充電時間を必要とします。 一次電池はすぐに使えるメリットがあります。 しかしニッケル水素電池の予備を用意し、一方を放電している間にもう一方を充電するなどの 運用でカバーすることができます。 最近では超急速充電器が登場し、単3形2500mAHを15分で80%充電するものまで現れました。
寒さに弱い0C以下では見かけ上放電容量が目減りします。 極寒地での使用には対策が必要です。常温に戻せば回復します。
劣化充電回数は公称容量の60%を保つ回数で決められています。 つまり500回充放電を繰り返すと60%になります。 最近ではパルス充電方式で急速かつ電池を傷めず、充電回数を飛躍的に伸ばす方法があります。

■自己放電特性

SANYOから自己放電を改善したeneloopが発売になりましたので特性を測定してみました。 常温(25-30℃)で保存し、一ヶ月(30日)放置後の放電容量と充電直後の放電容量を比較します。 測定負荷として1Ωの抵抗を使用します。
以下3つを比較します。

一般名称メーカー
ニッケル水素電池eneloop、2000mAH、急速充電器使用※
ニッケル水素電池POWERLOOP、2000mAH、急速充電器使用※
ニッケル水素電池BetterPower、2500mAH、急速充電器使用※
※公称容量の90%を急速充電します。

放電終止電圧=1.0V
一般名称放電容量放電時間容量比
eneloop(充電直後)1746mAH1:28100%
eneloop(30日後)1596mAH1:2391.4%
POWERLOOP(充電直後)1564mAH1:21100%
POWERLOOP(30日後)1239mAH1:0679.2%
BetterPower(充電直後)1537mAH1:19100%
BetterPower(30日後)890mAH0:4758.0%





■オキシライドの自己放電

アルカリ電池やオキシライドの自己放電が気になり始めました。 すでに販売を終了したオキシライドを使って自己放電の度合いを測定してみます。
製造年月日の異なるオキシライドを容量測定し、その期間差、容量差から自己放電率を計算します。
自己放電率=容量差/期間差
(測定温度は20Cから25Cの範囲)

その前にオキシライドには2つの種類があります。
名称使用推奨期限容量発売開始JIS型式
旧オキシライド2年1倍04-2004ZR6(Y)
新オキシライド5年1.2倍04-2006ZR6(XJ)

測定対象
名称使用推奨期限製造年月日放置期間
旧オキシライド04-200704-200544ヶ月
新オキシライド11-201211-200712ヶ月

放電終止電圧=1.0V
名称放電容量放電時間容量比
旧オキシライド641mAH0:2974%
新オキシライド867mAH0:41100%
放電終止電圧=0.9V
名称放電容量放電時間容量比
旧オキシライド656mAH0:3069%
新オキシライド947mAH0:46100%

放電終止電圧=1.0V
名称放電容量放電時間容量比
旧オキシライド941mAH3:1659%
新オキシライド1601mAH6:12100%
放電終止電圧=0.9V
名称放電容量放電時間容量比
旧オキシライド953mAH3:1958%
新オキシライド1646mAH6:26100%

■エボルタ(EVOLTA)

Panasonic から長持ちアルカリ電池が発売されました。外壁を薄くしたり、構造を最適化して高密度化しています。 その実力を検証してみます。
常時400mA前後の電流を必要とするレンジです。これはニッケル水素電池と同等測定条件の0.2C(2000mAHなら400mA)を想定しています。
測定負荷として3Ωと5Ωの抵抗を使用します。
(測定温度は20Cから25Cの範囲、原則購入直後の新品)
一般名称メーカー単価
アルカリ電池Panasonic エボルタ、4本560円140円

放電終止電圧=1.0V
名称放電容量放電時間
エボルタ-3Ω1322mAH3:29
エボルタ-5Ω1699mAH7:15
放電終止電圧=0.9V
名称放電容量放電時間
エボルタ-3Ω1508mAH4:04
エボルタ-5Ω1782mAH7:41
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