インピーダンスを測定しよう
- 2022-03-20 第2版 測定器の応用例
- 2021-06-20 初版
はじめに
- 観察力、洞察力に優れた方なら気付く点があります。
- それが何なのか、謎解きは後半にします。
- あまりにも「さらり」と記述されているので気付かないかもしれません。
- 非常に重要です。隠れた真実があります。
- 気が付いた方は鋭いです。
- スピーカーやヘッドホンのインピーダンスです。
- 詳しくはトランジスタ技術2021年8月号をご覧ください。
- ※ここでは科学の話をします。オカルトや感覚的な物言いを排除します。
- ※科学とは現時点で誰も否定できません。受け入れるしかありません。
- こうした情報が少ないので、みなさんと共有しようという趣旨です。
- ぜひ測定結果をお知らせください。
- ※掲載(書籍など2次利用も含む)に承諾される方のみに限ります。
- ※お送りいただいた情報を必ず掲載するとは限りません。あらかじめご了承ください。
- ※測定不良やその他の理由があるからです。
- 入手困難なビンテージのスピーカー、珍しいスピーカー、最新のスピーカーなど歓迎です。
- スピーカーのインピーダンス特性とアンプの電力特性を知ると、低音不足の理由や高音不足の理由がわかります。
- 正しい電力が伝わらなければ、正しい音はでません。
- ※正しい電力を加えてもスピーカーからの音は歪みます。そこに間違った電力を加えたら音はもっと間違います。
- ※スピーカーは間違った電力を加えると正しい音を出力する魔法の箱ではありません。
- 掲載した方にはお礼にその時点の最新版の測定ツール(バイナリのみ)を提供します。
- 最新版は常に更新しており、公開しておりません。
[必要な情報]
- スピーカーのメーカーと型番
- アンプのメーカーと型番
- 生成されたimp.txtファイル
Fostex、P1000K+P1000E、バスレフ型
- 個体差があり、左右にばらつきがあります。まずは左側です。
- グラフの読み方を解説します。
[インピーダンス特性]
- バスレフのため、低音共振周波数が2つあります。
- 低い側の共振周波数はダクトによるものです。開放端の共振です。
- 高い側の共振周波数はエッジやダンパーによる機械的なものです。
- 周波数が高くなるにつれボイスコイルによるインダクタ成分(jωL)でインピーダンスが上昇します。
- インピーダンスとは交流における抵抗成分であり、アンプの出力にスピーカーが抵抗します。
- そのため抵抗が大きいと電力がアンプからスピーカーに伝わりにくくなります。
[電力特性]
- この例ではアンプからの電力は1dB以内の変動に収まっており、過不足ありません。超過も不足もありません。
- 電圧駆動するとこのようにならず、低音不足や高音不足を生じます。
- アンプの出力に直流カット用のコンデンサがあるとハイパス・フィルタを形成し、低音不足を生じます。
- 単電源アンプは出力で直流をカットしなければなりません。
- たとえインピーダンスが変動しようと正しい「電力」を伝達しなければなりません。それが電力増幅器です。
- 電圧駆動アンプはたとえインピーダンスが変動しようと正しい「電圧」を伝達するように。
[位相特性]
- 共振周波数(並列共振)の前後で位相反転しています。山の左側で位相が遅れ、山の右側で位相が進みます。
- 周波数が高くなるにつれインダクタ成分による位相の遅れが増します。
- ※電気の世界では位相の遅れをプラス、位相の進みをマイナスで表現します。これは波形の数式表現に由来します。
- ※オーディオの世界では逆の場合もあるので注意が必要です。
- もともと位相の遅れとは電圧に対して電流が遅れる現象です。
- 位相の遅れと進みを位相ずれと呼ぶこともあります。
- 位相ずれは音の歪みの原因です。特に高音部の歪みは分割振動とも呼ばれます。
- ※歪自体は必ずしも悪とは言い切れません。そもそも弦楽器は歪みを利用して複雑な音色(高調波)を生成します。
- 位相の遅れは最大で60度であり位相余裕があります。
- ※60度とは1波形360度の16%であり、オシロスコープでやっと観測できるレベルです。
- ※±20度は1波形360度の±5%であり、オシロスコープで観測できません。
- 一般的な負帰還アンプの場合、位相の遅れが180度に達すると信号がループしてしまい、発振します。
- 位相が180度進んでも発振しますが、ボイスコイルによるインダクタ成分による位相の遅れのほうが支配的です。
- このため低域発振ではなく、高域発振が一般的です。
- 正確には利得0dB時の位相の遅れと180度の差を位相余裕と呼びます。
- 逆に180度の位相を基準にした場合の利得をゲイン余裕と呼びます。
- 位相の変動幅をみるとアンプの安定性である発振度合いを知ることができます。
- このように非常に多くの情報をもたらしてくれます。
- インピーダンス特性、電力特性、位相特性はすべて関連しており、別の角度から状態を把握します。
- こうした便利で詳細な情報を得られる測定器を見かけません。
- (1)スピーカーのインピーダンス特性を測定
- (2)アンプからスピーカーへの電力特性を測定
- (3)位相特性を測定
