AD00031,AD00032ヘッドホン・アンプ
- 2014-05-09 初版
- 2014-09-30 第2版
- 2014-10-10 第3版
- 2014-10-25 第4版 電圧帰還、電流帰還の解説追加
- 2014-11-14 第5版 出力電力比較の解説追加
- 2014-12-11 第6版 OPアンプ追加
- 2015-04-03 第7版
- 2015-05-05 第8版 スピーカーの等価回路追加
- 2015-07-28 第9版
はじめに
- 開発にいたった経緯や開発中の困難などを、時にユーザ目線、時に開発者目線で綴ってみようと思います。
- 気がついたときに追記するので、内容を変更するかもしれません。
- こだわりであったり、常識への挑戦もあります。
- 時に難しい技術の話をするかもしれませんが、読み飛ばしてください。
- 企業秘密もあるため、公開できない情報(回路図など)もあります。
- 最新技術に関してはいつの時代も賛否両論があります。
- 薬には効能もありますが、副作用もあります。逆にいえば副作用のない薬はありません。
- 使い方次第で有益にも悪にもなります。
- ノーベルはダイナマイトの平和的な利用を期待していましたが、兵器という悲しい現実に悩まされました。
- アインシュタインは放射線の平和的な利用を期待しましたが、原爆という悲しい現実に悩まされました。
- できるだけ、科学的な客観的な事実(=真実)を記述します。真実とは残酷で、好き嫌いに関わらず、受け入れざるをえません。
- 現在、ボルテージ・アンプ(電圧増幅器)がパワーアンプ(電力増幅器)の代用として使われています。
- ここでは代用品ではなく、パワーアンプ(電力増幅器)を紹介します。
関連情報
著作権と免責事項
- 個人利用に限定され、著作権者の許可なく商用利用できません。
- 直接間接に関わらず、使用によって生じたいかなる損害も筆者は責任を負いません。
- 仕様は予告なく変更されることがあります。
ご購入いただいた方へ
- 感謝の声を多くいただき、ありがとうございます。
- ヘッドホンからの豊かな音に驚いたことでしょう。
- もっと性能のよいヘッドホンをほしくなってしまうかもしれません。
メーカーの方へ
- キー・テクノロジーであるLIIEテクノロジーの解説書を用意しています。
- アンプにイノベーションをもたらすLIIEを導入すると差別化できます。
- LIIEは汎用性が高くほとんどのアンプに適用できます。
- NDAが必要です。
- メールにてお問い合わせください。
「音の良し悪し」と「性能の良し悪し」
- まず大前提があります。
- 「音」については感覚的な問題があり、その感覚的な評価は個人にゆだねられます。
- どう感じるかは本人にしかわかりません。好き嫌いがあります。
- 他人が悪い音だと評価しても、本人にとっては良い音と感じるかもしれません。
- 本人が良い音、悪い音と評価したなら、他人はそれを否定できません。
- 個人によって、評価や見解が異なります。どちらが正しいという答えがありません。
- ピーマンを嫌いな人に、ビタミンが豊富だからと言ってピーマンを好きになれと強要することはできません。
- ピーマンの好き嫌いがあります。
- これを認めないと不毛な議論に陥ってしまいます。
- 一方で、性能に関しては計測器で値を知ることができ、客観的な事実があります。
- 科学的な事実については正しい答えがあります。
- 「音の良し悪し」と「性能の良し悪し」は別です。
- たとえどんなに性能が良くても嫌いな音は嫌いです。たとえどんなにビタミンが豊富であってもピーマンを嫌いな人は嫌いです。
- 例を挙げましょう。
- 最近、若者のたむろを撃退するモスキート音(大人には聞こえない高音15kHz以上)を発生させるオーディオ装置があります。
- 15kHz以上を再生できる優れたオーディオ装置であってもそこから出力される高音を若者は嫌い、逃げていきます。
- いずれ大人(統計によれば25歳くらい)になり、耳の特性が劣化します。
きっかけ
- 携帯音楽プレーヤーや携帯電話の普及に伴い、音を持ち出す機会が増えました。
- ところが携帯性を重視しているため、音質よりも小型化を優先しなければなりませんでした。
- また持ち出さずに自宅での利用も多くなりました。
- 音質について納得のいかないことが多く、不満でした。
- どうして低音を再生しないのだろうか。そんな単純な疑問からでした。
- 納得がいかないなら、自分で納得のいくアンプを作るしかありません。
- こうした不満が原動力となりました。
- 幸いにして昔から暖めていた秘策アイデアがありました。
- 当時、それを実現する設計方法がありませんでした。
皆さんの要望から誕生
- 性能や特性の確認を終え、少し技術を紹介しました。
- すると、みなさんから、是非実用化してほしいとの要望を多くいただきました。
- 少し技術のわかる方からは、確かに今のアンプは理論的につじつまが合っていないとの意見もいただきました。
- 大手のメーカーからではなく、独自販売をしてほしいとの要望もありました。
- どうも大手の製品は音作りに色があるようで、それを嫌ってのご意見でした。
- いずれはどのメーカーもこの技術を採用することになるでしょう。そうなってほしいとも思います。
- キットにするのであればケースをつけてほしいとの要望も強くありました。
- 最近のキットはケースのないむき出しの基板がほとんどで、使い勝手が悪く、作ったはいいけど使わなくなります。
- こうした多くのご意見、要望にこたえるべく、まずはキットを企画しました。
- もちろん最低限ケースありきです。
- とはいえ、開発費や製造費などありません。当初はクラウド・ファンディングの利用も考えました。
- 大手メーカーさんと違い、潤沢な資金はありません。
- おいそれとは行かず、万一売れなかった場合、在庫を抱え、借金も抱えなければならないという二重苦になります。
- そんなときビットトレードワンさんに試作機を聞いてもらったところ、是非やりましょうと盛り上がりました。
- ここからさまざまな苦労が始まりました。
- いろいろ大人の事情も知りました。見えないところでさまざまなコストが発生します。
- まずはケースの選定やデザインをビットトレードワンさんが行い、がんばっていただきました。
- 小ロットではケースの加工費がケース代を超えるという妙なコスト構造に相当苦労させられました。
- 中身の部品代よりもケース関連のコストが大きいという現状は変わりませんが、なんとかコストダウンしました。
- ※実は自動車もエンジンより車体のデザイン費用の方が大きいと聞いています。
- 使用している部品会社が買収され、納期がいつになるかわからないという想定外のトラブルもありました。
- なんやかんやありつつも発売にいたりました。
- 販売を開始してみると予想外の売れ行きで、初回ロットがあっという間に完売し、次のロット生産が間に合わないといううれしい誤算でした。
キットから一般販売へ
- もともとAD00031はキットであるため、電子工作を趣味とする方を対象にしていました。
- 一般の方を対象にした市販を考えていませんでした。
- ところが一般の方からも是非使ってみたいという声を多くいただきました。
- 完成品の要望を多くいただきました。
- そこで要望にこたえるべく、AD00032という市販品を企画しました。
- 市販には更なる障壁がありました。
- まずは市販に耐える使いやすさが必要でした。
- キットで不満の多かった電池交換を容易にするため、ローレットネジ採用などの変更が加えられました。
- もともと電池寿命が長く(通常利用で約一ヶ月)、頻繁に電池交換する必要がないため、あまり考えていませんでした。
- 精度の高い部品への変更も行われました。細かい話ですが基板も変更されています。
- 基板組立て費用やローレットネジ用のネジ穴加工費が増えたり、化粧箱の製造費用など、コストがかさみました。
- コストは常に頭の痛い話です。
- 市販品は化粧箱を条件にしています。これは単に店舗販売で商品を並べるからだけでなく流通に乗せるためです。
- 流通のために箱の強度も要求されます。こうした細かいことをクリアして始めて市販できます。
- 大手メーカーさんと異なり、大量生産できないためコスト的にかなり不利な戦いを強いられています。
- 一方で大手メーカーさんでは出来ないような「こだわり」や「ユーザの要望」を盛り込んでいます。
- こうしてユーザ目線と開発者目線の狭間で葛藤と矛盾が生じます。
- もともと機能や性能を良くしようとするとコストがかかり、両者は相容れません。
- いろいろな制約がある中、大手には出来ないことを目指します。
比較
- AD00031とAD00032の比較です。
- キットは改造が可能です。
AD00031 | AD00032 |
キット | 完成品 |
カーボン皮膜抵抗(5%) | 金属皮膜抵抗(1%) |
一般電解コンデンサ | 音響用電解コンデンサ |
ネジ、ドライバーで電池交換 | ローレットネジ、手で電池交換 |
OPアンプ
- AD0003xはOPアンプを交換可能です。
- 自分好みの音を探すことができます。
- OPアンプには特長があります。
- 低電源電圧、低歪、低ノイズ、低オフセット電圧、GB積など
- 最低動作電源電圧が高いと、電池寿命が短くなります。電池電圧が動作に必要な電圧を早く下回るためです。
- GB積が大きいほど高周波特性が良くなります。一方で高周波特性が良すぎると発振しやすい欠点があります。
- OPアンプの中にはユニティ・ゲイン(代表例はボルテージ・フォロア)で使用できないものがあります。
使用可能OPアンプ
- LM358N(±1.5V以上、GB積=1MHz、使用できるがノイズが大きい。NJM4580DDがいかに優秀かわかります。)
- LM4562NA(±2.5V以上、GB積=55MHz)
- LME49720NA(±2.5V以上、GB積=55MHz)
- LME49860NA(±2.5V以上、GB積=55MHz)
- NJM5532DD(±3V以上、GB積=10MHz、ニッケル水素電池では使用不可)
- NJM2114DD(±3V以上、GB積=13MHz、ニッケル水素電池では使用不可)
- NJM4580DD(±2V以上、GB積=15MHz)
- NJM4556AD(±2V以上、GB積=8MHz、消費電流がやや大きい)
- NJM4556ADD(±2V以上、GB積=8MHz、消費電流がやや大きい)
- OPA2134(±2.5V以上、GB積=8MHz)
使用可能OPアンプ(計測用アンプ)
- OPA2277PA(±2.0V以上、GB積=1MHz、低オフセット電圧=±50uV)
- LT1112CN8(±1.0V以上、GB積=750kHz、低オフセット電圧=±60uV)
使用不可OPアンプ(電源電圧不足のため動作保証されない)
- MUSES01(±9V以上)
- MUSES02(±3.5V以上)
- MUSES8820D(±3.5V以上)
- MUSES8920D(±3.5V以上)
- OPA2604AP(±4.5V以上)
- OP275GP(±4.5V以上)
- NJM072D(±4V以上)
- NJM2043DD(±4V以上)
