- まだ開発中です。(慎重に開発を進めており、計測時間も十分にとって何度も確認を行っています。)
- 放射線スペクトル分析器、放射線スペクトロメータとも呼ばれています。
- PINフォトダイオード(PS100-7, X100-7)を利用した放射線分析器です。
- 遮光されたモデルX100-7が発売されました。
X100-7 THD
X100-7 SMD- γ線のエネルギー分布(波高頻度分布)を知ることで、放射性核種を特定できたりします。
- 例えば、セシウム137は0.662 MeVのエネルギーをもつγ線を放射します。この部分のエネルギーを検出すればセシウム137を検出したといえます。
- PINフォトダイオード(PS100-7, X100-7)を単なる放射線量計に利用するのはもったいないので開発に着手しました。
- もともとPS100-7, X100-7はこの用途に適しています。
- 半導体検出器はエネルギー分解能が高いことが知られています。
- シンチレーションを利用すると検出率は向上しますが、分解能が低くなるという弱点があります。
- PS100-7, X100-7 は面積が広く、シリコンも厚いことから、十分な検出率が得られるため、シンチレーションを使わないで進めます。
- PINフォトダイオードとアンプを内蔵した検出部が出来上がりました。
- 小型で薄型です。
- コスト意識が高すぎて、小型のPINフォトダイオードで十分な感度、精度が得られないのでは、意味がありません。
- まずは実用性を確保することが優先です。コスト低減はそれからです。
- 大型のPINフォトダイオードは高価に見えますが、量産効果でコストダウンすることができます。
- 実は工場で1個生産するのも1万個生産するのも、手間やコストにあまり違いはありません。
- そのため、個別販売では単価が高くなり、量産すれば単価が下がります。単価=生産コスト÷生産個数です。
- 量産を考えている方はご相談ください。取引先をご紹介させていただいます。
- 個人利用に限定され、著作権者の許可なく商用利用できません。
- 直接間接に関わらず、使用によって生じたいかなる損害も筆者は責任を負いません。
- 仕様は予告なく変更されることがあります。
- GM管を使わない放射線検出器です。
- PINフォトダイオードを使ったγ線、X線の検出器です。
- 放射線がフォトダイオード内部(空乏層)で吸収や散乱すると電荷が発生します。吸収時を光電効果、散乱時をコンプトン効果と呼びます。
- 電子対生成は最低でも1.022MeV必要であり、放射性物質のγ線エネルギーでは生じません。
- 宇宙由来のγ線はエネルギーが高いことが知られています。つまり電子対生成の大半は宇宙由来のγ線によって引き起こされます。
- この電荷を電圧パルスとして取り出します。
- 原理上、β線、γ線、X線を検出します。アルミ箔で遮光しているため、α線を検出できません。
- シリコンのE値は3.65eVです。シリコン原子は3.65eVのエネルギーを受けると電子がはじきだされることを意味します。
- 電磁波(光、γ線)のエネルギーは次の式で表されます。
- h:プランク定数
- ν:周波数
- c:光速
- λ:波長
- 可視光の波長は400nmから800nmに対してγ線の波長は10pm以下です。つまり大雑把にγ線のエネルギーは可視光の1万倍あります。
- γ線のエネルギーがシリコンのE値を超えて衝突すると電子がはじき出されます。ただし必ず衝突するとは限りません。
- 60KeV以下は光電効果が主体で、60KeV以上はコンプトン効果が主体になります。
- 6MeV以上は電子対生成が主体になります。
- 放射線核種から放出されるγ線のエネルギー範囲は5keVから4MeV程度ですので、電子対生成を生じにくいです。
- シリコンによるγ線の検出効率はエネルギーが低いほど高く、エネルギーが高いほど低くなります。
- 10keV前後ではほぼ100%の検出確率ですが、100KeV以上1MeVでの検出効率は1%前後です。
- シリコンの厚さ(正確には空乏層)に依存します。厚いほど検出確率が上がります。
- γ線のエネルギーが高いほど透過力が高いため、シリコン原子に衝突する確率が低くなります。
- シリコンのE値は3.65eVと低いため、エネルギー分解能が高いことも意味します。
- β線のエネルギーは連続であり、最大エネルギーが決まっているだけで、γ線のような固有スペクトルにはなりません。
