鉛蓄電池(Lead Acid Battery)

2008-07-21 初版

■はじめに

鉛蓄電池についてまとめることにしました。自動車のバッテリを代表に広く使われています。 鉛蓄電池は内部抵抗が小さいことから、大電流に向いています。

■鉛蓄電池の仕組み

一セルあたりの構造です。
一般名称一次/二次公称電圧正極負極電解液備考
鉛蓄電池二次2.1V二酸化鉛(PbO2)鉛(Pb)希硫酸(H2SO4)通常は3セルや6セルを組み合わせて6Vや12Vとする
希硫酸の濃度は約35%です。硫酸の濃度が低いものを希硫酸、高いものを濃硫酸と分類します。 これは濃度によって化学的な性質が異なるためです。

化学反応式
充放電正極負極備考
放電PbO2+4H++SO42-+2e- -> PbSO4+2H2OPb+SO42- -> PbSO4+2e-H2Oを生じるため、希硫酸の濃度が低下する
充電PbSO4+2H2O -> PbO2+4H++SO42-PbSO4+2e- -> Pb+SO42-H2Oを分解するため、希硫酸の濃度が上昇する
希硫酸の比重を調べることで充電率を知ることができます。

上記をまとめた化学反応式
正極 + 電解液 + 負極反応方向正極 + 電解液 + 負極
PbO2 + 2H2SO4 + Pb<-充電/放電->PbSO4 + 2H2O + PbSO4
放電によって、硫酸鉛(PbSO4)も生成されます。

■劣化の仕組み

鉛蓄電池の劣化は物理的な破損を除き、放電時に生じる硫酸鉛(PbSO4)が徐々に極板上に結晶し始めるためです。 この現象はサルフェーション(白色硫酸鉛化)と呼ばれます。硫酸鉛(PbSO4)は電気を通しにくいため、 充電時に分解されにくく、徐々に鉛蓄電池の内部抵抗が増えてやがて寿命を迎えます。
このため、鉛蓄電池は満充電状態での保存が望ましく、寿命を延ばすことができます。 逆に、バッテリを上げたりなど使い切るような使い方をすると(これを深放電と呼ぶ)、寿命が短くなります。 一般的に寿命は2、3年といわれています。
最近では深放電(容量の80%程度)に強いディープサイクルバッテリも存在します。 一般的な鉛蓄電池は充電率75%程度(放電率25%)に下がったところで充電するようにしたほうがいいでしょう。 自動車のバッテリは運転時、常に定電圧充電されているため、比較的深放電しにくいように設計されています。 通常、一ヶ月程度乗らなくてもバッテリ上がりしないように設計されています。 (自動車は時計やキーレスエントリなどを動作させるためキーを抜いていても常時微弱電流が流れています。 これを暗電流と呼びます。概ね10mA前後です。)
最近、電解液に希硫酸を使用しないシリコンバッテリというものが登場しました。 希硫酸を使用しないことからサルフェーションを起こさず超寿命を売りにしています。 一方で問題も抱えています。高温で電解ゲルが溶け出して液状化し不良になります。 逆に低温では電解ゲルが電極と接触不良を起こすことが知られています。