- NJM2068DD(±4V以上)
- NJM4562D(±4V以上)
使用不可OPアンプ(単電源OPアンプのため)
- LMC662CN
- NJM2119D
- NJM2732D
- NJM2737D
- NJM3414AD
- NJM13404D
- LMC6482AIN
- NJU7032D
- NJU7043D
- NJU7062D
- NJU7072D
- NJU7096D
ユニティ・ゲインとアンプの設計
- MUSES8832EやAD8397は低電源電圧(±1.5Vから)で動作しますが、デメリットとしてユニティ・ゲイン(増幅度=1倍)で使用できません。
- このことはデータシートに記述されています。
- ヘッドホンアンプは通常2倍から3倍の(電圧)増幅度であるため、ユニティ・ゲインに近い設計をします。
- そのため、ユニティ・ゲイン不可のOPアンプを避けたほうが安全です(プロが設計する場合を除く)。
- これらのOPアンプは表面実装タイプしか存在せず、工業利用を前提にしています。
- (ユニティ・ゲインで使用できるOPアンプにはUnity Gain stableなどの記述があります。)
- なぜユニティ・ゲインで使用できないのかは内部構造に起因します。
- ユニティ・ゲイン近くで使用するとOPアンプが発振したり、リンギングします。
- 増幅度が低いと不安定になります。
- これらのOPアンプは増幅度=2倍以上(6dB以上)での使用をメーカー推奨しています。
- その上でOPアンプが不安定にならないように、対策が必要です。
- 具体的には電源に発振防止用のパスコンを追加したり、ローパスフィルタを併用(帯域制限)したり、出力の容量負荷を最小になるようにします。
- 実際の設計では安全の余裕をみて増幅度を3倍以上にすると良いでしょう。
- このようにユニティ・ゲイン不可OPアンプの設計はさまざまな考慮をしなければなりません。
- 専用設計になるため、OPアンプの交換はできないと考えたほうがよいでしょう。
実現したかったこと
- それは「電力増幅」です。
- この一言に尽きます。正確にいえば、精度の高い電力増幅です。
- 音に納得いかない理由がすべて凝縮されています。
- いまさらと思うかもしれませんが、現在、電力増幅器の代用として電圧増幅器が使用されています。
- そこで、電圧増幅器ではなく、電力増幅器を実現しました。
- 実際にはもう少し複雑ですが、動作原理を単純化するとこうなります。
低音へのこだわり
- 多くのヘッドホンアンプやポータブルアンプでは電源を簡素化し、単電源構成が一般的です。
- 単電源で音声である交流(±の電圧)を扱うためには、動作基準になるDC電圧を内部で設定します。
- 入出力の前後でこのDCをカットするためにカップリングコンデンサを必要とします。
- ところがこのカップリングコンデンサはハイパスフィルタを構成してしまうため、どうしても低音が低下します。
- 特に出力側はインピーダンスが低いため、低音への影響が大きいことが知られています。
- そこでコンデンサの容量を大きくしてできるだけ、低音低下を防ごうとするわけです。
- つまり単電源構成のために低音を犠牲にしています。
- そこで、そもそも両電源構成にしてカップリングコンデンサを排除しました。
- これをDCアンプとも呼びます。交流ACだけでなく、直流DCも出力できるからです。
- こうした面倒な設計は一般的なヘッドホンアンプでは採用しません。2つの電源を必要とするからです。
- 電池駆動であれば可能です。
- この設計効果は大きく、低音を犠牲にすることがないため、重低音まで出力できます。
- オーディオ機器の中にはDCサーボ機能を併用したものもありますが、オペアンプの高性能化のおかげでDCサーボは不要です。
- DCサーボとはオフセット電圧を打ち消す(最小化する)回路です。
- これは単電源構成の出力部です。わかりやすいように単純化しています。インダクタ成分などは省略しています。
- カップリングコンデンサCとスピーカーのインピーダンスRでCRハイパスフィルタを構成してしまいます。
- ハイパスフィルタとは高音を通し、低音を通しにくいという性質があります。
- フィルタの特性を計算してみるとわかりますが、上記の例でカットオフ周波数が約20Hzです。
- カットオフ周波数とは平坦な位置から-3dB下がる周波数です。
- すでに20Hzで-3dBも下がります。実際には100Hzくらいから徐々に影響します。
- 入力側はインピーダンスが高いので十分低いカットオフ周波数になるため低音にあまり影響しません。
- 典型例としてC=10uF、R=10KΩでカットオフ周波数を計算してみると良いでしょう。
- 通常のライン入力のインピーダンスは10KΩのオーダーです。高すぎるとノイズを拾います。
- このように、入力側ではなく出力側のカップリングコンデンサを排除することが、低音の改善につながります。
ヘッドホンアンプのメリットとデメリット
メリット
- なぜヘッドホンアンプを追加すると音質が改善するのでしょうか。疑問に思っている方も多いでしょう。その理屈を単純化して解説します。
- 専用設計のヘッドホンアンプはヘッドホンをドライブする能力が高いことが理由ですが、それ以外に大きな理由があります。
- 上記の低音へのこだわりで解説したように、出力カップリングコンデンサCがあるとヘッドホンのインピーダンスRでCRハイパスフィルタを構成してしまいます。
- これにより音楽プレーヤーに直接ヘッドホンを接続すると、低音が劣化します。
- 図の例では50Hz以下が劣化します。
- ところが音楽プレーヤーとヘッドホンの間にヘッドホンアンプを追加すると状況が変わります。
- 一旦、ヘッドホンアンプの入力で受けるため、CRハイパスフィルタが改善されます。
- 図の例では1.6Hzですから実質的にハイパスフィルタはないも同じです。
- ヘッドホンアンプの出力カップリングコンデンサを排除しているので、そのままフィルタを構成することなくヘッドホンへ出力します。
- こうしてヘッドホンアップを追加するだけで低音の劣化を防止できるわけです。
デメリット
- 良いことばかりではなく、デメリットもあります。
- ヘッドホンアンプは増幅器であるため、もともと音楽プレーヤーにホワイトノイズがあるとそれも増幅します。
- ヘッドホンアンプではなく、音楽プレーヤー側に原因があります。
- さらに音楽プレーヤーによっては、負荷の重い(つまりはインピーダンスが低い)ヘッドホンを前提にしていることがあります。
- そのため負荷を軽くすると、音楽プレーヤーがホワイトノイズを発生することがあります。
- ヘッドホンアンプを追加することで負荷が軽くなり、今まで抑えられていたホワイトノイズが表面化します。
- ホワイトノイズを重いおもりで抑えつけていたのですが、軽いおもりになって噴出したわけです。
- このようにヘッドホンアンプを追加したために、音楽プレーヤーがホワイトノイズを発生するようになります。
- ライン出力を想定していない、音楽プレーヤーでこのようなことが起こります。
- ※すべての音楽プレーヤーで発生するわけではありません。
出力バッファーへのこだわり
- 一般的なヘッドホンアンプはオペアンプの出力をそのまま利用しています。出力バッファーを省略しています。
- しかしオペアンプの最大出力電流はそれほど大きくありません。
- 低歪、高精度なオペアンプほど出力電流は小さい傾向にあります。
- 電力を供給するためには電圧だけでなく、電流も必要です。
- そのため少し大きい音で出力がクリップして音割れを起こします。音が歪みます。
- 電源電圧が低いことも影響しています。
- この現象はシミュレーションの段階で確認しており、出力バッファーが必要との結論に達しました。
- オペアンプを交換して楽しむ場合はなおさらです。
- 出力負荷が大きいとオペアンプ本来の能力を発揮できません。
- 出力バッファーがあるおかげで、オペアンプを交換しても能力が引き出されます。
- こうした面倒な設計は一般的なヘッドホンアンプでは採用しません。
- 出力バッファーはSEPP(Single Ended Push-Pull)で構成されています。
- このバイアス部はコスト削減のため一般的にダイオードで代用します。
- ダイオードもトランジスタも同じシリコンでありバイアス電圧は約0.65Vであることを前提にしているからです。
- しかしダイオードとトランジスタではバイアス電圧がわずかにずれるため、波形が乱れることがあります。
- 半導体は型番が異なれば特性が異なります。同じ型番であってもロットが異なればわずかに特性が異なります。
- そこで贅沢に、バイアス部にも同じトランジスタを使いました。特性をあわせることにより波形の乱れを抑えています。
- もちろんトランジスタはPNPとNPNで特性のそろったコンプリメンタリ・トランジスタを使用しています。
- こうした贅沢な設計は一般的なヘッドホンアンプでは採用しません。
- もう一つ重要な事実を記述します。
- この出力バッファーがあるからと言って電力増幅になるわけではありません。
- 専門書ではオペアンプで電圧増幅し、出力バッファーで電流増幅すると解説しています。
- だからといって、電力増幅するわけではありません。ここをよく勘違いします。
- 出力バッファーは電圧増幅に必要な電流を供給するだけです。
- 実際にこの構成だけで出力電力を計測すると、負荷の影響を受けて正しく電力増幅していません。
- 電力増幅するためには更なる工夫が必要です。
スピーカーの等価回路
- スピーカーのインピーダンスは周波数によって変動します。
- スピーカーをシミュレーションするための等価回路(SPICEモデル)があります。
- いろいろなモデルがありますが、典型的なモデルを示します。
- 電気的インピーダンスは基本特性と高音のインピーダンスを決定します。
- 機械的インピーダンスは低音共振周波数を決定します。
- さまざまな要因によりインピーダンスは変動しますが、このモデルは概ね特性を表現しています。
- シミュレーション(理想)と実際(現実)にはわずかな違いがありますが、理屈を理解するのに役立ちます。
- 電気的とは主にボイスコイルの特性です。直流抵抗とコイルによるインダクタンスです。
- この直流抵抗はテスターで測定できます(代表例は8Ω)。インダクタンスも測定器があれば測定できます(大体50uHから400uHの範囲)。
- 機械的とは主にダンパーやエッジのバネ特性です。
- このほかにもエンクロージャーによってもインピーダンスは変動します。イヤホンの場合は内耳の構造にも左右されます。
- イヤホンは口径が小さいため、バネ特性が高い周波数(3kHzから5kHzくらい)に現れます。小さなバネなので影響も小さいです。
- このシミュレーション例を示します。
- 実線がインピーダンス、点線が位相です。
- 機械的インピーダンスを省き、この部分をショートさせると低音共振周波数が消えます。
- 位相とは交流の波の時間的なズレ(進みや遅れ)です。0度を基準にします。0度であることが理想です。
- 簡単にいえば本来あるべき波より実際の波(振動板)が進んだり遅れたりします。ズレといっても波形の半分くらいの程度です。
