スピーカーのエネルギー変換効率
はじめに
- スピーカーは電力から音へのエネルギー変換装置です。
- 電力も音もエネルギーです。
- ですからエネルギー変換効率を計算することができます。
- スピーカーのエネルギー変換効率は数%であることが知られています。
- 実際に計算してみましょう。
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単位
- まずは単位のおさらいです。
- 圧力 1[Pa] = 1[N/m2]、1m2の面積を1Nで押す力です。
- エネルギー 1[J] = 1[Nm]、1Nの力で1m移動したときの仕事量です。
- 仕事率(電力) 1W = J/s = Nm/s、1秒間の仕事量です。
- 音圧レベルLp[dB]=10log10(P2/P02)、ただしP0=20[uPa]です。音圧レベルは圧力を基準にしています。
スピーカーのエネルギー変換効率
- 計算にあたって前提条件を定めます。
- できるだけ現実に近い想定をします。
スピーカーの口径 | 10cm フルレンジ |
スピーカーの能率 | 94dB/W |
入力電力 | 1W |
入力信号 | 1kHz |
コーンの振動幅 | 前後±1mm |
- 入力エネルギーである電力は1Wです。このとき出力される音圧レベルは94dBです。
- 94dBとはSQR(P02 x 1094/10)=1Paです。
- 出力エネルギーである音の仕事率を計算してみましょう。
- コーンの面積Sはπr2=7.85x10-3[m2]です。r=5cm
- 1kHzとはT=1ms間にコーンが前後に合計L=4mm移動します。
- 音の仕事率Wは圧力[Pa] x 面積S x 移動距離L ÷ 時間T = 31.4 x 10-3[W]です。
- エネルギー変換効率Eは[出力エネルギー]÷[入力エネルギー]=[音の仕事率] ÷ [入力電力] = 3.14[%]です。
- スピーカーのエネルギー変換効率が数%であることを計算で証明しました。
- 厳密な計算ではありませんが、大きく外しているわけでもありません。
- ※コーンの面積Sは厳密には円錐形なので、円の面積ではありません。計算を簡単にするため、円の面積で近似しています。
- ※音圧レベルは厳密には正面1mでの値です。音圧レベルは距離が2倍になると6dB減少します。
- ※つまりコーンの動作している0mでは1m地点に比べて6dB以上の増加がありますが、それを加味して94dBとしています。88dB/W(1m)+6dB=94dB/W
スピーカーの動作原理
- スピーカーの動作原理は電磁石です。
- 永久磁石にボイスコイルによる電磁石が引き付けられたり反発することで振動を起こします。
- フレミングの左手の法則により、コイルに電気を流すと力が発生します。
- この力でボイスコイルが動き、ボイスコイルに結合しているコーン(振動板)を振動させます。
- コーンが振動することで空気を振動させます。
- ※コーンの動きが100%空気に伝わるわけでもありません。空気が逃げてしまうからです。
スピーカーの動作解説
- スピーカーのエネルギー変換効率は数%であることが知られています。
- 計算でも証明したとおりです。
- 強力な束縛(エッジ、ダンパー、空気抵抗など)を超える電気エネルギーで駆動しなければなりません。
- 入力エネルギーの9割以上が無駄になります。(いまどきの言葉を使えば、エコではありません。)
- つまり簡単には音を出力できません。
- そもそも余計な振動が起こらないように拘束されています。
コーン(振動板)は自由振動しにくい。
- スピーカーのコーンは入力した信号に反して余計な振動が惰性で起こるような解説をみかけます。本当でしょうか?