■放電容量

JIS型式名容量[Ah]サイズ(長さx幅x高さmm)
28A19L/28A19R21187x127x162
30A19L/30A19R21187x127x162
32A19L/32A19R24187x127x162
34A19L/34A19R24187x127x162
JIS型式名容量[Ah]サイズ(長さx幅x高さmm)
28B17L/28B17R24166x127x202
34B17L/34B17R27167x127x202
34B19L/34B19R27186x127x202
38B19L/38B19R28186x127x202
40B19L/40B19R28186x127x202
42B19L/42B19R30186x127x202
44B19L/44B19R32187x127x202
46B24L/46B24R36238x128x202
50B24L/50B24R36238x128x202
55B24L/55B24R36238x128x202
65B24L/65B24R40238x128x202
JIS型式名容量[Ah]サイズ(長さx幅x高さmm)
50D20L/50D20R40202x173x202
55D23L/55D23R48232x173x202
60D23L/60D23R48232x173x202
65D23L/65D23R52232x173x202
70D23L/70D23R52232x173x202
75D23L/75D23R52232x173x202
80D23L/80D23R52232x173x202
55D26L/55D26R48260x173x202
60D26L/60D26R48260x173x202
65D26L/65D26R52260x173x202
75D26L/75D26R52260x173x202
80D26L/80D26R55260x173x202
85D26L/85D26R55260x173x202
90D26L/90D26R55260x173x202
65D31L/65D31R52305x173x202
75D31L/75D31R52305x173x202
85D31L/85D31R55305x173x202
95D31L/95D31R64305x173x202
100D31L/100D31R64305x173x202
105D31L/105D31R64305x173x202
115D31L/115D31R72305x173x202

JIS型式の見方(38B19Lの場合)
38性能ランク、数値が大きいほど始動性能がよく容量が大きい
性能ランク=Sqrt(CCA x RC)/2.8, CCA:定格コールドクランキング電流 [A], RC:定格リザーブキャパシティ[分]
Bサイズ区分、幅と高さを規定、A-Hまである
19長さをcm
L端子の位置、LとR
記号幅[mm]高さ[mm]
A127162
B127203
C135207
D175204
E176213
F182213
G222213
H278220
実際のサイズはメーカによって数ミリの誤差があります。

■充電率

電解液の比重を測定することで充電率を知ることができます。専用の比重計が必要になります。
また開放電圧(無負荷で1時間以上放置した状態)からも充電率を知ることができます。
この方法が簡単です。ただし寿命を迎えた場合あまり信頼性がありません。
エンジンを切った直後はそれまでオルタネータによる充電が行われていたため、高い電圧を示します。しばらく放置してから測定する必要があります。

20℃の充電率
充電率比重開放電圧[V]
100%1.28012.72
75%1.23512.45
50%1.19012.18
25%1.14511.91
0%1.10011.64
開放電圧[V]=(比重+0.84)x6セル
比重は温度に左右されます。 比重の温度換算式 S20=St+0.0007(t-20)
温度も考慮した充電率=(V/6-1.94+0.0007(t-20))/(0.18)x100

■充電方法

鉛蓄電池の充電方法は定電圧方式のため比較的簡単です。 通常充電は公称容量の1/10以下の電流(たとえば28Ahなら2.8A)になるよう、13.8Vから14.5Vの間で定電圧を掛けるだけです。 充電には10時間以上必要になります。充電が完了すると電流がほぼ流れなくなります。 そのため、この方法では充電後放置したままにすることができます。
鉛蓄電池の専用充電器は初期電流が公称容量の1/10以下の電流になるように制限し、定電圧を掛けるようにしています。

鉛蓄電池の充電イメージ(28Ah, 初期電流を2.8Aに制限、定電圧=13.8V)

あまり急激な電流を流すとH2Oが電気分解し、水素を発生させます。 電極に気体が発生すると電極の接触面積が減ることから充電効率が落ちます。
特に密閉型のMF鉛蓄電池(MF:Maintenance Free)の急速充電は危険です。十分な制御が必要です。

■寿命の判定

内部抵抗は開放電圧と負荷抵抗を接続したときの電圧降下から求めることができます。

内部抵抗の測定原理(オームの法則を利用して内部抵抗を求める)

内部抵抗の測定方法
  1. 開放電圧を測定(無負荷)。例、12.60V
  2. 負荷抵抗3Ω(5%, 耐電力80W)を接続したときの電圧降下を測定。例、12.60V-12.57V=0.03V
  3. 内部抵抗を計算(内部抵抗=電圧降下 x 負荷抵抗 / 負荷電圧)。例、0.03V x 3Ω / 12.57 = 0.007Ω
負荷抵抗の接続は発熱を伴うため、短時間で済ませてください。
実際に寿命を迎えたバッテリの内部抵抗を測定してみたところ、0.26Ωありました。
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