デサルフェーター(desulfator)とはその名のとおり、鉛蓄電池(Lead Acid Battery)の劣化原因である 電極面に析出した硫酸鉛を電気的に分解し、性能を回復させ、寿命を延ばす装置です。
"Home Power" という雑誌(2000年June/July #77)の記事(マウイ在住のAlastair Couperさん執筆)を元にしています。
http://www.alton-moore.net/graphics/desulfator.pdf
危険を伴うため、自己責任において行ってください。筆者はいかなる責任も負いません。
昨今の資源不足、需要の増大から、鉛の価格高騰により、鉛蓄電池の価格も高騰を続けています。 エコの観点からも、鉛蓄電池の超寿命化が期待されます。
さてもしサルフェーションを防止したり、あるいは硫酸鉛を溶解して取り除くことができるとしたら、 寿命を大幅に改善することができます。
記事によれば、米国の特許で、鉛蓄電池に高周波パルス(約2-6MHz)をかけることで、 硫酸塩を溶解してしまう方法が発見されました。
(検索してみましたが残念ながら見つかりません。どうやらパルス充電の実験中にこの効果を発見したらしいです。)
この方法は鉛蓄電池でのみ有効な方法です。他の種類の電池には適用できません。 原理上、溶解を促進するために満充電状態で行うと効果的です。 また一度の操作で回復するものではなく、何度か繰り返したり、あるいは一ヶ月程度継続的に 行う必要があります。
12Vのバッテリに2-5MHz, 30-50Vくらいのパルスをかけることで徐々に改善されていくようです。 内部抵抗の低い鉛蓄電池に直接パルスを加えることは難しいので、コイルを使った昇圧回路が考案されています。 回路の原理は簡単で、一般的なリレー駆動回路から逆起電力防止ダイオードを省略したものです。
あえてコイルの逆起電力によるリンギング(異常発振, 2-5MHz)を起こさせます。 リンギングは短時間で終了してしまうため繰り返し発生させます。
このリンギングがサルフェーション除去に効果があります。
コイルのオン/オフはタイマICのLM555で制御し、33.5usのパルス(オン)、750usのパルス(オフ)としています。 約1.27KHz間隔でリンギングを発生させます。
LM555の設計値
鉛蓄電池が回復してくると内部抵抗が改善されるため、リンギングの電圧が徐々に下がってきます。 リンギングの状態を監視することで回復度合いを見ることもできますが、内部抵抗で確認するのが確実です。
記号 値 R1 470K R2 22K C2 0.0022uF TH 750us TL 33.5us f 1.27KHz
オリジナル回路では部品が入手困難であり、また発熱が半端ではなく部品を破損してしまいました。 (熱で電解コンデンサが破裂し、コイルが焼けて内部ショートしました。) このままでは危険であるため、改良を加えることにします。 発熱の原因はコイルのオン時間が長いためであり(ショート時間が長い)、実験を繰り返したところ 短い時間でも十分なリンギングを発生することがわかりました。
また短時間で効果をあげられるようにリンギングの発生間隔を約10KHzとしました。 スピードアップ・コンデンサ(C3)があるとリンギングを発生しないため省略します。
LM555の見直した設計値
記号 値 R1 47K R2 4.7K C2 0.0022uF TH 78.8us TL 7.17us f 11.6KHz
パーツ番号 値 Q1 2SJ349(P-MOSFET, -60V, 0.033Ω, -20A) U1 NE555N, LM555でも可 D1 ER504 ファーストリカバリ・ダイオード(400V, 5A) C1 電解コンデンサ 33uF, 耐圧25V C2 セラミックコンデンサ 0.0022uF (222), 耐圧35V C4 電解コンデンサ 100uF, 35V R1 47K, 1/4W R2 4.7K, 1/4W R3 330, 1/4W L1 トロイダルコイル 220uH L2 トロイダルコイル 1mH
- Q1, C4, D1, L1, L2 は発熱します。ご注意ください。
- 発生したリンギング電圧の低下を防ぐため、大電流が流れる部分は太く短く配線します。
- NE555Nの最大電源電圧は18Vであり、LM555の15Vよりも耐圧に優れています。
- 消費電流は約65mAです。R2を3.3Kにすると若干リンギング電圧が下がりますが消費電流は約30mAになります。
12V以上のパルス電圧をかけることから車載の電子機器に悪影響を及ぼす危険があります。 例えば、ラジオにはノイズがのったり、機器を破損させることも考えられます。 ここで紹介する方法はかならず、鉛蓄電池を車体から取り外して行ってください。 回復方法は何度か行うと効果的なようです。
デサルフェーター回路を接続したまま次の操作を繰り返します。
- 充電(13.8V定電圧充電)
- 内部抵抗測定(回復度合いを評価するため。方法は別途参照のこと)
- 放電(負荷, 12Ω, 20W, 10.5Vまで放電)
1回の回復作業は1日程度かかります。概ね3回も行えばかなり回復します。 回復しない場合はバッテリの状態が悪すぎますので、あきらめましょう。仮にキーを抜いたまま停車中にデサルフェーターを接続したままにすると、 暗電流が約65mA流れ続けます。38B19(28Ah)バッテリの場合、 約2.5週間(28Ah/65mA/24時間=17.9日)でバッテリが上がってしまう計算になります。
評価バッテリはバイク用のYTX5L-BS(4Ah)です。 約2年使用したところでセルが回らず、ほとんど充電もしなくなりました(ほぼ放電容量はゼロ)。
リンギングの波形(バッテリの端子間電圧, リンギングの周波数は約5MHz, 収束時間は約1us)
何度かデサルフェーターを接続させたまま、充放電を繰り返したところ、回復がみられました。
ただし、6セルのうち1セルが内部ショートしていることも発覚し、満充電後の開放電圧が10.5Vとなります。 充放電を繰り返すと1つのセル部分だけが異常に発熱することから判明しました。 そのため、放電容量の測定は5セルのバッテリとして計測することにしました。 満充電時の電圧は10.5Vとし、放電終始電圧を8.75Vとします。
放電特性(負荷12Ω)
内部抵抗の回復具合
あくまでも寿命の延命措置です。不安が残る場合には新品バッテリへの交換をお勧めします。(C)2008-2010 All rights reserved by Einstein.
- この方法はバッテリの回復を保証するものではありません。 状態の悪いものは回復できないことがあります。
- 回復しても新品の状態に戻すものではありません。 回復しても劣化していることは免れません。
- 物理的に破損しているバッテリは回復できません。
- 概ね回復効果はありますが、新たな技術であるため、副作用があるかもしれません。 例えば良質なバッテリを破損させることがあるかもしれません。