- そこでβ線を遮断するため、アルミ板でフィルタします。
- エネルギーはパルスの波高に変換されます。
- この波高を波高分析器(MCA:マルチ・チャンネル・アナライザ)、パルス波高分析器(PHA:Pulse Height Analyzer)にかけ、エネルギースペクトルを解析します。
- 本来であれば、放射線がPINフォトダイオードに衝突した際に発生するインパルスを直接計測できればよいのですが、インピーダンスが高く瞬間的なパルスであるため出来ません。
- そこで、検出パルスを取り出す方法が考案されました。放射線のエネルギーはパルスの波高に比例します。(放射線量はパルスの面積に比例するといわれています)
- これをPulse Shaping(パルスの整形加工)と呼びます。
- 検出パルスは小さく、ノイズに埋もれてしまわないように工夫が必要です。
- 短い検出パルスほどノイズを分離しやすくなります(ノイズをフィルタしやすい)。また高い線量を計測できます。一般的には1us前後で取り出します。
- パルス幅は微分や積分の時定数τ=RCで決定します。微分回路はハイパスフィルタであり、積分回路はローパスフィルタです。
- 簡単に言えば、パルスシェーピングとはバンドパスフィルタです。
- 簡易的にはいくつかの回路を省略することがあります。
- PINフォトダイオードで電荷によるインパルスが発生します。
- チャージアンプで電荷を電圧に変換します。インピーダンス変換の意味合いもあります。出力は尾の長い方形波となります。
- 方形波を微分回路で短いパルスに戻します。アンダーシュートを防ぐため、Pole Zero Cancellation回路も併用します。
- 多段積分回路でノイズ除去とガウス波形に整形します。微分や積分を繰り返すため、演算に影響しないカスプ波形が理想ですが、この波形に近いガウス波形で代用します。 (exp関数は何度微分、積分してもexp関数であることを利用します)
- ベースライン再生回路(Base Line Restorer)で波形を安定させます。波形の基準点を0Vにします。単電源オペアンプではDCバイアスがかかっているので、簡易的にはDCバイアスを減算します。
- MCAはパルスをAD変換して取り込み、波高を抽出します。
- 明らかにノイズとわかるものを排除し、波形を選別します。
- AD変換の解像度は12ビット(4096段階)が一般的です。簡易的には10ビット(1024段階)でも実用になります。
- 波高の頻度分布をグラフ化します。
- AD変換の速度を考察する必要があります。
- 1usのパルスの波高をサンプリングするためには、最低0.1us(10MHz)くらいのサンプリング周波数が必要です。
- 10MHzのサンプリングはAD変換としてかなり高速です。
- 外部にサンプルホールド回路を設けて、AD変換する方法があります。もちろん弊害もあります。
- 時定数を落としてサンプリングする方法があります。もちろん弊害もあります。
- 実験中ですが、放射線スペクトル分析には時定数が重要なことがわかってきました。
- 波形をしっかりと整形し、ノイズ分離する必要があるためです。
- 回路設計にあたり、LTspiceで回路シミュレーションを行っています。
- 非常に敏感でシールドを必要とする実際の回路で思考錯誤するのは手間も時間もかかります。
- 実際の回路での測定作業も大変です。実際の回路での作業は最小限にとどめたいものです。
- そこで試行錯誤はコンピュータ上でシミュレーションし、大幅な時間短縮を図っています。
- これも高性能なコンピュータがある現代ならではのことです。
- まずはチャージアンプのC1容量による出力波形を確認します。
- 1p, 2p, 5p の例です。見やすいようにDCバイアスを差し引いています。
- C1が小さいほど出力波形が大きいことがわかります。
- LMC662からAD8616に変更しています。
- 回路定数も最適化しています。
- 半導体検出器でよくみる波形に近づきました。
- 次に入力電圧と出力電圧ピークの比例性を確認します。
- γ線エネルギーがピーク電圧に比例することの確認です。
- きれいに比例しています。
- スルーレートの高いAD8616はLMC662より圧倒的に有利です。
- 多くのオペアンプ仕様を検討し、入手性も含めて厳選したのがAD8616です。
- ただし、高性能であるがゆえに、PCのオーディオ端子(AD変換=96KHz)では取り込めません。
