P1000E+P1000K/FOSTEX
- 2015-12-01 初版
- 2015-12-25 アンプとスピーカーの構成
- 2016-3-18 電力アンプ(LV2-GPAM)追加
- 2016-6-18 低音の共振周波数の補足
- 2018-3-22 MUS.とNOM.
はじめに
- エンクロージャーP1000Eとスピーカー・ユニットP1000Kを組み合わせたフルレンジ・スピーカーの紹介です。
- あわせて、パワーアンプ(電力増幅器)の紹介です。
- なぜ電圧増幅器ではなく電力増幅器を必要とするのか、科学的な裏付けを基に解説します。
著作権と免責事項
- 個人利用に限定され、著作権者の許可なく商用利用できません。
- 直接間接に関わらず、使用によって生じたいかなる損害も筆者は責任を負いません。
耳の周波数特性
- オーディオ機器の前に、まずは自分自身の耳の周波数特性を語らなければなりません。
- 私の高音は14kHzまです。これ以上は聞こえません。
- 昔はステレオのパイロット信号(19kHz)が聞こえました。
- 経年変化で聞こえなくなりました。
- これは私だけの話ではありません。統計によれば24歳以上で多少の違いはあれ、同様に劣化します。
- 比較的早い段階で、耳の高音特性が劣化します。24歳といえば若者ですが、耳はもうおじさんです。
- 人間の周波数特性が20Hzから20kHzと言われているのは若者で最良のときです。
- 実際の耳の周波数特性はそんなによくありません。
P1000K(スピーカー・ユニット)
- FOSTEXのフルレンジ・スピーカーです。
- P1000Kは口径10cmのフルレンジ・スピーカー・ユニットです。
- フルレンジでは広い周波数を確保しなければならず、必然的に10cm前後の口径になります。
- 口径が小さいと高音を得意としますが、逆に低音が苦手です。
- 口径が大きいと低音を得意としますが、逆に高音が苦手です。
- そのため、高音と低音のバランスのとれる10cm前後の口径に落ち着きます。
- 口径が小さいと、振動板が小さいため、高速に振動させることができます。振動板が小さいので、小さな空気しか動かすことができません。
- 口径が大きいと、振動板が大きいため、大きな空気を振動させることができ、低音に向いています。
- こうした科学的な知識があると口径の違いが、周波数特性にどのように表れてくるのか理解できます。
- P1000K(口径10cm)の仕様上の高音域は16kHzです。
- P800K(口径8cm)の仕様上の高音域は18kHzです。
- 私の耳の高音特性は14kHzですので、16kHzでも十分ということです。
- むしろ低域を確保するために、フルレンジの中で少しでも大きな口径が希望です。
- フルレンジでは広い帯域をカバーしきれないと考え、口径の違うスピーカーを同時に使用する方法が登場しました。
- こうして2ウェイや3ウェイのスピーカーが登場しました。
- 内部にネットワーク回路(ハイパスフィルタやローパスフィルタ)を内蔵し、周波数によってスピーカーを切り替えます。
- ただしうまく設計しないと、周波数特性が凸凹になります。もともと特性の異なるスピーカーを合成するので巧みの技が必要です。
- クロスオーバー周波数が経年変化で設計値からずれることもあります。
- ネットワーク回路を簡略化した電界コンデンサだけのものを多くみかけます。電界コンデンサは経年変化で容量抜けします。
- フルレンジ・スピーカーを制御しきれれば、低音不足、高音不足にならず、2ウェイである必要もありません。
- スピーカーをこねくり回しすぎると、特性を予測できません。
- MUS.=Music Power 瞬間最大許容電力の略です。瞬間的に許されますが、連続的には許されません。
- NOM.=Nominal Power 公称(定格)電力の略です。連続的に許される電力です。
- P1000Kは瞬間的に36Wまで許され、連続的には12Wまで許されます。
- これを超えて使うと、故障したり、コイルが焼けたりします。
- このように電力を記載している意味を考えましょう。電圧ではありません。
- スピーカーを電力駆動することを前提にしているからです。
P1000E(エンクロージャー)
- P1000Kに適合するエンクロージャーがバスレフ型のP1000Eです。
- バスレフ型を解説するまえに、そもそもなぜエンクロージャーを必要とするのか知らなければなりません。
- スピーカーはコーンと呼ばれる振動板を前後に移動させることにより、空気に振動を伝えます。
- うちわを振れば空気が動くのと、原理は同じです。
- 空気の振動は前と後ろの両方に伝わります。これが一方だけなら話は簡単なのですが、仕組み上仕方がありません。
- われわれが必要としているのは前方の音だけです。後ろの音は不要です。
- しかも位相が逆です。簡単に言えば、波の山と谷が前方の音と後方の音で逆です。
