ステップアップ・コンバータ

はじめに

一般的なステップアップ・コンバータ(ブースト・コンバータとも呼ぶ)を PIC で制作してみました。
直流電圧を昇圧するものです。
専用のICも用意されていますが、原理を理解するために、さらに改良を加えられるように PIC を使いました。
12F683 にはステップアップ・コンバータに必要なA/DコンバータとPWM(Pulse Width Modulation、パルス幅変調)を搭載しています。

原理

ステップアップ・コンバータの原理はインダクタ(コイル)に蓄えた電力を上手く引き出して利用します。
コイルは電流のON/OFFに対して不思議な性質を持っています。
状態を常に維持しようという性質があり、定常電流が流れている場合に急に OFF すると流れ続けようとします。
逆に電流が流れていない場合に急に ON すると電流を流さないように働きます。
そのためコイルに流れる電流の ON/OFF を繰り返すと、切り替えの瞬間に電圧が変化します(電流を維持しようとするため)。
これを巧妙に利用したものがステップアップ・コンバータです。

ON/OFFの制御にPWMを用い、出力電圧検出にA/D変換を用います。出力電圧に応じてPWM(パルス幅)を制御します。
このフィードバック制御により、出力電流が変化しても出力電圧を一定に保ちます。

ステップアップ・コンバータは比較的電力の変換効率が高く、いろいろと利用されます。
昇圧DCDCコンバータにはこのほか、コンデンサを利用したチャージポンプ方式があります。
最近では乾電池で白色LEDを駆動するためにも用いられます。
ここでは、5V から 12Vへ変換するステップアップ・コンバータを例にします。
手元にある部品のみを使用しました。


仕様

改良前
入力電圧5V
出力電圧12V
出力電圧リップル0.1Vpp
最大出力電流10mA
変換効率約70%
PWM周波数100KHz
改良後
入力電圧5V
出力電圧12V
出力電圧リップル0.5Vpp
最大出力電流100mA
変換効率約80%
PWM周波数100KHz

回路図

  1. 入力電圧5VをそのままA/D変換の基準電圧として利用します。
  2. 基準電圧の半分を基準にPWMを制御します。出力電圧が高すぎれば低くなるように、出力電圧が低ければ高くなるようにします。
  3. R2 と R3 によって出力電圧がきまります。5V / 2 = Vout x R3 / (R2 + R3)
  4. 小型化させるためにマイクロインダクタを使用しました。
  5. インダクタの容量はカットアンドトライで選択しました。
  6. 出力電流10mA以上取り出さないでください。異常発振を起こすことがあり、出力電圧が追いつかないばかりでなく、過大な入力電流が発生します。

改良のためのヒント
  1. 出力電圧を変更する場合は R2 と R3 の比を変更します。同時にC2の耐圧に気をつけます。
  2. 出力電圧は25Vくらいまで実用になります。ただし取り出せる電流は少なくなります。
  3. リップルを減らすためにはC2の容量を大きくします。
  4. 入力電圧を基準としているため、入力電圧の変動が出力にも現れます。
  5. 電流をもっと取り出すためには、内部抵抗の低いインダクタ(トロイダルコア)とON抵抗の低いトランジスタ(MOSFETなど)を利用します。変換効率も改善されるでしょう。
  6. 12F683は内部発振8MHzで動作しており、電源電圧範囲は3Vから5.5Vです。
  7. PWM周波数は200KHzくらいまで上げることができますが、DUTY解像度が低くなります。内部発振8MHzではこれが限界です。変換効率はほとんど変わりません。PICであれば高調波を避けるためにPWM周波数を簡単に変更できます。
改良版

  1. 出力電流の増加と効率の向上を目指して改良してみました。
  2. 2SC1815から内部抵抗の低いFET 2SK1772に変更しました。
  3. これに伴いFETの駆動抵抗を1Kから100に変更しました。
  4. PWM周波数で最適になるようにインダクタL1を470uHから47uHに変更しました。
  5. フィードバック電圧が安定するようにC3 1000pを追加しました。
  6. 整流ダイオードをショットキー 1S4 に変更しました。
改良にあたっては、PSpice を使ってシュミレーションを行いました。
駆動電圧のリンギング対策やインダクタの最大電流確認など重宝しました。
一般的にパワーMOSFETは入力容量Cissが大きいのですが、2SK1772 は小さいため、PICで直接駆動しています。
通常は入力容量のためにスイッチングが遅延し、期待したPWM制御にならないことがあります。
このため溜まった電荷を吸い出す駆動回路を追加する必要があります。


部品表

改良前
備考
1K1R1 カーボン皮膜抵抗1/6W
91K1R2 カーボン皮膜抵抗1/6W
24K1R3 カーボン皮膜抵抗1/6W
22uF1C1 縦型電解コンデンサ(耐圧16V)
100uF1C2 縦型電解コンデンサ(耐圧25V)
1N40071D1 ショットキーが望ましい
12F6831U1 PIC
2SC1815Y1Q1 NPNトランジスタ
470uH1L1 マイクロインダクタ
改良後
備考
1001R1 カーボン皮膜抵抗1/6W
9.1K1R2 カーボン皮膜抵抗1/6W
2.4K1R3 カーボン皮膜抵抗1/6W
22uF1C1 縦型電解コンデンサ(耐圧16V)
100uF1C2 縦型電解コンデンサ(耐圧25V)
1S41D1 ショットキー・バリア・ダイオード(SBD)
12F6831U1 PIC
2SK17721Q1 MOSFET
47uH1L1 マイクロインダクタ
1000pF1C3 セラミックコンデンサ

基板例



ファームウェア

DCDC2.zip
プログラムの説明

評価

設計した回路を実際に組み、実測してみました。
負荷抵抗[Ω]入力電圧[V]入力電流[mA]出力電圧[V]出力電流[mA]変換効率[%]
無負荷4.91.711.8500
10K4.95.211.841.18455.0
3.3K4.912.111.743.55870.4
2K4.919.311.725.8672.6
1K4.937.111.5311.5373.1
5104.979.811.4022.3567.7
入力電圧が5Vではなく4.9Vとなっているのは、たまたま使用した5V三端子レギュレータの電圧が4.9Vであったためです。

改良後の特性(Vin=5V)
副作用

備考

12F683に限った話ではありませんが、PICの PWM 制御で DUTY の説明が不十分です。
Dutyを決める CCPR1L:CCP1CON<5:4> の値は「Lowパルスの期間」を決定します。
図ではあたかも「Highパルスの期間」のように見受けられ、誤解を招きます。
ご注意ください。

追記)予想通り12F683のエラッタ(DS80196F)に、データシート(DS41211D)の修正が追記されました。
PWMの動作を決めるCPP1CONレジスタのCCP1Mビットに実はactive-highとactive-lowの設定が隠されていました。
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