- PCで取り込むには、あえてスルーレートの低いLMC662を選択したほうが良いでしょう。
- 実際の検出波形です。
- シミュレーション結果と酷似しています。シミュレーション通りの結果が得られました。
- 波形の下振れもほとんどありません。
- AD8616を使用しているため、波高が高いことがわかります。
- ノイズもやや大きく、0.3Vp-pくらいです。検出パルスが大きいのでスレッショルドで処理します。
- 約400KeV以下はノイズに埋もれてしまい、計測できそうにありません。
- 定数を見直したり、フィルタを強化してノイズ低減が必要かもしれません。
- 低いエネルギーレベルを計測するためには液体窒素で冷却し、熱由来のノイズを低減する必要があります。
- 幸い、知りたいγ線のエネルギーレベルは500KeV-2MeVの範囲にあるので、支障はありません。
- 単に照射面積を広くすると、平均検出確率が改善されます。
- 高エネルギーのγ線はシリコンに衝突する確率が低くなる傾向があります。
- これを改善するためには厚いシリコンを利用する必要がありますが、シリコンウェハースには限界があります。
- そこで、シリコンに入射角をつけて改善する方法があります。
- 例えば、γ線に対して45度の角度をつけると、実質的に1.4倍の厚さのシリコンと同等になります。
- さらにシリコンを重ねれば厚さを稼ぐことができます。
- ただし、照射面積が半分になり、(全エネルギーの平均)γ線検出確率は半分になります。
- つまりこの方法は平均検出確率を犠牲にしますが、高エネルギー領域の検出確率を改善します。
- トレードオフの関係にあります。
- 上記はシンチレータを利用したときのエネルギー分解能の説明にも繋がります。
- シンチレータを利用するとγ線の検出確率は向上しますが、逆にエネルギー分解能は悪くなります。
- 体積の大きいシンチレータほど顕著になります。
- 例えば、大きなシンチレータを使うと隣接したエネルギーのCs134(605KeV,795KeV)とCs137(662KeV)の区別がつかなくなります。
- つまり、シンチレータを使うと感度があがります。一方で放射性物質の特定には不向きです。
- シリコンのみの場合は、エネルギー分解能が高く、放射性物質の特定に向いています。
- この特性の違いを理解し、使い分けが必要になります。
- シンチレータの有無の違いをCs134とCs137が混在している典型的なイメージで示します。
K40Cs134
β 1.31MeV(89.3%) γ 1.46MeV(10.7%) Cs137
β 88.6KeV(27.3%),415KeV(2.51%),658KeV(70.2%) γ 563KeV(8.4%),569KeV(15.4%),605KeV(97.6%),796KeV(85.5%),802KeV(8.7%),1.345MeV(3.0%) Sr90
β 1.176MeV(5.6%),514KeV(94.4%) γ 662KeV(85.1%),32.1KeV(5.8%),36.5KeV(1.3%)
β 546KeV(100%) γ -
- 画面左が検出したパルス信号です。(オシロスコープです)
- 綺麗なガウス波形を確認できます。
- シミュレーション通りです。
- ノイズもかなり抑え込めました。
- 画面右が取得したγ線のエネルギー分布です。(γ線スペクトラムです)
- まだまだ調整が必要ですが、綺麗なエネルギー分布を得られているようです。
- 明らかにところどころに特徴的なスペクトルが見られます。
- PCにデータを取り込みグラフ化しました。
- データを解析中ですが、おそらくセシウムを検出しているようです。
- 他にも放射性物質を検出しており、エネルギーレベルが隣接しています。
- 低いエネルギー領域でβ線を検出しており、アルミ板でβ線をフィルタしています。
- なお計測には時間がかかります。
- 最低でも1000ポイント(サンプリング数)、できれば10000ポイントが必要だからです。
- 10cpm程度であれば、1000/10cpm=100分必要です。
- バックグランドのグラフです。
- 減塩KCLのグラフです。
- カリウムのうち0.0117%は放射性同位体のK40です。
- K40の放射線のうち10.7%が1.46MeVのγ線を放出します。
- つまり、γ線の放射線放出確率は0.0117% x 10.7% = 0.0012519%という非常に微量です。