- この位相をみると振動板の様子がわかります。
- コイル(インダクタ)は低い周波数を通し、高い周波数を通しにくい性質があります。
- そのため、周波数が高くなるにつれ位相が遅れ(たとえば+70度)ます。これは本来の電気信号と比べて振動板の動きが遅れることを意味します。
- (正確にいえば、本来あるべき電気信号が負荷の影響をうけて電気信号そのものが遅れます。)
- 高音では振動板が電気信号に追従できなくなり、電圧駆動では音量不足になります。
- 一方、バネによる低音共振ではその前後で急激に位相反転します(たとえば-50度から+50度)。
- 位相が進みすぎても遅すぎても、振動板が電気信号に追従しないため、電圧駆動では音量不足になります。
- 簡単にいえば位相が進みすぎても遅すぎても、電圧駆動では制御しきないことを意味します。
- スピーカーが暴走しているとはいいませんが、振動板が電気信号の指示に従わないわけです。
- インピーダンスが高くなるということは、抵抗が増えるということであり、文字通り電気信号に抵抗します。
- 多くの場合、音圧周波数特性をみると低音共振周波数(f0)ではすでにフラットな位置から数10dB下がります。
- 低音共振周波数(f0)はスピーカーの低音限界の目処といわれていますが、すでにかなり音量が小さくなります。
- 電圧駆動ではなく電力駆動すると音量が改善されます。
- 厳密にいえば振動板が電気信号に追従しても空気振動が追従するとは限りません。
- つまり振動板が流体である空気を正しく振動させられるかという更なる課題があります。
- さてスピーカーの等価回路を紹介したのには訳があります。
- スピーカーは純粋な抵抗成分だけではなく、インダクタ成分も含んでいます。
- このことはSEPPと深く関係しています。
- SEPPのバイアス部(ダイオード)にコンデンサが付いているのはなぜでしょうか?不思議に感じた方も多いでしょう。
- このコンデンサは音のカップリング目的ではありません。
- プッシュプルとは、正の波形と負の波形をそれぞれ別のトランジスタで駆動します。
- 正の波形をNPNトランジスタでプッシュ(押す)し、負の波形をPNPトランジスタでプル(引く)します。
- 独立して駆動することで、信号がないとき常時電流を流す必要がなく、電力変換効率を上げる仕組みです。
- つまり正の波形と負の波形の駆動を切り替えています。
- トランジスタのBEバイアスはダイオードの順方向電圧で補正しており、純粋な抵抗負荷ならゼロボルトで切り替わる限り、問題は発生しません。
- 実際にはスピーカーにインダクタ成分を含んでいるため、切り替わる際にノイズを発生することがあります。
- インダクタ(コイル)はレンツの法則により、電流をオンオフする際に電圧を発生させます。
- つまり、プッシュプルではトランジスタを切り替える際にノイズを発生させることがあります。
- そこでこの切替ノイズを押さえ込むためにコンデンサを追加しています。
- 簡単にいえば、インダクタ負荷で発生するスイッチングノイズを低減する目的です。
- 小さなコンデンサを追加することで、防止することができます。
- 部品とは目的と理由があってつけるものです。
最新設計手法
- 経験は重要ですが、それだけでは克服できないこともあります。
- このアンプの設計には最新技術であるシミュレーションが利用されています。
- 詳しいことは企業秘密ですが、何百回というシミュレーションが行われています。
- 何百回も試作したようなものです。
- 少し前では考えられない手法です。
- 実際に試作しなくても、性能を予測できます。それゆえいろいろなパターンを検証できます。
- 実際に試作する必要もないので、時間短縮にもなります。最適値を絞り込むこともできます。
- とはいえ、実際に何百回もシミュレーションするのは大変な作業でした。
- データを整理し、改良を加えていく作業に、気の遠くなるような時間を費やしました。
- コンピュータ技術の発展した現代だからこそ可能な設計手法です。
- シミュレーションがなければ実現できなかったといっても過言ではありません。
- このアンプの特長である帰還の設計は非常に難しく、簡単に発振してしまいます。
- 簡単に発振してしまうという常識への挑戦でもあります。
- それゆえ容易には実現できなかったわけです。
- 設計の計算式はあるのですが、パラメータが複数あり、複雑すぎて最適解を求めることはできません。
- そこで数多くのシミュレーションにより定数を決定しています。
- 絶妙の定数であり、最適な定数が選ばれています。黄金の定数ともいえます。
- オペアンプを交換しても不安定になることはありません。
- もちろん理想(シミュレーション)と現実には違いがあります。
- 実際に試作して設計どおりの性能を発揮しているか最終確認しています。
- 車の衝突安全設計にもシミュレーションが用いられています。
- 少し前までは実際に車を製造して、実際に衝突させて確認しなければならず、時間もコストもかかっていました。
- 部品を改良しては衝突させてを繰り返していました。時間による実験回数の制約がありました。
- そこでコンピュータ上で構造設計し、衝突シミュレーションを行うようになりました。
- コンピュータ内での衝突実験ですから、何度も条件を変えて行うことができます。
- 短時間に何度も衝突実験を行うことができます。
- これにより安全な構造がわかり、飛躍的に衝突安全性が向上しました。
- もちろん実際に衝突実験をして最終確認します。
帰還(フィードバック)
- 一般的なアンプは負帰還を掛けて、電圧増幅度を押さえ、動作を安定させます。
- 負帰還は安定な方向に働くため、設計は容易です。
- このアンプは電力増幅を実現するために、正帰還も行っています。
- 正帰還は不安定な方向に働き、発信器などに用いられます。
- このため負帰還と正帰還を両立させることは至難の業です。
- 相反する動作のバランスをとりながら、しかも目的の特性を実現しなければなりません。
- 目的の特性とは電力増幅、周波数特性、遅延特性などです。
- アクセルとブレーキを同時に使いながら自動車を運転するようなものです。
- (ハイブリッド自動車はアクセルを戻すと回生ブレーキが働くので、実はアクセルとブレーキを同時に使っています。)
- アンプが発振してしまっては使い物になりません。
- どのようにすれば、安定かつ目的の特性を実現できるのか、そこに大変な苦労があります。
- 帰還に関して懐疑的な意見もあります。私もそうでした。
- 一番の懸念事項は帰還すると時間的な遅れを生じるのではという素朴な疑問でした。つまりは反応速度が遅れるのではという疑問です。
- モーター制御などゆっくりしたフィードバックをイメージしていると当然の疑問です。
- アンプにおけるフィードバック制御とは、電気の速度(光の速度)で行われ、人間の感覚では捉えられないはるかに短い時間で行われます。
- 電気は1m進むのに3.3nsかかります。30cmなら1ns遅れます。ちなみに1nsの周期とは1GHzです。
- 誤解を恐れず、大雑把に解説してみます。実際にはもっと複雑なことが起こっています。
- 仮にフィードバックのない回路の通過経路が30cmの場合、通過時間は1nsです。
- 仮にフィードバックのある回路の通過経路が60cmの場合、通過時間は2nsです。
- 1nsの遅れが2nsの遅れになったとしても、人間の感覚では捉えることができません。
- 初期の増幅回路にはフィードバック制御はなく、不安定なものでした。無制御ですから当然のことです。
- そこで負帰還をかけて増幅回路を安定制御する画期的な発明がなされました。
- 負帰還をかけることで、オペアンプ回路を安定させ、なおかつ周波数特性(GB積と関係)を伸ばすことに成功しました。
- 現在のところ、無帰還より帰還制御したほうがはるかにメリットが大きいといえます。
乾電池へのこだわり
- ポータブル用途には乾電池が最適です。
- 乾電池は入手が容易でもっともノイズの少ない電源です。
- 乾電池は電源ノイズが少ないので、電源平滑用コンデンサがなくても動作します。それくらい優秀です。
- 一方で、DCアダプタやUSB電源は大きな平滑コンデンサがないと電源ノイズを抑え込めません。
- さらにアルカリ電池、ニッケル水素電池は内部抵抗が小さいという特長があります。
- アルカリ電池の内部抵抗は1Ω程度、ニッケル水素電池はさらに小さいことが知られています。
- 内部抵抗が小さいということは電流供給能力が高いという意味です。
- 皆さんが想像する以上に、乾電池は優秀です。
- 両電源構成のため、プラスマイナスの2種類が必要です。
- プラス電源からマイナス電源をDCDCコンバーターで生成することもできますが、スイッチングノイズを発生させます。
- せっかくの音に電源からノイズを供給したのでは意味がありません。
- アルカリ電池4本による±3Vの構成としました。もっともシンプルな構成がもっとも低ノイズです。
- あるいはニッケル水素電池4本による±2.4Vでも動作可能です。
- そのために±2Vでも動作する低ノイズのオペアンプNJM4580DDを採用しています。
- 一般的に電源電圧が高いほどアンプの設計は容易です。
- 電源電圧が高いほど自由度が広がるからです。
- 電源電圧が低いと、設計にさまざまな縛りが発生します。
- 角型電池(006P)の電圧は9Vですが、放電容量が小さく電池寿命が短いというデメリットがあります。
- アルカリ電池の電圧1.5Vは設計に制限を与えます。
- 半導体の物性特性である順方向電圧(たとえばトランジスタのVbe電圧)は約0.65Vですから、どれほど大変か想像できるでしょう。
コラム:平滑コンデンサ
- 平滑コンデンサとは電源の脈流や電源ノイズの低減、電圧変動の緩和目的で使われます。
- 容量が大きければよいわけではありません。大きすぎるデメリットもあります。
- 過ぎたるは及ばざるがごとし。やりすぎるくらいならやらないほうがましです。
- 全体のバランスを考えて容量を決定する必要があります。
- 電池のようにもともと整流する必要もなければ、電源ノイズも少なく、しかも消費電流も小さい場合には、電源電圧の変動は少ないため、平滑コンデンサの容量は小さくて済みます。
- 一方で、整流したり、DCDCコンバートしたり、電源ノイズが大きく、消費電流が大きい場合には大きな容量が必要です。
- 容量の大きいコンデンサにはデメリットもあります。
- (当然コストの問題があります。)
- 一つ目のデメリットは物理的にサイズが大きいことです。小さなケースには収まらないかもしれません。
- 2つ目のデメリットは容量が大きすぎると電圧が安定するまでに時間がかかります。
- そのため高級オーディオの中には、電源を入れてから数十秒待たされるものもありました(真空管アンプではありません)。すぐに音をだせません。
- さらに容量が大きいと電源を切った場合に、蓄えられた電気を逃がす方法や時間も必要です。
- この処理を誤るとスピーカーからノイズがでたりします。
- 理想としては電源を切った場合、速やかに蓄えられた電気を逃がす必要があります。