- 波には回折という広がる(回り込む)性質があります。
- そのため、振動板だけだと、後ろの音が前に回り込み、位相が逆なので前の音を打ち消すという現象が発生します。
- そこで振動板の前後を無限大の面積の板で仕切り、後ろの音が前に回り込むのを防ぐことにします。
- こうすれば、後ろの音が前に回り込むことがありません。
- これがエンクロージャーの原型です。
- 原理上スピーカーに加えたエネルギーの前半分しか利用しないので、エネルギー変換効率が50%を超えることはありません。
- しかし、無限大の面積の板は事実上不可能です。部屋の中に無限大の板を設置できません。
- そこで、後ろ側の音を箱に封じ込めてしまおうと考えたのが、「密閉型」のエンクロージャーです。
- もちろん、箱の中に吸音材を詰め込んで、できるだけ音を消し去ります。完全には消せないので、箱鳴りという現象が発生します。
- ※吸音材だけでなく、無響室のエンクロージャーが登場することを願います。
- ※円錐状の型を内部に多数張り付けるだけです。コストを下げるには円錐状の型枠を使って板を成型すればよいだけです。
- エンクロージャー(enclosure)とは「閉じ込めるもの(クローズするもの)=囲うもの」という意味です。
- こうして密閉型のスピーカーが誕生しました。
- さて、密閉型のエンクロージャーは後ろの音を封じ込めるために、密閉してしまったので、振動板が前にも動きにくい副作用が発生します。
- 特に密閉していると低音がこもりがちになります。
- 密閉したシリンダ(注射器など)は動きにくいですよね。先に穴をあけないとシリンダの動きがよくなりません。
- そこで考え出されたのが「バスレフ型」です。
- エンクロージャーに穴をあけ、空気の通りをよくして低音のこもりを改善しました。
- ただし、何も考えずに大きな穴をあけてしまうと、せっかく後ろの音を封じ込めたのに、それがもれて前の音を打ち消してしまいます。
- エンクロージャーの意味がなくなります。
- そこでバスレフ型は密閉型よりも低い周波数で共振するダクト(筒)をつかって空気を逃がすようにします。
- 筒の形状で共振周波数を調整できます。開放端の波の共振周波数の設計です。
- 低い音(Bass)しか逃がさないので、後ろの高音が前に回り込んで打ち消すことはありません。
- ※実際には基本周波数の整数倍で共振するので数kHzのあたりで打ち消すことが知られています。
- 同時に箱の裏板に低音を反射(Reflex)させることで位相反転させ、むしろ低音を補助するようにします。
- バスレフ(Bass Reflex)とは低音反射という意味で、密閉型の弱点を改善する目的です。
- バスレフの考えをさらに発展させ、後ろの音を位相反転させ、積極的に利用しようとしたのが「バックロードホーン型」です。
- ただし、設計方法が確立しておらず、うまくやらないと、前方の音を打ち消してしまい逆効果です。
- やりすぎはやらない方がましです。
- エンクロージャーをこねくり回しすぎると、特性を予測できません。
P1000E+P1000Kの組み合わせ
- さてスピーカー・ユニット(P1000K)とエンクロージャー(P1000E)の組み合わせは構造がシンプルです。
- バスレフ型であり、タオルでダクトを塞げば密閉型としても利用できます。
- こねくり回していないので、アンプをつなげたときの特性もある程度予測できます。
- スピーカーがこねくり回されていると、アンプとつなげたときの特性が予測できません。
- アンプの違い(電圧増幅器と電力増幅器)が、スピーカー駆動にどのような違いを生じるのかを紹介します。
P1000E+P1000Kの組み立て
- P1000EとP1000Kを組み立てます。
- まずは箱から傷をつけないように取り出します。組み立ての際に傷をつけてしまうと幻滅してしまいます。
- 次に取扱説明書を読み、見通しを立てます。無計画は失敗のもとです。
- エンクロージャーの取り付け穴を直接ねじで開けてしまうと、ねじ部の木が盛り上がってしまいます。
- そこで、まずスピーカー・ユニットを仮置きして、ねじ穴をセンターポンチで位置決めします。
- 電動ドリルで2mmの下穴をあけます。こうすることで木ねじがずれることも木が盛り上がることもありません。
- 内部配線をしてからねじ止め作業に入ります。配線の赤と黒を間違わないようにします。
- スピーカー・ユニットにエンクロージャーとの間に挟む、シートがあるので忘れないようにしましょう。
- 木ねじは対角順に少しずつ締めます。締めすぎるとねじが馬鹿になり抜けます。
バスレフ型と密閉型のインピーダンス特性
- まずはインピーダンス特性を測定します。
- 密閉型ではダクトにタオルを詰めます。
- 電圧増幅器を使います。
- 理論通りの共振周波数が現れるでしょうか。
- 左側のグラフに注目してください。
バスレフ型のインピーダンス特性