- K40の放射線のうち89.3%は1.31MeVのβ線を放出するため、β線をフィルタしないと、1.31MeVの半分くらいから下に連続的なβ線を検出してしまいます。
- セシウムを含むサンプルのグラフです。
- 多くのピークが見えます。いくつかの放射性核種が含まれているからです。
- またCs134はさまざまなエネルギーレベルのγ線を放出しているからです(605KeVと796KeVだけではありません)。他の放射性核種も同様です。
- 511KeVには消滅γ線があったり、PINフォトダイオードを斜めに通過するγ線もあります。
- Cs-137のグラフです。幸運にも校正用放射線源をお借りすることができました。
- β線を遮蔽しています。
- 残念ながら662KeVのピークを確認できませんでした。
- 放射線を検出しているのは確実ですが、エネルギー分析できていません。
- 回路を見直す必要がありそうです。
較正は2種類あります。X軸の較正
- エネルギー(eV)の決定。X軸の較正です。エネルギー較正
- 放射線量の較正。Y軸の較正です。γ線検出効率
- シミュレーションから波高がエネルギーに比例していることを確認しています。
- あとはエネルギーとの関連付けだけです。
- 較正にはγ線のエネルギーがわかっている試料を使います。一般的にはRa226が使われます。
- 特に単独のγ線、あるいは2種類程度のエネルギーの試料を使います。
- K40の89%はβ崩壊しますが、11%は電子獲得しその際γ線を放出します。
- ウランガラスは崩壊の過程で非常に多くの種類のγ線エネルギーを放出するため較正には向きません。
Y軸の較正
- K40=1461KeV
- Cs134=605KeV,796KeV
- Cs137=662KeV
- 放射線のエネルギースペクトルだけを知りたいのであれば、較正する必要はありません。
- 放射線量を知りたい場合に補正します。
- 校正用放射線源を使い、較正します。エネルギーレベルによって係数が異なります。
- 補正は放射線の入射角による補正と、半導体検出器の感度補正(ウィンドウの特性も含む)です。
- 半導体検出器は10keV前後ではほぼ100%の検出確率ですが、100KeV以上1MeVでの検出確率は1%前後です。これを補正します。
- 簡単にいえば、同じ放射線量でも10KeVのγ線を100個検出する場合、100KeVのγ線は1個しか検出しません。
- そこでエネルギーレベルによる検出確率を正規化します。具体的には検出確率の近似式の逆数を掛け合わせます。
- これにより、エネルギーレベルによる検出確率の影響が取り除かれ、あとは単位換算するだけです。
- 例えば、3600秒あたりの補正されたカウント総数に係数を掛けて、uSv/h単位に変換します。
- 光電効果、コンプトン錯乱、電子対生成の総合的な感度補正ということになります。
- ちなみにヨーロッパでは、小数点にカンマ","を用います。
- X100-7の検出確率曲線です(PS100-7も同様)。
- 近似式です。
- 10KeV以下は通常必要ないので省略します。
※較正と校正
- 近似式の逆数を掛けることで、エネルギーレベルによる検出率を正規化し、影響を取り除きます。
- 厳密には違いますが、現在はほぼ同じ意味で使われています。
国内法校正用放射線源の利用にはいくつかのコツがあります。
- 「電離放射線障害防止規則」に放射性物質の下限数量規制値を定義しています。
- 放射性物質の種類により下限値は異なります。
- Cs-137の場合、10KBq以下です。
- これ以下の場合、法律の適用外です。つまり所持、所有は違法ではありません。
- なぜこのような規定を設けているかといえば、あらゆる物に微量の放射性物質が混入しているためです。
- もしわずかな放射性物質にも法律を適用してしまうと、誰もが法律違反に問われることになります。
- たとえばカリウムK-40は1MBq以下と規定しています。私たちの体には約4KBqのK-40が存在します。ですので私たちの体は違法ではありません。
- 0.1uCi=3.7KBqです。
- 製造年月が刻印されているのは、半減期を考慮するためです。
- たとえば、30.07年経過すると、放射線量は半分になり、0.05uCiになります。
- 裏面の中心から放射線が放出されます。
- β線とγ線の両方が放射されます。
- γ線に絞るためにはアルミ板でβ線を遮蔽します。
- 事前にガイガーカウンタで校正用放射線源を測定して特徴をつかんでおきます。