- いつまでも中途半端な電圧で動作させることは好ましくないからです。
- 平滑コンデンサは容量が小さければ期待した機能を果たせず、大きすぎれば別の問題を抱えるためバランスが大切です。
- このように平滑コンデンサを必要としない回路が理想です。
- なぜなら電源ノイズがなければ、平滑コンデンサを必要としないからです。当たり前ですね。
- 電源ノイズがあるから、仕方なく平滑コンデンサを必要とします。
- もともと電源ノイズのある回路は不安定です。
- 大きい平滑コンデンサは不安定な電源の証拠です。
電池寿命へのこだわり
- また電池寿命にもこだわりました。
- 最近のスマートフォンは毎日充電しなければならず、非常に不便です。
- いくら充電式とはいえ、頻度が多すぎます。
- 毎日充電しなければ使えないヘッドホンアンプは不便です。充電を忘れたら使えません。
- 充電式でなくとも、寿命が長ければ電池を交換する頻度は少なくてすみます。
- そこでアルカリ電池で長寿命を目指しました。電池寿命は通常利用で約一ヶ月です。
- 年に12回交換すればよいだけです。年に365回充電する手間とどちらが楽でしょうか。
- 電池交換の手間はAD00032で改善されています。
- ちなみに電池寿命を迎えると、音が割れはじめます。電源電圧が足りないため波形がクリップ(頭打ち)します。
- LEDも当初よりも暗くなります。電池切れの目安になります。
- 青色LEDの順方向電圧は3V前後と赤色LEDの2V前後に比べて高い電圧が必要であり、電源電圧が下がると早く暗くなります。あえて青LEDを採用しています。
- このような兆候が現れたら電池を交換しましょう。
さらなる低消費電力
- NJM4580使用時の消費電流は約8mA(無音時)です。音量により消費電力は変動します。
- 単4電池の容量を800mAhとすると800mAh÷8mA=100時間の寿命です。これは目安です。保証値ではありません。
- 電源をこまめに切ると電池寿命が伸びることが知られています。
- たとえば、連続利用の場合=800mAhでも、定期利用の場合=1000mAhといった具合です。
- 通常利用を一日4時間と想定すると一ヶ月(30日)で120時間です。概ねこれくらいの寿命と予測できます。
- 通勤通学も4時間以下ですし、起きている時間(約16時間)のうち毎日4時間を音楽に費やすのはかなり多めな見積もりです。
- さて消費電流の小さいNJM062を利用すると、寿命を延ばすことができます。
- ただし、ホワイトノイズも増えるので、下記の対策と改良が必要になります。
- NJM062使用時の消費電流は約4mA(無音時)です。電池寿命が倍に伸びます。
- 音質を取るか電池寿命をとるかの選択です。
電力増幅器へのこだわり
- 電圧増幅ではなく電力増幅を実現しました。
- 現在、電圧増幅器がパワーアンプと称されて販売されています。
- 本当の事実は「パワーアンプとは電力増幅器」です。これだけを前提にして設計しました。
- アインシュタインは「光速は一定である」ことだけを前提にしました。そこからE=mc2を導きだし、特殊相対性理論や一般相対性理論を完成させました。
- もともと動作原理上、スピーカーの音量は電力に比例します。これは科学的な事実です。
- それゆえスピーカーを駆動するためにパワーアンプ(=電力増幅器)を必要としてきました。
- 必要としているのは電力増幅器であって電圧増幅器ではありません。
- この基本的な事実は非常に重要です。
- ヘッドホンやイヤホンのドライバは小さなスピーカーです。動作原理は同じです。
- もはや電圧増幅器との比較に意味はありません。次元の違う話です。
- 従来の音の延長線上を求めている方には向かないかもしれません。
- (科学的に)正しい音を追求する方、先進的な方、先入観のない方、次世代を担う方に向いています。
- プロの音作りをする方に向いています。
- 電力増幅を実現するように設計されています。
- スピーカーの特性は電力を基準として計測されているためです。計測方法はJISで規定されています
- そのスピーカーの性能を引き出すためには電力増幅器が必要です。
- 原音とまではいきませんが、元の音に近いはずです。
- もちろん、このアンプも完成された電力増幅器ではなく発展途中です。
- 進化の止まったアンプを科学的に正しい方向性へ導くものです。次世代はここからブレークスルーするでしょう。
電圧増幅器と電力増幅器
- 違いをわかりやすく説明します。
- たとえば電圧増幅器は入力電圧1Vのとき出力電圧3Vです。
- たとえば電力増幅器は入力電圧1Vのとき出力電力3Wです。
- このように動作が全く異なります。
- 電圧増幅器は負荷(スピーカーのインピーダンス)が変動しても出力電圧は入力に比例します。
- 電力増幅器は負荷(スピーカーのインピーダンス)が変動しても出力電力は入力に比例します。
- スピーカーはエネルギー変換装置です。
- スピーカーは入力に応じた仕事をして音を出力します。
- たとえば、1秒間に1ジュールの仕事(これを1Wと呼びます)をしてもらいます。
- ところがスピーカーはひねくれもので、1kHzと100Hzで負荷(インピーダンス)が違います。
- スピーカーの負荷(インピーダンス)が異なっていても1Wなら1Wの仕事をしてもらわなければなりません。
- 1kHzと100Hzで仕事量が異なれば当然、音量が異なります。
- ですから、スピーカーの駆動に電力増幅器が必要です。
- AD00031の最大の特徴である、電力増幅特性を実際に測定した結果を示します。
- 比較対象はヘッドホン専用アンプLM4809(電圧増幅器)です。回路はデータシート通りです。
- LM4809は16Ω負荷時、最大105mWを得られます。
- 測定条件は公称インピーダンス16Ωを想定し、1kHz、16Ω時の出力電圧100mV(0.625mW相当)とします。初期条件を設定したらボリュームを動かしません。
- 負荷インピーダンスを16Ωから大きくしていき、出力電力がどのように変化していくかを確認します。横軸=負荷インピーダンス[Ω]、縦軸=出力電力[dB]
- ヘッドホンに記述されている公称インピーダンスは最低値を示しており、周波数によって変動します。
- 理想は、負荷インピーダンスが変動しても出力電力が変動しないことです。出力電力が変動してしまうと(周波数によって)音量が変動してしまいます。
- たとえば、ボリュームを固定(入力電圧固定)していても、1kHzのとき出力電力1mW、100Hzのとき出力電力0.8mWといったように変動しては困ります。
- AD00031の出力電力がほぼフラットであることを確認できます。今までの常識からすれば不思議ですね。
- この意味は入力電圧が一定なら出力電力が一定であるということです。
- 一方でLM4809(電圧増幅器)はたとえ入力電圧が一定であっても、負荷に応じて出力電力が変動します。
- 皆さんお持ちのヘッドホンアンプの出力電力特性を測定してみると面白いでしょう。
- ヘッドホンやイヤホンのインピーダンス特性はさまざまです。変動の小さいものもあれば、大きいものもあります。
- ヘッドホンやイヤホンのインピーダンスが変動しなければ、電圧増幅器でも十分です。変動するなら電力増幅器が必要です。
測定基準
- ヘッドホンやイヤホンの商品開発(設計、評価)に電圧駆動型アンプ(=電圧増幅器)を前提にしている(はずだ)という意見がみられます。
- 本当でしょうか?「はずだ」という憶測や思い込みは何の根拠にもなりません。科学的な根拠になりません。
- ここでは多くのオーディオメーカが参加しているJIETA(電子情報技術産業協会)で規定している測定方法を紹介します。
- 「JIETA RC-8140B ヘッドホン及びイヤホン」
- オーディオメーカはこれを基準に特性を評価しています。
- 要点をまとめると「擬似耳を使って測定する。」「周波数特性は電力=1mWを加える。」
- つまり、電圧増幅器ではなく電力増幅器を前提にしています。
- 測定図にも「電力増幅器」と明記されています。
- ヘッドホンやイヤホンだけでなく、スピーカーも「電力」を基準に測定されています。
- これは日本だけの話ではなく世界的な基準(IEC:International Electrotechical Commission)です。IECに従う形でJIETAも測定方法を規定しています。
- 科学的に音量は電力に比例するからです。
スピーカー、ヘッドホン、イヤホンのインピーダンス
- なぜ、電圧増幅器ではなく、電力増幅器を必要としているのか、その根幹に迫ってみようと思います。
- 電力増幅器は負荷に影響されることなく、電力を出力します。
- 電圧増幅器は負荷に影響されて、正しい電力を出力できません。逆にいえば、負荷が変化しなければ正しい電力を出力します。
- では負荷であるスピーカー、ヘッドホン、イヤホンのインピーダンス特性は変化しないのでしょうか。
- (電力=電圧×電流=電圧×電圧÷インピーダンス)
- インピーダンス特性が変化しなければ、電力増幅器の代用として電圧増幅器を利用できます。
- インピーダンスとは交流における抵抗成分です。
- 交流ですから、どの周波数でもインピーダンスが変動しなければ、インピーダンスは一定と判断できます。
- 実測値をいくつか紹介しましょう。
- 一般的にはインピーダンス・アナライザーという高価な専用機器で計測します。
- (通常モデルで200万から300万くらいです。低価格モデルで70万から80万くらいです。)
- SE-M290/pioneerはヘッドホンです。
- 公称インピーダンスは32Ωです。
- 実際のインピーダンス特性は100Hz付近で35Ω、20kHz付近で40Ωの変動が見られます。
- MDR-XD150/SONYはヘッドホンです。
- 公称インピーダンスは32Ωです。
- 実際のインピーダンス特性は100Hz付近で47Ωの変動が見られます。
- 小さなデコボコが見られますが、これは計測誤差ではなく、何度計測しても現れます。
- MDR-ED51/SONYはイヤホンです。
- 公称インピーダンスは16Ωです。
- 実際のインピーダンス特性は5kHz、20kHz付近に小さな変動が見られます。
- (図が拡大されているので、変化が大きいように見えますが小さいです。目盛りを確認してください。)
- RP-HJE150/Panasonicはイヤホンです。
- 公称インピーダンスは16Ωです。
- 実際のインピーダンス特性は3kHz、20kHz付近に小さな変動が見られます。
- (図が拡大されているので、変化が大きいように見えますが小さいです。目盛りを確認してください。)
- このように、インピーダンスは周波数によって変動します。
- 電圧増幅器はたとえ入力が一定(ボリュームを固定)でも周波数によって音量が変動することを意味します。
- インピーダンスが高いところで音量が小さくなります。(電力=電圧×電流=電圧×電圧÷インピーダンス)
- インピーダンスが一定ではないため、電圧増幅器は電力増幅器の代用になりません。
- スピーカーが発明されて100年以上経ちますが、インピーダンス変動はまだあります。