- 47Hzと140Hzに低音共振周波数があります。
- バスレフ型の典型的な特性です。
- この47Hzがダクト(バスレフ)による共振周波数です。
- 140Hzはスピーカー・ユニットの機械的共振周波数です。ダンパーやエッジに起因します。
- 周波数が高くなるにつれ、ボイスコイルのインダクタ成分によってインピーダンスが増加します。
- インダクタは高い周波数を通しにくい性質があります。
密閉型のインピーダンス特性
- 120Hzに低音共振周波数があります。
- 密閉型の典型的な特性です。
- ダクトによる共振周波数がなくなりました。
- 120Hzはスピーカー・ユニットの機械的共振周波数でバスレフと同じです。周波数が少しずれているのはダクトを閉めた影響です。
- 周波数が高くなるにつれ、ボイスコイルのインダクタ成分によってインピーダンスが増加します。
最低共振周波数f0の意味
- 電圧増幅器では最低共振周波数は低音の下限目安です。
- 共振するということは、電気信号の指示に従わず勝手に振動を始めます。
- ビルが低周期地震で共振したり、吊り橋が風に共振することがあります。
- つまり、最低共振周波数以上なら電気信号に追従すると考えることができます。
- ※共振するとはいえインピーダンスが無限大ではないので、完全に追従せず、コントロール不能というわけではありません。
- ※周波数特性はフラットな位置から10dBを下回らないことが条件です。この条件を満たすことができなくなります。
最低共振周波数の補足
- 誤解が多いので補足します。ビルや橋の共振とスピーカーの共振は逆の現象です。
- ビルや橋は静止していることが正常で、振動することが異常です。
- ビルや橋の共振で振動が大きくなります。プラスに働く共振です。
- スピーカーは振動することが正常で、静止する(あるいは振動が減少する)ことが異常です。
- スピーカーが電気信号に従わなくなると、音が小さくなります。
- スピーカーの共振で振動が小さくなります。マイナスに働く共振です。
- 最低共振周波数付近では次のことが起こります。
- 電気信号が振動板を押そうとしているにもかかわらず、振動板が戻ります。
- 電気信号が振動板を戻そうとしているにもかかわらず、振動板が押す方向に動きます。
- 電気信号と振動板が反対の動きをします。専門的には位相ずれを起こしています。
- お互いに反対の動きをして打ち消しあい、音が小さくなります。
- それゆえ、電圧増幅器では最低共振周波数が低音の下限と言われています。
- ※インピーダンスとは交流における抵抗です。抵抗が大きいと電気の流れを妨げます。
- ※抵抗が大きいと電気があまり流れません。つまりスピーカーが仕事をしなくなるので音が小さくなります。
- ※もし最低共振周波数f0で振動が大きくなるなら、音圧は上がるはずです。
- ※ところが周波数特性をみると最低共振周波数f0の音圧は下がっています。
- ※つまり最低共振周波数は音が小さくなる現象です。
電圧増幅器と電力増幅器の出力電力特性
- 次に駆動方式の違いを測定します。
- 密閉型ではダクトにタオルを詰めます。
- 電力増幅器を使います。
- 科学的な(理想的な)スピーカーの駆動は電力増幅器です。
- 右側のグラフに注目してください。
バスレフ型の出力電力特性
- 47Hzと140Hzに低音共振周波数があります。
- 駆動方式の違いでスピーカーのインピーダンス特性が変わるわけではありません。
- 電圧増幅器では出力電力がインピーダンスの影響を受けて最大で6dBも変動します。
- 一方、電力増幅器では影響を(ほとんど)受けずフラットです。
- 入力電圧が固定ですから、出力電力が一定であることが理想です。
- スピーカーは電気エネルギー(電力)を音エネルギーに変換する装置です。
- 音はスピーカーの仕事量に比例します。
密閉型の出力電力特性
- 120Hzに低音共振周波数があります。
- 駆動方式の違いでスピーカーのインピーダンス特性が変わるわけではありません。
- 電圧増幅器では出力電力がインピーダンスの影響を受けて変動しているのに対し、電力増幅器では影響を(ほとんど)受けずフラットです。
インピーダンスの意味
- インピーダンスとは交流における「抵抗」です。
- 文字通り、電気の流れに抵抗します。
- 抵抗が大きいほど電気の流れを妨げます。
- 電圧増幅器ではこの影響をもろに受け、スピーカーを駆動しきれなくなります。
- スピーカーの音は仕事量に比例します。仕事量は電力に比例します。電圧増幅器では抵抗により低音と高音で本来の電力が伝わりません。
- それゆえ、電圧増幅器ではインピーダンスの高い低音と高音で周波数特性が低下します。
- これがいわゆる低音不足、高音不足の原因です。本来あるべき電力が伝わらないのですから当たり前です。
- ところが本来あるべき駆動方式の電力増幅器ではインピーダンスの影響を(ほとんど)うけません。