- 自由振動するバネの様子から、このようなイメージをもってしまうようです。
- 確かにバネに重りをつけ、はじめにエネルギーを与えると自由振動がしばらく続きます。
- 同じようにコーンがしばらく振動すると考えてしまうようです。
- 実際にはエネルギーの9割以上を奪われてしまうため、コーンが強力に拘束されています。
- バネの動きを9割奪うように固定して振動させてもすぐに振動が止まります。
- コーンは自由振動できないように、エッジやダンパーで強力に拘束されています。(空気抵抗もあります)
- 実際にコーン紙を指で押して放しても、すぐに動きが止まります。いつまでも惰性で動き続きません。
- アンプの出力抵抗がゼロなら、なおさら電気的なブレーキがかかり、余計な動きはできません。
- このようにスピーカーは余計な振動を起こさないように強力に拘束されています。
- あなたが椅子にゴムで縛り付けられており、あなたの力の9割を奪われるとすれば余計な身動きはできないですよね。
- 同じことがスピーカーにも言えます。
- エネルギーの観点からすればスピーカーのコーンは自由振動できず、むしろがちがちに拘束されています。
- コーンが惰性でいつまでも動き続けることはありません。
- ※もちろん余計な振動がゼロではありません。もともと余計な振動が起こりにくいことを指摘しています。
- ※コーンに重量がある以上、始動時は動きにくく、停止時は止まりにくい、物理現象が発生します。
- ※余計な振動がわずかに発生するため、スピーカーによる音の歪みが発生します。
スピーカーによる起電力と追従性
- コーンが引き戻されるときに起電力が発生するので、これも制する必要があるとの解説を見かけます。本当でしょうか?
- コーンが引き戻されるときに起電力が発生するのは確かですが、それは負荷がないときの話です。
- 発電機の起電力は負荷がないときに高くなります。
- 負荷(具体的には小さな抵抗)があるときは起電力が小さくなります。
- この場合の負荷とはアンプ側の出力抵抗です。発電のときはアンプ側が負荷になります。
- 極端な話、負荷抵抗がゼロΩなら起電力はゼロVです。オームの法則を思い出してください。
- 半導体アンプの出力抵抗は十分小さいことが知られており、起電力による影響は小さいです。
- つまり、半導体アンプの場合、コーン振動は電気信号にある程度従います。
- ※もちろん低域や高域で従わなくなり、それゆえ周波数特性があります。
- ※別の問題として、コーンの強度の関係で基本周波数の整数倍でわずかに固有振動します。
- ※これは電気ではなく機械的な問題です。それゆえ、スピーカーからの音に歪みを生じることが知られています。
- ※起電力による影響がないとは言いませんが、些細な影響です。
まとめ
- スピーカーのエネルギー変換効率は悪い。
- コーンは拘束されており、自由振動しにくい(エネルギー保存の法則で動き続けることはない)。
- もともと余計な振動が起こりにくい構造である。
- もちろん余計な振動がゼロではなく、スピーカーによる音の歪みを生じる。
些細な問題よりまずは根本的な改善を優先
- さて、現状ではスピーカーの動作上の問題点は些細な影響です。
- スピーカーを個人で1から作るわけにいかないので、今後もメーカー側に改善をゆだねるしかありません。
- 現状としてはこうした些細な点よりも、もっと影響の大きな問題を先に解決すべきでしょう。
- 些細な点を直しても小さな効果しか期待できません。
- 現状、本来電力駆動すべきところ、仕方なしに電圧駆動で代用しています。この悪影響の方が圧倒的に大きいです。
- 理論上、スピーカーの電力駆動が理想です。それゆえパワー(=電力)アンプ(=増幅器)を必要としてきました。
- この根本的な解決を優先すべきでしょう。
- 考えてもみてください。ただでさえスピーカーのエネルギー変換効率は悪いです。
- その上、スピーカーに正しく電力を加えていないとしたら、出力される音への影響は大きいでしょう。
- しかも電圧駆動であるがゆえに発生する副作用を抑えようとして、余計にスピーカーをこねくり回します。
- たとえば電圧駆動で低音や高音が減少するため、スピーカーの特性を補正します。(しかも補正しきれません)
- 低音や高音が減少しなければ、余計な補正は不要です。
- まずは基本に立ち返り、電力駆動しましょう。
コーンの理想
- 実現できませんが理想的なコーンの条件を示します。
- コーンの重量はゼロであること。重量があると動きにくい。特に口径が大きいと重くなり電気信号に追従しにくい。
- コーンは限りなく硬いこと。軟らかいとコーンが波打ち、正しく振動しない。
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