- 電力増幅器は負荷に影響されず、正しい電力を出力します。
- 実際、AD00031は負荷インピーダンスの影響を(ほとんど)受けません。
- 電力増幅器を必要としている理由がここにあります。
ダンピング抵抗の効果
- ダンピング抵抗とはもともとデジタル信号のインピーダンス・マッチングを目的とした抵抗です。
- デジタル入出力間にダンピング抵抗を接続することでオーバーシュートやアンダーシュートを緩和します。
- お手持ちのヘッドホンアンプ(電圧増幅器)を簡単に改良する方法をお知らせします。
- この方法は昔から知られており、メリットとデメリットがあり、限られた用途でのみ利用できます。
- 具体的には出力部にダンピング抵抗を追加するだけで、少し出力電力特性を改善できます。
- ダンピング抵抗値は公称インピーダンスと同じにすると最適といわれています。これは最大値の目安です。これ以下の値で選択します。大きすぎると逆効果です。
- たとえば、公称インピーダンスが16Ωならダンピング抵抗値を15Ω(入手可能な近似抵抗)にします。
- (オペアンプの直接出力の場合、オペアンプの内部抵抗も考慮する必要があります。)
- ダンピング抵抗の消費電力はヘッドホンの消費電力と同じですので、1/4Wの抵抗で十分です。
- ダンピング抵抗の効果を測定してみました。LM4809にダンピング抵抗15Ωを追加したときの出力電力特性を示します。
- ダンピング抵抗を追加することで少し出力電力特性が改善されます。
- とはいえ、電力増幅器までの改善はしません。電力増幅器がいかに優れているかわかります。
- さらに出力にカップリングコンデンサを使用している場合、ダンピング抵抗によって低音特性も改善されます。(詳細は「低音へのこだわり」を参照)
- 一方でデメリットもあります。
- ダンピング抵抗で無駄な電力を消費します。
- 効率が悪いといえます。
- そのため、出力電力の大きいスピーカー用アンプには用いられません。出力電力の小さいヘッドホン用アンプだけに用いられます。
- 効率が悪いということは、電池駆動の場合、電池寿命が短くなります。
- ダンピング抵抗を使わなかったときと同じ音量を確保するには、高い電圧が必要です。
- つまり、電源電圧を高くしなければなりません。電源電圧が低いと波形がクリップ(頭打ち)して音割れを起こすかもしれません。
- 電源電圧を変更しなければ最大出力電力は小さくなります。
- このように少しメリットがある一方でデメリットもあり、バランスを考える必要があります。
- 関連事項としてダンピングファクターがまことしやかに議論されていますが、これについては別の機会があれば解説しようと思います。
- ただ事実として、物理学的にはパワーアンプ(電力増幅器)にダンピングファクタという考え方がありません。あるのは電力変換効率です。
- たとえば、モーターを駆動制御するパワーアンプにダンピングファクターという言葉はありません。
- ダンピングファクター=スピーカーのインピーダンス÷アンプの内部抵抗(=出力抵抗=出力インピーダンス)
- 電圧増幅器が登場してからダンピングファクターという言葉が登場しました。これはいつの頃かメーカが後付で定義しました。
- 電圧増幅器は出力抵抗が大きいと負荷に影響されて出力電圧が変動します。(出力電圧が分圧される)
- この影響度の指標がダンピングファクターです。
- ダンピングファクターが大きいほど出力電圧変動が小さいわけです。電圧的には効率がよいわけです。
- こうしてダンピングファクターの数値を競うようになりました。
- しかし本来のパワーアンプ(電力増幅器)とは負荷に影響されず電力を伝えます。
- ですからそもそもダンピングファクターという考え方がありません。
- ダンピングファクターは電圧増幅器だからこそ出現した指標です。
- スピーカーの駆動力とはエネルギーですから電力が重要です。
- 電圧と電力を混同しています。スピーカーにとって重要なのは電圧ではなく電力です。科学的に音量は電力に比例するからです。
- パワーアンプは電力を出力するものであり、電圧を議論して意味があるでしょうか。賢明な方ならもうお分かりですね。
歪率
- 正確には全高調波歪率(Total Harmonic Distortion)といいます。
- まずは歪みについて解説します。
- アンプの理想は入力信号波形をそのままの形で出力することです。
- ところがさまざまな原因でどうしても波形が歪んでしまいます。
- そこで正弦波を入力したとき、出力される正弦波の歪み具合を数値化し、歪の指標としました。
- 正弦波の歪みは基本周波数の整数倍に表れるため、高調波歪率と呼ばれます。
- つまり、基本周波数に対して、整数倍に表れる信号の強さを合計し、比率であらわします(THD)。
- (実際には整数倍以外にもノイズを発生します。それも含めてTHD+Nと表記します。)
- さてここで気をつけなければならないことがあります。
- 理想として、そもそも入力する正弦波に歪みがあってはならないということです。
- 入力する正弦波に歪みがあっては、出力する正弦波にも歪みがあるのは当然で測定になりません。
- 最近のデジタル技術でかなり正確な正弦波を生成できるようになりましたが、それでも歪率がゼロではありません。
- つまり、歪率計の精度は生成できる正弦波の精度に依存します。
- たとえば、0.1%までしか測定できない歪率計では、測定結果は0.1%以上の値になります。
- それが本当のアンプの歪率を示しているとは限りません。入力する正弦波がすでに0.1%の誤差をもっているわけですから、当たり前です。
- もっと精度のよい歪率計で測定すると、もっと低い値を示すかもしれません。
- アンプの歪率に対して十分な精度の歪率計が存在しません。歪率計の内部にアンプが使われているからです。
- 卵が先が鶏が先かのジレンマを抱えています。
- 年々、アンプの歪率が小さくなっていく、からくりがわかったでしょう。
- 年々、精度のよい歪率計が登場するからです。もちろんどこかで頭打ちすることになり、それが本当のアンプの歪率です。
- さて、歪率の仕組みがわかったところで、実際の歪み原因の一つを紹介します。
- これから解説する歪みは電圧基準ではなく電力基準です。なぜなら科学的にスピーカーの音量は電力に比例するからです。
- 歪みの計測では、出力負荷に固定抵抗を用います。スピーカーやヘッドホンの代りに固定抵抗を使用します。
- これは致し方ないことですが、実際のスピーカーやヘッドホンのインピーダンスは変動します。固定抵抗ではなく変動抵抗です。
- (スピーカーやヘッドホンのインピーダンス特性はさまざまであり、電圧増幅器ではすべてのパターンを想定することができません。)
- 現実とは異なる想定をしており、メーカーに都合によい測定であることを理解しておく必要があります。
- 自動車の公称燃費と同様です。JC08モードという条件化での燃費であり、実際の燃費とは異なります。
- インピーダンス変動は波形に歪みをもたらします。
- たとえば、次のような2つの波形を考えましょう。電圧増幅器を想定します。(これは架空の話ではなく現実にある想定です。)
- 入力100mVrmsに対して1kHzの正弦波の出力が1mWとします(ヘッドホンのインピーダンスは32Ω、1kHz)
- 入力100mVrmsに対して100Hzの正弦波の出力が0.8mWとします(ヘッドホンのインピーダンスは40Ω、100Hz)。
- インピーダンスの影響で本来1mWを出力すべきところ1mW×32Ω÷40Ω=0.8mWになります。
- 1kHzと100Hzを同時に出力した場合、本来2mWのところ1.8mWとなります。1kHzと100Hzの合成波形が本来とは異なり歪みます。
- 電力の歪率は(2-1.8)/2=10%です。
- このように実際には、インピーダンス変動の影響を受けて、波形が歪みます。高調波以前に、基本波が歪みます。
- しかも電圧増幅器の(電圧)公称歪率よりも、インピーダンスの影響の方がはるかに大きいのです。
- カタログの(電圧)公称歪率0.01%なんて、吹っ飛んでしまいます。
- インピーダンス変動の影響を取り除くほうがはるかに歪みの改善になります。
- 電力増幅器ではどうでしょうか。ひとまず理想を考えます。
- 入力100mVrmsに対して1kHzの正弦波の出力が1mWとします。
- 入力100mVrmsに対して100Hzの正弦波の出力が1mWとします。インピーダンスの影響を受けず1mWを出力します。
- 1kHzと100Hzを同時に出力した場合、1kHzと100Hzの合成波形が本来の波形になり歪みはありません。
- これが見えないところで実際に発生している波形の歪みです。歪率計では測定できません。
- もちろん、高調波歪みも発生します。
- 実際に電力波形を観測するのは難しいので、シミュレーション結果を示します。
- 電圧増幅器では基本波形が歪んでいる様子がわかります。
真実の追究
- 先入観があると何を言っているのかわからないかもしれません。この設計者、頭がおかしいのではと思うかもしれません。
- ガリレオも地動説を唱えた当時、天動説が常識でした。ガリレオを頭がおかしいと思ったことでしょう。
- ※コペルニクスが地動説を発見した。当時使用していたユリウス暦では1年のずれが大きかった。そこで1年を太陽を中心として計算し直した。
- ※ガリレオも望遠鏡を使って確認を続け、この説を支持した。
- しかし科学的な事実(=真実)は曲げようがなく、いずれ受け入れなければなりません。
- 「パワーアンプとは電力増幅器」は科学的な事実であり曲げようがありません。
- 現在主流の電圧増幅器ではありません。
- このアンプは電力増幅器を実現した実用モデルともいえます。
- 本来、電力増幅器と電圧増幅器は異なるものであり比較に意味はありません。
- 電圧と電力を比較しても意味がないのと同様です。形は似ていますが気温計と湿度計を比較しても意味がありません。
- 比較に意味はありませんが、あえて無理やり電力増幅器と電圧増幅器を比べてみます。
- 電力増幅器はスピーカーの性能を引き出すため、電圧増幅器に比べると低音や高音が豊かに再現されます。
- それが本来の音です。電圧増幅器では低音や高音が抑制されてマイルドな音に調整されていたのです。
- 電圧増幅器に耳が慣れていると、科学的に正しい音をきついと感じます。
- しかし、次世代の方は科学的に正しい電力増幅器に耳が慣れるため、電圧増幅器の音は物足りないと感じます。
- 電力増幅器から出力される音は単純に低音と高音が再現されるだけでなく、音色も再現されます。
- 音の好き嫌いはありますが、まずは電力増幅器から出力される正しい音を知っておくことは重要です。
- どの分野でもそうですが、まず基本を知ることは重要です。
- 基本を知った上であれば、応用しやすくなります。自分好みの音に調整できます。
- 基本を知らないと行き当たりばったりになり、音の追求も迷走します。
音量に必要な電力
- これも事実を知ると驚きます。
- 一般家庭でのオーディオ利用を前提とします。コンサートホールや映画館など大空間は例外とします。
- さて皆さんが普段聞いているスピーカー音量は何ワットのアンプ出力でしょうか?