- つまり、スピーカーを制御しきれており、電気信号に追従します。
- それゆえ、低音不足や高音不足を(原理上)起こしません。
- 電力増幅器においては、低音共振周波数が周波数特性の下限目安になりません。
- 単に音量が正しくなるだけではなく、音色も正しくなります。理想に近づきます。
パワーアンプの技術革新(イノベーション)
- 今回、電力駆動するパワーアンプを開発しました。
- そして理論通りの特性を確認できました。
- これほどワクワクすることはありません。
- 本来あるべきスピーカーの駆動を実現しました。
- P1000E+P1000Kの性能を引き出すことに成功しました。
- 昔では考えられない音が部屋に響いています。
- これがフルレンジの音とは信じられません。
- ※もちろん、スピーカーの基本性能を超える音が出力されるわけではありません。
- 住宅事情が許されるなら、大型のJBLなどを駆動してみたいものです。
アンプとスピーカーの構成
- (1)アンプ+フルレンジ・スピーカー
- もっとも基本的な構成です。
- デメリットは電圧駆動すると高音と低音が低下します。
- 電力駆動すると改善されます。
- (2)アンプ+ネットワーク回路+2ウェイ・スピーカー
- ネットワーク回路(フィルタ)で高音と低音を分割します。
- デメリットは高音スピーカーと低音スピーカーの音圧を同じにできません。
- また周波数のクロスオーバー(交差点、つなぎ目)をフラットにできません。
- (3)チャンネル・デバイダー+アンプx2+スピーカーx2
- チャンネル・デバイダーで高音と低音を分割します。
- 2つのアンプで高音スピーカーと低音スピーカーの音圧を同じに調整できます。
- デメリットは周波数のクロスオーバー(交差点、つなぎ目)調整が大変です。
- (4)バイアンプ+専用スピーカー
- 2つのアンプで高音スピーカーと低音スピーカーを別々に駆動します。
- デメリットは周波数のクロスオーバー(交差点、つなぎ目)をフラットにできません。
基本が大事
- 何事も基本が大切です。
- 基本ができてなければ、応用できません。応用しても崩れます。
- 基礎をおろそかにすれば、問題が発生します。根底から崩れます。
- 建物でもそうですね。基礎工事を手抜きすれば、どんなに立派な建物でも傾いたりします。倒壊するかもしれません。
- 基本に立ち返り、スピーカーを電力駆動することが大切です。
- 基本をおろそかにすれば、正しい音を期待できません。
理想と現実
- 混乱するので、補足程度にとどめます。
- 理想(=理論=理屈)と現実は異なります。
- 現実は理論通りにいきません。
- だからといって理論をおろそかにしてはいけません。
- 理論通りにしなければ、現実はもっと理論からかけ離れた結果になります。
- ただでさえ理屈通りにいかないのに、理屈を無視したらもっと理屈通りにいきません。
- 間違った前提から正しい結論は得られません。
- 間違った入力から正しい出力(音)は得られません。
パワーアンプの紹介
- まずは試してみたいとの要望にお応えして、現在入手できる電力増幅器の紹介です。
- 電圧増幅器ではなく、電力増幅器の音を聞いて確かめてください。
- 現在のところ、ここだけしか入手できません。
- まずはイコライザーなしのノーマル状態でスピーカーやイヤホン本来の個性を確認ください。
- その後、お好みの音を追及したり、調整するとよいでしょう。
- LIIE: Load Impedance Independent Engine Technology
- OCL: Output Capacitor-less Technology
メーカーの方へ
- キー・テクノロジーであるLIIEテクノロジーの解説書を用意しています。
- アンプにイノベーションをもたらすLIIEを導入すると差別化できます。
- LIIEは汎用性が高くほとんどのアンプに適用できます。
- オーディオ機器はもちろんスマートフォン、PCなど適用範囲はたくさんあります。
- NDAが必要です。
- メールにてお問い合わせください。
補足(オームの法則、電力)
- 補足としてオームの法則、電力の式を掲載します。
- この式をみれば、なぜ電圧増幅器の出力電力がインピーダンス変動に左右されるのかわかります。
- 科学的に音はスピーカーの仕事量に比例します。電圧に比例するわけではありません。
- スピーカーが仕事をした分だけ、音が出力されます。仕事量とはエネルギーです。
- 電気の世界のエネルギーとは電力(パワー)です。
- それゆえ、スピーカーの駆動にパワーアンプ(電力増幅器)を必要とします。
- ※交流におけるインピーダンスをZと表記します。
- ※直流における抵抗をRと表記します。
- ※直流か交流かの違いです。
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