アンプの用語
はじめに
- 「電流帰還」という言葉が一人歩きしています。
- 細かい話は脇におき、できるだけ簡単に解説しようと思います。
- そのため厳密性に欠けますが、概要を理解する手助けになります。
- ポイントはアンプの出力方式とアンプの内部構造は別物です。
- これが混乱の元でもあります。
- 電流帰還型オペアンプを使うと電流出力(電流駆動)するわけではありません。
- ※まれに電流出力型のオペアンプもあったりするので、混乱しないようにしましょう。
- ※電流帰還とは幅の広い言葉で、方法は一つだけではありません。
- ※自動車のハイブリットといっても色々な方法がありますよね。
- ややこしいですね。
著作権と免責事項
- 個人利用に限定され、著作権者の許可なく商用利用できません。
- 直接間接に関わらず、使用によって生じたいかなる損害も筆者は責任を負いません。
出力の違い
- これからいろいろ話をしますが、忘れてはいけない科学的な基本(根拠)があります。
- 本来必要としているのはパワーアンプであり、電力増幅器です。
- 電圧増幅器でもなければ電流増幅器でもありません。
- 現在は仕方なく、電力増幅器の代用として電圧増幅器を利用しています。
- グラフは負荷インピーダンスと出力電力特性の典型例です。
- スピーカーのインピーダンスは変動するので、電力増幅器が理想です。
- 科学的に音はスピーカーの仕事量に比例します。スピーカーの仕事量はアンプの電力に比例します。
- だから音はアンプの電力に比例します。
- 単純明快ですね。数学の証明問題ならA=BそしてB=C、だからA=Cです。
- スピーカーの仕事量はアンプからの電圧に比例しません。だから音はアンプからの電圧に比例しません。
- スピーカーの動作原理はモーターと同じです。ですから電圧ではなく電力に比例します。
- なぜスピーカーの駆動にボルテージアンプ(電圧増幅器)ではなく、パワーアンプ(電力増幅器)を必要としているのか理解できたでしょう。
- パワーアンプと呼んでいるのは科学的な根拠があるからです。
電圧帰還と電流帰還の違い
- 電圧帰還とはアンプ(増幅器)を電圧で帰還制御します。
- 電流帰還とはアンプ(増幅器)を電流で帰還制御します。
- その大きな違いは周波数特性です。
- 電圧帰還型オペアンプと電流帰還型オペアンプの典型的な特性を比べてみます。
- 電圧帰還型オペアンプは利得と周波数特性にトレードオフの関係があります。
- つまり周波数特性を広くしようとすると利得を下げなければなりません。
- 最近、ツーイーターの高域特性が伸びたことにより、アンプも追従する必要に迫られました。
- アナログのハイレゾの定義では40kHz以上を出力できることが求められます。
- しかも最大出力電力が大きい場合、利得も必要です。
- 例えば高域特性が20kHzで100W出力のアンプを40kHzに伸ばすためには50W出力に下げなければなりません。
- 従来の電圧帰還型オペアンプでは利得と広い周波数特性を両立することができません。
- そこで、電流帰還型オペアンプの登場です。
- 電流帰還型オペアンプは利得と広い周波数特性を両立することができます。
- ※わかりやすく電流帰還型オペアンプで話をしましたが、オペアンプを使わず個別部品で電流帰還を構成したアンプでも同じです。
- ※もともと電流帰還型オペアンプはオーディオ用ではなく、ビデオ信号など高周波増幅用に開発されました。
- 現在世の中にある高級アンプに搭載されている電流帰還は高域特性を伸ばす目的です。
従来の電流帰還と電圧出力
- さて、このようにして電流帰還を搭載した電圧増幅器が登場しました。
- あれ、なんか変と感じたあなたは鋭いです。
- 電流帰還を搭載したのだから、電流出力になるのではと思うはずです。
- それが違うのです。だからややこしいのです。
- 現在、電流出力(電流駆動)するアンプは販売されていません。
- 電流帰還を搭載したアンプは同時に電流電圧変換回路(IV変換)も搭載し、最終的に電圧出力します。
- アンプ内部で電流帰還を利用しているのは周波数特性の改善のためであり、電流出力するためではありません。
- 電流帰還に意味があるのではなく、電流増幅に意味があります。
- もともとトランジスタは電流増幅素子であり、電流増幅を得意としています。
- 得意分野を活かすと周波数特性が伸びます。
- 単なる電圧増幅ではなく、電流増幅してから電流電圧変換します。
- これが現在ある電流帰還の仕組みと目的です。
新たな電流帰還と電力出力
- さて本来必要としているのは電圧増幅器ではなく、電力増幅器です。
- そこで、電圧帰還と電流帰還を利用した電力出力する電力増幅器を開発しました。
- そう、ここでの電流帰還の目的は電力増幅器です。
- 主目的は電力増幅の実現です。従来とは目的も設計も異なります。
- 電流帰還という言葉に引きずられるのではなく、目的を理解する必要があります。
- 電流帰還を搭載しているからと言って、電力増幅を実現しているとは限りません。
- ですから「電流帰還を少しかけると、インピーダンスの高い低音と高音が改善される」とは限りません。
- 目的を実現するように設計しなければそのように動作しません。
- 一般論として目的を実現する方法は1つとは限りません。目的と手段(方法)は別です。
- もちろん電流帰還の副産物として高域特性も改善されます。
- 我々が求めているのはパワー(=電力)アンプ(=増幅器)です。
- 電圧増幅器で代用する時代は終わりました。
- このすごさをわかっていただけるでしょうか。このワクワクを味わってみませんか。
- 長年かけても実現できなかった電力増幅器が誕生したのです。
フルレンジと3ウェイ・スピーカー
- 電流帰還(正確には電力アンプ)は3ウェイ・スピーカーに向かないとまことしやかにささやかれています。
- 本当でしょうか?科学的な根拠は?