- 一般的に1Wも出力されていません。0.1W前後です。実際に計測してみましたが、0.2Wでも大きな音です。
- 1Wの音量は爆音です。1Wの音量を聞いたことがないのに、1Wなんて大したことがないと批判することはできません。
- まずは1Wの音量を聞いてみることをお勧めします。
- スピーカーの能力はカタログに記載されています。一般的に音圧レベルは80から90dB/W/mの範囲です。
- この意味は1Wの入力で正面1mのとき80から90dBの音量を発生させるという意味です。
- 80から90dBの音量とは騒音問題になるきわめてうるさいレベルです。
- サイクロン掃除機の騒音が60から70dBくらいです。掃除機の音うるさいですよね。
- バイクの騒音規制値が大体80から90dBです(生産年度によって異なる)。これは加速時の規制値です。
- 部屋の中でバイクのエンジンを吹かしたらどんな騒音になるか想像できますよね。
- アンプのボリュームを常に最大にして利用している方はいないでしょう。
- 100dB/W/mなど効率のよいスピーカーであるならなおさらです。スピーカーの効率が良いほどアンプの電力は小さくて済みます。
- ではなぜ10W,100Wのアンプが販売されているのでしょうか?
- これは昔、メーカーが無意味な競争をしてしまったからです。カタログ値を大きく見せようとしたためでした。
- 数値が大きいことが性能のよいことのようにユーザを誤解させたわけです。
- 現実を無視して数値が独り歩きしてしまった例です。
- (業務用のアンプは屋外での利用も想定しており電力を必要とするので、この限りではありません。)
- さてそれではヘッドホンやイヤホンに必要なワットはどの程度でしょうか?
- カタログで確認するとヘッドホンやイヤホンの音圧レベルは100dB/mW前後です。
- ヘッドホンやイヤホンは耳に密着して使うため、距離はありません。
- 1mWの入力で100dBの音量を発生させます。
- 100dBの騒音とは高架下で電車が通過したときの音量です。
- 耳の中で電車を走らせたら、どんな騒音になるか想像つきますよね。
- つまりヘッドホンアンプの最大出力に1mWも必要ありません。
- もちろん多少の設計余裕は必要です。
- ちなみに、100dB以上の騒音目安です。
- 120dB=プロペラ・エンジン近くの騒音
- 140dB=ジェット・エンジン近くの騒音
- これくらいになると鼓膜が破れたり、体に振動や衝撃を受けます。
- もはや通常音の域を超え、爆風や衝撃というレベルになります。
- ジェット・エンジンの前に立てば吸い込まれるでしょうし、後ろにいれば吹き飛ばされます。
ハイレゾ
- ハイレゾに関して懐疑的な意見もあるでしょう。私も当初そうでした。
- 聞こえない20kHz以上の音をオーディオで再生して意味があるのでしょうか。
- こう考えてみるとよいでしょう。
- 自然界に存在する音には20kHz以上の音が含まれています。それをありのままに聞いています。
- どうしてオーディオだけ、20kHzでローパスフィルタする必要があるのでしょうか。
- ローパスフィルタしなくても人間に害はありません。
- (騒音など音量面で害はあるかもしれませんが、それはオーディオに限った話ではありません。)
- ローパスフィルタを掛けられてしまうと、音色が変化してしまいます。
- 科学的に言えば、音の波形に影響があります。
- 当時の技術的な制約で20kHzという(特に心理的な)限界を作っていたといえます。
- 技術の発展によりその限界を乗り越えることができるようになったともいえます。
- 20Hzから20kHzの周波数範囲とは最低限求められるオーディオの性能(資格)であって、それが十分条件ではありません。
- 通常、求められる性能や安全性に対してある程度(2倍以上)の設計余裕を持たせます。
- たとえば、電源電圧が5Vなら耐圧は10V以上の電解コンデンサを用います。
- ちょっとした電源ノイズだけで電解コンデンサが故障しては困ります。
- 自動車でも最高速度が100km/hだからと言って、ちょっと超えた101km/hで故障しては困ります。それが仕様ですと言われても困ります。
- 同じように20Hzから20kHzの周波数特性を実現しようとするならば、10Hzから40kHzくらいの設計余裕が必要とも考えられます。
- 仕様外の20,001Hzを入力したからと言って、故障しては困ります。
- (もちろん程度の問題があります。あまり設計余裕をとりすぎてしまうと弊害を生じます。高周波ノイズによって異常発振するかもしれません。)
- 科学的な事実として、自然界にはもっと幅の広い音が、聞こえる聞こえないに関わらず、存在しています。
- 理想的なオーディオ・システムとは、自然界の音と見分けがつきません。残念ながら理想とするオーディオ・システムはまだ存在しません。
- 人に聞こえる聞こえないに関わらず、自然界の音を再現することが理想のオーディオを追求する正しいアプローチです。
- 耳の特性は個人によって、年齢によって、体調によって、異なります。誰一人同じ特性の人はいないといっていいでしょう。
- 人は聞こえない音も含めて、ありのままに感じているのです。
- 2014年6月、日本オーディオ協会はアナログに関してもハイレゾの定義をしました。
- デジタル音源やデジタル再生機器としてのハイレゾの定義はありましたが、アナログに関してハイレゾの定義がありませんでした。
- これは健全なハイレゾの促進に必要な措置(ルール)といえます。ハイレゾの無法地帯を避けなければなりません。
- すでに(20kHz以上の音を含まない)ニセレゾなど怪しい音源が出回っています。
- もともとの音源がローレゾしかないにも関わらず、高音を偽造したハイレゾもあります。
- ハイレゾ対応デジタル再生機器とうたっておきながら20kHz以上を出力しない機器も出回っています。
- オーディオでは入口から出口まで、トータルでハイレゾに対応していなければ真のハイレゾとはいえません。
- 途中のアンプで20kHzのローパスフィルタを掛けられたら、それはもはやハイレゾではありません。
- 音の出口であるスピーカーで20kHzのローパスフィルタを掛けられたら、それはもはやハイレゾではありません。
- さて、日本オーディオ協会によるアンプのハイレゾ対応の定義は40kHz以上を再生可能であることです。
- この定義に従うなら、AD00031とAD00032はハイレゾ対応のヘッドホンアンプといえます。
- もちろん、入力音源がハイレゾ音源であり、ヘッドホンもハイレゾ対応である必要があります。
- 仕様上は測定機器の関係で再生周波数範囲を20Hzから20kHzとしています。実際にはそれ以下、それ以上の周波数も再生可能です。
- 当初からハイレゾ対応を想定して設計したからです。重低音(10Hz)から100kHzまで再生できます。
- 従来は異常発振などを嫌い、ローパスフィルタを追加したり、あるいは位相補償するために帯域制限をした設計が行われていました。
- AD00031とAD00032では工夫をこらし、これらをクリアしています。
- 実際に測定した重低音(10Hz)、40kHz、100kHzの出力波形です。(負荷は15Ω)
- きれいに出力されています。
ホワイトノイズの回避方法(1)
- ホワイトノイズの原因と回避方法をお伝えします。
- ノイズ原因はいくつかあるので、切り分けしながら行います。
- このアンプは特別な帰還(フィードバック)の仕組み上、ヘッドホンやイヤホンのケーブルからノイズが乗ります。
- これは帰還されていることの証明でもありますが、副作用ともいえます。
- SN比を計測し、十分小さいことを確認していますが、個人差があり気になる方がいるのも事実です。
- ヘッドホンで気になる方の報告はありませんが、耳の奥まで挿すカナル型イヤホンで報告があります。
- ホワイトノイズが気になる方はまずヘッドホン(公称インピーダンス=32Ω)を試してください。
- これは問題の切り分け作業の一つです。ホワイトノイズが解消される見込みがあるか判断できます。
- 標準的なヘッドホンでもホワイトノイズが確認されるなら、それはアンプが原因ではないかもしれません。
- 特にシールドされていないケーブルや、左右分離されていないケーブルの場合、ホワイトノイズとして現れます。
- 左右分離されていないケーブルの場合、分離度(セパレーション、クロストーク)も悪化します。
- ステレオプラグの根元までケーブルが左右分離されているかどうかで確認できます。
- ケーブルが左右分離されていてもシールドされていないかもしれません。リッツ線もあるようです。
- このようにヘッドホンやイヤホンのシールド特性が悪いとノイズとして現れます。
- ノイズが乗りやすいので長いケーブルもお勧めしません。
- ケーブルを交換できるタイプの場合、シールドされたケーブルを利用するとよいでしょう。
- ケーブルの内部構造は見えずわからないこともあります。分解してみないとわかりません。
- ホワイトノイズのあるMDR-EX51/SONYのケーブルはリッツ線と呼ばれるもので、シールド効果はありませんでした。
- MDR-EX15LP/SONYのケーブルもリッツ線です。(写真の黒いカナル型イヤホン)
- RP-HJE150/Panasonicはホワイトノイズが比較的小さいです。(写真の白いカナル型イヤホン)
- このホワイトノイズの確認は入力ケーブルを接続しないで行います。
- 入力に接続されているとどちらのノイズかわかりません。
ノイズの回避方法(2)
- 当然のことながら入力ケーブルからもノイズが乗ります。
- シールドされていないケーブルや長いケーブルはお勧めしません。
- またプラグの接触不良も原因になります。
- 金メッキプラグであっても端子を手で触ると油や皮脂が付着し、接触不良を起こします。
- プラグを布で拭いてきれいにしましょう。
ノイズの回避方法(3)
- 音楽プレーヤー自体がホワイトノイズを発生していることがあります。
- 再生を一時停止して確認することができます。
- 再生側にホワイトノイズが乗っていると、ノイズそのものが増幅され大きく聞こえます。
- もはや再生プレーヤーを交換するしか方法はありません。
- 手持ちのポータブルタイプのCDプレーヤーやMDプレーヤーはホワイトノイズが激しいです。
- むしろ手持ちのMP3プレーヤーの方がホワイトノイズが小さいです。
- 補足として、音楽プレーヤーの中にはイヤホンやヘッドホンを接続することだけを前提にし、ライン出力的な使い方を想定していないことがあります。
- そのため、イヤホンやヘッドホンの負荷がかかっているとホワイトノイズが減少します。
- ところが、ライン出力のように負荷が小さい(インピーダンスが高い)とホワイトノイズが現れることがあります。
ノイズの回避方法(4)
- 購入いただいた方に、ホワイトノイズを劇的に低減する改造方法をお知らせしています。
- 公開情報ではないため、メールにてお問い合わせください。
- AD0003x改造マニュアル(pdfファイル)をお送りします。
- もともとホワイトノイズのない場合もありますので、無理に改造する必要はありません。
- 改造は自己責任です。改造に自信のない方はご遠慮ください。
- 完全に改善された、あるいは気にならないレベルまで改善されたとの報告をいただいています。
- もちろんヘッドホン、イヤホンとの組み合わせで、もともとホワイトノイズがなかったとの報告もあります。
- 乾電池のこだわりでも解説しましたが、電源ノイズはほとんどないため、電源周りに手を入れても改善されません。
- このヘッドホンアンプは発振回路やデジタル回路を内蔵していないので、パスコンを追加してもホワイトノイズは改善されません。
- ホワイトノイズの発生原因を理解していないと改善できません。
ノイズのまとめ
単にノイズが発生しているとはいっても原因はさまざまです。切り分けをしながら原因を探らないと解決できません。
- 音楽再生プレーヤーがホワイトノイズを発生している。原因は音楽再生プレーヤー。
- 音楽そのものにホワイトノイズが乗っている。原因は音楽そのもの。
- プラグの接触不良でノイズが発生している。原因は接触不良。
- 入力ケーブルがシールドされておらずノイズを拾っている。原因はケーブル。
- ヘッドホンあるいはイヤホンのケーブルがシールドされておらずノイズを拾っている。原因はケーブル。
- 公称インピーダンスの高いヘッドホンを試してみる。
コラム:パスコン
- パスコンとはバイパス・コンデンサのことです。
- パスコンの意味をしらず、慣習的にパスコンをつけている場合を多く見かけます。
- みんながつけているから私もつけるというのは、正しい設計ではありません。
- 部品とは理由があってつけるものです。定石も誤って用いれば意味がありません。
- 理由を知らずに設計しているほど怖いものはありません。それはたまたま動作しているだけです。
- 単に無意味ならまだしも、逆に悪影響をもたらすことがあります。
- さてパスコンとはノイズを発生している(あるいはその可能性のある)部品に取り付け、そのノイズを低減させる(あるいは発振を防止する)目的で利用します。
- もともとノイズを発生しない部品に取り付けても無意味です。たとえばLEDにパスコンをつけても無意味です。
- デジタル回路やモーターなどノイズを発生する部品にパスコンを取り付けることで、外部へのノイズ伝播を防ぎます。
- ノイズが混入するのを防止するのではなく、ノイズを外部に拡散しないことが本来の目的です。
- ですから、パスコンは部品のそばに配置します。ノイズが拡散した後につけても意味がありません。
- TTLでは消費電力も大きく、電源ノイズが激しいため、誤動作する可能性があります。これを防止するためにパスコンを多用します。
- オーディオで使用するオペアンプがノイズ発生源になるなら、それはもはやアンプとして意味がありません。
- オペアンプが発振しないような設計を優先すべきであり、念のためにパスコンを追加する程度でなければなりません。
- オーディオ用ではなく、高周波用オペアンプ(発信器の用途など)ならパスコンを追加する意味はあります。
- このように、オーディオ用オペアンプのパスコンとは発振防止のためであり、ホワイトノイズ防止のためではありません。
- ホワイトノイズは電子回路である以上、避けて通れない問題であり、どんなアンプにも大小の違いはあれ必ずあります。
- ノイズとはいっても主に高周波ノイズです。そのため、パスコンの容量は0.1uF程度です。高周波ですからこの程度で十分機能を果たします。
- 逆に容量が大きすぎるとパスコンとして機能しません。過ぎたるは及ばざるが如し。
- もともとコンデンサは周波数が高いほど交流を通しやすい性質があります。(コンデンサの種類によって実際の特性は異なります。)
- そこで電源に乗っている高周波ノイズをパスコンでグランドにバイパスさせ、ショートさせます。
- ショートとはいっても交流的なショートです。このような仕組みで高周波ノイズを低減させます。
- このようにパスコンにも意味があり、適材適所で利用します。
耳鳴り
- 最近の研究で耳鳴りの原因がわかり始めてきました。
- 耳鳴りとは音がしなくてもシーンと音が聞こえる現象です。本人には確かに聞こえます。
- 特に難聴者に多いことが知られています。加齢が原因ともいえます。
- 耳鳴りをホワイトノイズと勘違いしていることもあります。
- 耳鳴りは難聴であるがゆえに、脳の神経が耳の感度を上げて補おうとする現象です。
- 耳からの空気振動を電気信号に換えて脳が音を認識するとき、無意識にその電気信号の感度を上げようとします。
- 脳にはたくさんの神経があり、電気信号が飛び交っているため、感度を上げると誤ってこれらをノイズとして拾い、耳鳴りとなります。
- 脳内の電気信号をノイズとして検出した結果が耳鳴りです。脳内のノイズを聞いているのです。
- 逆に大きい音の場合、耳に関係する筋肉が緊張して、電気信号を小さくしようとします。
- 耳鳴りは音が無いために、感度が上がりすぎているので、小さな音を聞くことで一時的に解消することが知られています。
AD00031のローレットネジ改造
- 電池交換を容易にするための改造です。AD00032と同じようにします。
- 電子工作の楽しみはこうしたところにあります。
- 納得いかなければ納得いくように改造します。
- ローレットネジはTokyu Handsなどで手に入ります。
- 問題はケース側のねじ穴作りです。
- すでにタップネジでねじ山を作っている場合はネジ山を壊しやすいので要注意です。
- DIYストアで3mmタップとT型タップホルダーを購入してきます。
- まずケース底面のネジを固定し2枚のケースがずれないようにします。
- ゆっくり、直角にねじ山を作り直します。
- アルミはやわらかいのでなめてしまうともう修正はできません。
- 新たにタカチの同じケースを買うしかありません。ケースを買えば直せるのも電子工作ならではです。
- ローレットネジで止めるときもねじ山を壊さないようにかみ合わせに注意しましょう。
- 無理にまわすとねじ山を壊します。
電圧帰還、電流帰還、そしてパワーアンプの再発明
- 高級アンプには電流帰還を搭載したモデルがあります。
- 正確に言えば電圧増幅器に電流帰還を搭載(追加)したアンプです。
- (すでに疑問を感じるかもしれませんが、電流帰還だけのアンプは市販されていません。)
- どうして電流帰還を搭載したのでしょうか?
- その目的と理由はなんでしょうか?
- 電流帰還によるメリットとはなんでしょうか?
- そもそも電流帰還とはなんでしょうか?
- このAD0003xも電流帰還を搭載しています(正確にいえば電圧帰還と電流帰還の両方)。なぜでしょうか?
- こうした疑問にお答えしようと思います。
- 科学的な事実、物理的な事実に基づいて解説します。
不安や敵視は当然の行動
- 「電流帰還」という言葉は世の中に浸透しておらず、どこにも(Wikipediaさえ)解説されていません。
- 不明なこと、わからないことは、誤解や間違いを生みます。
- CDが登場した当初も誤解や間違いを多く見かけました。
- 人は見えないこと、わからないことに対して不安になります。憶測や迷信を生みます。
- 場合によっては、敵視し排除しようとします。当然の行動です。
- 正しい知識や科学的根拠に基づくと何が正しくて何が誤りなのか自ずと見えてきます。
アンプは電源回路の応用
- まずはおさらいです。
- 電圧電源と電流電源は負荷に影響されず定電圧、定電流を出力します。
- たとえば、携帯電話用のACアダプタは5Vの定電圧を出力します。
- 携帯電話に充電中も充電完了後も5Vです。負荷電流が変動しても定電圧です。
- 電流電源も同様に負荷に影響されず、定電流を出力します。
- 電圧電源は定電圧回路で構成され、出力電圧を入力側に帰還して出力電圧が一定になるように自動制御します。この帰還を「電圧帰還」と呼びます。
- 電流電源は定電流回路で構成され、出力電流を入力側に帰還して出力電流が一定になるように自動制御します。この帰還を「電流帰還」と呼びます。
- つまり、電圧をフィードバック制御していれば電圧帰還、電流をフィードバック制御していれば電流帰還です。
- さて、この電圧電源の出力電圧を入力電圧に応じて変動するように応用すると電圧増幅器になります。
- 同様に、電流電源の出力電流を入力電流に応じて変動するように応用すると電流増幅器になります。
- こうして電圧増幅器は必然的に電圧帰還を搭載します。
- こうして電流増幅器は必然的に電流帰還を搭載します。
- 電圧帰還、電流帰還の具体的な方法(回路)は一つではありません。どのような方法をとるかは設計者の自由です。
- たとえば、オペアンプの反転増幅回路と非反転増幅回路で電圧帰還の方法は異なります。
- 途中で電圧電流変換あるいは電流電圧変換をしてもかまいません。目的を達成する手段はいくらでもあります。
- このように電源とアンプ(増幅器)は親戚関係にあります。
- 電圧増幅器の出力電圧を固定すれば、電圧電源になります。
- 最近はこうした基本を教える機会がないようです。
電流帰還すると周波数特性が改善
- なぜ電流帰還を必要とするのかその理由を考えてみましょう。
- まずは従来の問題点をみてみましょう。
- 典型例として電圧帰還型オペアンプの特性を示します。
- (これは電圧増幅器として利用した場合の特性です。異なる使い方をすると特性が変わります。ここにヒントがあります。)
- この図は設計時に利用します。データシートに記載されています。
- オペアンプの中身はトランジスタで構成されています。
- オペアンプを使わずトランジスタだけで構成しても特性は同様です。
- 開ループ利得=100dB、利得帯域幅積=1MHzの例です。
- 電圧増幅器では増幅度(利得)と周波数特性に密接な関係があります。
- 利得を上げると周波数特性が狭くなり、逆に利得を下げると周波数特性が広くなります。
- この例では、40dBのとき10kHz、20dBのとき100kHzです。
- 可聴周波数範囲の20Hzから20kHzを確保するためには約30dB以下の利得に抑える必要がわかります。
- このように利得を稼ごうとすると周波数特性による制限をうけます。
- 周波数特性に余裕を持たせるためには、利得を犠牲にしなければなりません。
- さて最近、高周波増幅向けに周波数特性の優れた電流帰還型オペアンプが登場しています。
- 電圧増幅ではなく電流増幅を用いると、周波数特性が改善されます。
- 電流帰還に意味があるのではなく、電流増幅に意味があります。
- (おさらいしたように電流増幅に電流帰還はつきものです。)
- 直感的にはトランジスタが電流増幅素子だからです。トランジスタはもともと電流を増幅します。
- トランジスタの重要指標に電流増幅率hFEがあります。入力電流に対して出力電流が何倍かという指標です。
- トランジスタ自体は電圧増幅するわけではありません。