- 世の中、噂を鵜呑みにしてしまうと嘘がまかり通ってしまいます。
- 常に基本に戻り、科学的な根拠を確認しましょう。
- もともと「電圧」増幅器でフルレンジを駆動するとインピーダンス変動が大きいために、広い周波数帯域を確保できません。
- 「電力」増幅器でフルレンジを駆動すると広い周波数帯域を確保できます。
- そこで、仕方なしに「電圧」増幅器でマルチウェイを駆動することで、広い周波数帯域を確保しようとしました。
- 考え方(理屈)としては正しいです。工夫としては正しいです。
- では特性の異なる3つのスピーカーを途切れなく、特性をきっちりと組み合わせることはできるでしょうか?
- 理論と現実は異なります。理論通り実現できるでしょうか?
- これは匠の技が必要です。どうしても継ぎ目を生じます。どんなに頑張っても継ぎ目はなくなりません。
- なかには見た目だけ3ウェイにして、特性をおろそかにした粗悪なスピーカーもありました。
- 理屈としては正しいのですが、現実問題として実現することが難しいのです。
- 洋服に例えてみましょう。2つの特性の違う生地、例えばジーンズとシルク。これを縫い合わせたとき、つなぎ目が見えないでしょうか?
- 匠の技で特性を合わせこんだ3ウェイ・スピーカーは素晴らしいものです。ただし、めったにお目にかかれません。
- 内部のネットワーク回路もしっかりしており、調整できるものさえあります。
- そしてこのネットワーク回路とスピーカーの特性によって、インピーダンス変動をできるだけ抑え込んでいます。
- それゆえ、「電圧」増幅器でもインピーダンス変動が比較的少ないため、広い周波数帯域を確保できます。
- 3つのスピーカーに対して、各周波数で出力電力変動ができるだけ抑え込まれます。
- もちろん完全にインピーダンスがフラットになるわけではありません。
- これがマルチウェイの科学的な解説です。
- さて本題に戻ります。
- 匠の技で特性を合わせこんだ3ウェイ・スピーカーを前提にします。粗悪品を前提にしません。
- 電流帰還には検出抵抗があり、それをフィードバック制御に利用します。
- ではインピーダンス変動の少ないマルチウェイを電流帰還で駆動するとどうなるのでしょうか?
- 電流帰還の変動があろうとなかろうと正しく制御します。変動がないと異常動作するわけではありません。
- ですから電流帰還(正確には電力アンプ)で3ウェイ・スピーカーを駆動しても問題ありません。
- 何が顕著に変わるかといえばウーハーの低域です。
- マルチウェイのウーハーはネットワーク回路によってローパスフィルタされています。
- このローパスフィルタに下限設定はありません。
- 例えば3kHzのローパスフィルタで100Hz以下をカットするようなことはしません。
- ということは、「電圧」駆動で再現できなかった低音が再現されることになります。
- 実際、この現象を確認したときには驚いたものです。
- 結論として、科学的にマルチウェイ・スピーカーを電流帰還(正確には電力アンプ)で駆動しても問題はなく、むしろ低音を再現する効果があります。
- ※当たり前のことですが、粗悪なマルチウェイ・スピーカーを電流帰還で駆動したら、むちゃくちゃになります。
- ※もともとスピーカーが粗悪(むちゃくちゃ)なだけです。アンプ側に責任はありません。
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