- トランジスタを用いた回路で電圧増幅させたり、電流増幅させたりします。
- トランジスタの得意な電流増幅を使えば、特性を伸ばせます。得意な個性を伸ばすことができます。
- トランジスタを電流増幅として利用すると周波数特性が改善されることに注目し、高級アンプに電流帰還を搭載しました。
- 電圧増幅器のままではなかなか周波数特性を伸ばすことができないため、少し電流帰還(電流増幅)を追加しました。
- (もう少し正確に言えば電圧増幅に電流増幅の性質を加えたと考えたほうがよいでしょう。)
- (基本的な動作は電圧増幅に近いです。比率で表現するなら「電圧増幅」>「電流増幅」です。)
- (電流帰還型オペアンプも内部で電流電圧変換を行っており、最終的には電圧を出力します。)
- (新種のトランジスタが登場したわけではありません。回路の構成を変えて特性を変えたのです。)
- つまり、電流帰還の搭載は、周波数特性の改善目的です。
- 高級アンプの電流帰還の解説では利得を上げても周波数特性はそのまま確保されるとあります。
- これは同じことを述べています。従来の電圧増幅器では利得を上げると周波数特性を犠牲にしなければならないことを暗に指摘しています。
- ツーイーターの上限周波数が伸びたために、それにアンプ側が対応すべく高周波特性を伸ばす必要に迫られました。
- さらに大きな出力電力のためには、利得も確保する必要がありました。
- 従来のままでは周波数特性と利得はトレードオフの関係(一方を優先すれば他方を犠牲)にあります。
- そこで電流帰還を搭載し、周波数特性の確保と利得の確保の両方を達成しました。
電流帰還だけのアンプ(電流増幅器)はドンシャリになる
- 周波数特性が良いなら、なぜ電流帰還だけで構成された電流増幅器は市販されていないのでしょうか。
- これを理解するには、アンプの出力電力特性を知る必要があります。
- 横軸は負荷インピーダンスです。縦軸は出力電力です。
- 科学的に、物理的に、音量は電力に比例します。
- スピーカーのインピーダンスは一定ではなく変動することはすでに解説しました。
- スピーカーのインピーダンスは低音共振周波数と高音域で大きくなる特性があります。
- 電流増幅器は負荷インピーダンスが大きいと、出力電力が大きくなります。
- このため、低音と高音を異常に強調してしまいドンシャリになります。低音がドン、高音がシャリと聞こえます。
- 明らかに違和感を生じます。
- そのため、(電流帰還だけの)電流増幅器は市販されていません。
- 電流帰還を搭載したアンプとは電圧増幅器に、電流帰還を追加したアンプです。
- ただし、本来必要としているのは電力増幅器(パワーアンプ)です。
パワーアンプ(電力増幅器)の再発明
- アンプの出力電力特性の違いをみると電力増幅器の特性は電圧増幅器と電流増幅器の中間にあることがわかります。
- そうなんです。電圧帰還と電流帰還のバランスをとると電力増幅器になるのです。
- (ただし単純に電圧増幅器と電流増幅器を組み合わせても電力増幅器にはなりません。)
- (もっと正確に言えば、電圧増幅の性質と電流増幅の性質をブレンドしたと思ってください。)
- (ですので、電圧増幅でもなく電流増幅でもありません。電力増幅器です。)
- この発想を基に、AD0003xを開発しました。
- ついに本来求めていた電力増幅器(パワーアンプ)を実現したのです。パワーアンプの再発明といってもよいでしょう。
- AD0003xの電力特性はすでに示したとおりです。
- 画期的であり、革新的な理由がここにあります。わくわくしてきたでしょう。
- 緻密な理論に裏付けられています。
- いかがでしょう。疑問はいくらか解消したでしょうか。
- 電圧帰還と電圧増幅器の関係、電流帰還と電流増幅器の関係を理解できたことでしょう。
- 高級アンプは周波数特性の改善目的に電流帰還を利用しています。電力増幅目的ではありません。
- そしてAD0003xは電力増幅器として誕生しました。
- 電力増幅を実現するために、電圧帰還と電流帰還を利用しました。
- 従来の電流帰還とは目的が異なります。
- この電力増幅器は副産物として高域の周波数特性も改善されています。
- 最大の目的は電力増幅です。
出力電力比較
- 電力増幅器の特長である出力電力を確認してみましょう。
- 実際にヘッドホン(MDR-XD150/SONY)を接続し、アンプの出力電力の違いを測定してみました。
- メーカーではヘッドホンの代わりに固定抵抗で測定し、こうした現実に則した測定をしません。
- 電圧増幅器と電力増幅器(AD00031)を比較します。
- 入力電圧は一定です。
- 横軸は周波数[Hz]、縦軸は出力電力[dB]です。
- 出力電力のレベルはグラフを見やすくするため、意図的に少しずらして測定しています。
- ヘッドホンのインピーダンスと見比べてみると一目瞭然です。
- 電圧増幅器の出力電力はヘッドホンのインピーダンス変動の影響をうけています。
- 一方、電力増幅器(AD00031)の出力電力は一定でフラットです。
- 入力電圧が一定ですから、当然、出力電力が一定でなければなりません。
- どちらが理想的かは明白です。もちろん電力増幅器の出力電力は入力電圧に比例します。
- ヘッドホンに入力する電力を間違えば、ヘッドホンから出力される音は間違います。
- ただし、ヘッドホンに入力する電力がフラットだからと言って、ヘッドホンからの音量が必ずしもフラットになるわけではありません。
- これによりヘッドホン本来の特性(個性)が現れます。ヘッドホンに入力する電力がフラットであることは最低条件です。
- 科学的に音量は電力に比例します。入力が一定なら出力電力が一定であることは理想に一歩近づきます。
- 逆に言えば、入力が一定にも関わらず出力電力がフラットであることが保証されなければ、ヘッドホンからの音を悪化させます。
- (アンプの出力電力もふらつき、ヘッドホンの特性もふらついているなら、出力される音はふらxふらです。)
- ヘッドホンに入力する電力を間違ったのに、ヘッドホンからの音が正しくなることはありません。
- 間違いを想定して自動補正するようなヘッドホンが将来登場すれば別です。
- 入力を間違えば、出力も間違います。単純明快です。
- 電圧増幅器は最低条件さえも満たしていません。
- 電力増幅器(AD00031)がいかに革新的であるか、その理由がここにあります。
スピーカーの特性は電力基準
測定基準
- 1/3オクターブバンド分析によるスピーカーの周波数特性の測定方法を紹介します。
- これを理解するには、科学の知識と技術的な知識が必要です。
- スピーカーはエネルギー変換装置です。電力を音に変換します。
- 科学的に電力基準でなければなりません。
- にも関わらず、電圧基準の「はず」だとの声を聞きます。「はず」とは根拠になりません。
- 一度、先入観を捨てましょう。
- スペックの単位もdB/Wと記述されており、W=ワット=電力を基準にしています。
- 1kHzで1Wの入力し、100Hzで0.2Wの入力したら、スピーカーの性能を正しく評価できません。当たり前ですよね。
- 国際基準であるIEC、日本工業規格JISでもスピーカーの性能測定は電力基準と規定されています。
- 電力基準でなければ、科学的な根拠と矛盾するからです。
オクターブ
- Oct=オクトとは8という意味です。
- 音階をドレミファソラシドと8段階にしたことに由来します。
- ラから次のラまでの範囲をオクターブ(Octave)と呼びます(ドからドまでも同じです)。
- 科学的にはオクターブとは周波数が2倍になる範囲(例、440Hzから880Hz、その上のオクターブは880Hzから1760Hz)です。
- 人は整数倍の音を同じ種類と感じます。
- 弦の振動(弦楽器)は基本振動の整数倍で振動するからです。
- 自然界で発生する音はこのように固有振動を持ちます。
- 周波数特性を対数表示するのも理にかなっています。
1オクターブの例
ラ | 440.00Hz |
シ | 493.88Hz |
ド | 523.25Hz |
レ | 587.33Hz |
ミ | 659.26Hz |
ファ | 698.46Hz |
ソ | 783.99Hz |
ラ | 880.00Hz |
ピンクノイズ
- ピンクノイズとはエネルギー(電力)が周波数に反比例する雑音です。
- 複数の周波数が混在しているノイズです。
- オクターブ単位でエネルギー(電力)が一定という特徴があります。
- 簡単にいうとピンクノイズを対数周波数で均等に区切るとどの電力も同じです。
- ピンクノイズのオクターブ(440Hzから880Hz)とその上のオクターブ(880Hzから1760Hz)の電力は同じです。
- ホワイトノイズを使うとこのようになりません。ホワイトノイズの場合はリニア周波数特性単位で区切る必要があります。
スピーカーの周波数特性測定
- 周波数特性の測定方法の一つを紹介します。(一例です)
- 周波数特性の測定にピンクノイズを利用した1/3オクターブバンド分析があります。
- ピンクノイズを1/3オクターブごとの帯域に分割し、それぞれの音圧特性を計測します。
- ピンクノイズはオクターブ単位で同じ電力になります。1/3オクターブでも同様です。
- ※具体的には1/3オクターブごとにフィルタをかけます。
- スピーカーに対して同じ電力を供給します。
- つまり、この計測方法も電力基準です。
1/3オクターブバンド(ピンクノイズ)
中間周波数[Hz] | 下限 | 上限 |
20 | 17 | 22 |
25 | 22 | 28 |
31.5 | 28 | 35 |
40 | 35 | 44 |
50 | 44 | 56 |
63 | 56 | 70 |
80 | 71 | 89 |
100 | 89 | 112 |
125 | 111 | 140 |
160 | 142 | 179 |
200 | 178 | 224 |
250 | 222 | 280 |
315 | 280 | 353 |
400 | 356 | 449 |
500 | 445 | 561 |
630 | 561 | 707 |
800 | 712 | 898 |
1000 | 890 | 1122 |
1250 | 1113 | 1403 |
1600 | 1425 | 1796 |
2000 | 1781 | 2245 |
2500 | 2227 | 2806 |
3150 | 2806 | 3535 |
4000 | 3563 | 4490 |
5000 | 4454 | 5612 |
6300 | 5612 | 7071 |
8000 | 7126 | 8980 |
10000 | 8908 | 11225 |
12500 | 11135 | 14031 |
16000 | 14253 | 17960 |
20000 | 17817 | 22450 |
スピーカーの周波数特性例(1/3オクターブバンド分析)
©2014-2015 All rights reserved by Y.Onodera.