- インピーダンスを語るならインピーダンス特性を知らねばなりません。もちろん測定器をお持ちでしょう。
- パワーアンプを語るなら、電力(パワー)特性を知らねばなりません。もちろん測定器をお持ちでしょう。
- 位相を語るなら、位相特性を知らねばなりません。もちろん測定器をお持ちでしょう。
- 世の中、不思議なもので測定もしないで、語る方が多いです。
- まさか確認もしないで他人の受け売りではないですよね。
- 耳の周波数特性の検査にもなります。どの範囲で聞こえるか確認しましょう。
- 右側です。個体差があります。
- 機械的な加工精度に限界があるため、個体差は避けられません。
- バスレフのダクトにタオルを詰めて密閉型にすると、山が1つになります。
- エンクロージャーの形状が変わるとインピーダンス特性も変わります。
- ダクトの前にモノを配置するとインピーダンス特性が変わります。
- ※厳密にいえば、空気の性質にもインピーダンスは左右されます。湿度や気圧が変わればインピーダンスもわずかに変動します。
- ※重たい空気と軽い空気では空気抵抗が違います。
SONY、MDR-XD150
- ヘッドホンです。
- 小さな山があるなと思っていたのですが、これはやはり共振周波数でした。
- 位相反転しており、共振周波数と確定できました。
Pioneer、SE-M290
- ヘッドホンです。
測定器の応用例
- 測定器を使用して高音部(3kHz以上)の位相補正をしてみましょう。
- スピーカーの特性は様々であり、測定器を用いないと補正できません。
- 現状を把握し、効果を検証するためです。
- モーターの力率改善と同じ原理を利用します。
- スピーカーはモーターと同じ基本原理で動作します。
- まずはスピーカーのインピーダンス測定結果から等価回路を導いてみましょう。
- ※低音部の共振は無視します。
- スピーカーはP800Kです。アンプは電圧増幅器です。
- 20kHzでのインピーダンスZ=24Ωと読み取れます。
- インピーダンスの最低値からR=8Ωと読み取れます。
- Z2=R2+(ωL)2, ω=2πf
- Lを逆算すると175uHとわかります。
- このインダクタンスが位相ずれの原因です。
- (高音部の)等価回路です。
- では高音部のインピーダンス上昇と位相ずれを補正してみましょう。
- ネットワーク回路を追加することで補正します。
- このネットワーク回路をシミュレーションで設計するために等価回路が必要だったのです。
- 表計算でパラメータを調整し、決定しました。
- パラメータはスピーカーの種類によって決まります。
- ※本来スピーカーを改善することが望ましいです。
- ※ネットワーク回路を追加したくはありません。
- ※しかしスピーカーはボイスコイルを利用しているため、コイル成分(インダクタンス)を取り除けません。
- 位相ずれを補正するとは力率を改善することです。
- 位相を本来あるべき姿(理想)に近づけます。
- 補正前後のシミュレーション結果です。大幅な改善がみられます。
- ※たまにシミュレーションは使えないというご年輩がおります。
- ※シミュレーションが使えないのではなく、使いこなせないだけです。
- ※能力不足です。理想と現実の差を埋められない技術不足です。
メリット
- 電力改善(力率改善)
- ひずみ改善(位相改善)
デメリット
- ネットワーク回路の純抵抗成分で電力消費
- 位相を改善するとはひずみを改善します。
- スピーカーの振動板の動きを正します。
- ※位相の遅れとはスピーカーの振動板が本来より遅れて動く現象です。
- ※位相ずれが分割振動の原因にもなります。
- 力率改善とは簡単にいうと電力効率を改善します。
- これは電圧増幅器で効果を発揮します。
- 位相と力率の関係
力率 | 位相 |
0.94 | 20度 |
0.77 | 40度 |
0.5 | 60度 |
- 位相変動を20度以下に抑え込めれば94%以上の電力効率になります。
- ※スピーカーの能率ではありません。
- 現状ではデメリットよりメリットが上回るため位相補正した方が望ましいという結論です。
- ※ネットワーク回路を追加したくはありませんが、損得勘定すると現状では追加したほうがよいです。
- ※損<得、だからです。損より見返りが勝っているからです。
- 効果がみられるか検証してみましょう。
- 位相補正した結果です。
高音(3kHz以上)のインピーダンス改善、電力改善、位相改善
- インピーダンスの上昇が抑えられ、改善を認められます。
- 電力低下が抑えられ、改善を認められます。
- 位相変動が±10度以内に抑えられ、改善を認められます。
- ※デメリットとしてネットワーク回路の純抵抗成分で高音の電力が消費されます。
- ※しかしこの抵抗の電力消費は正しい電力が伝わることで補われます。十分とは言い切れませんが、改善前を下回ることはありません。
- ※加えて正しい位相に戻されるため、デメリットをメリットが上回っています。
高音のひずみ改善
- 5kHzのひずみ率THDは0.26%から0.23%に改善を認められます。
- 単一の周波数としては些細な改善ですが、3kHz以上のすべての周波数で改善が見込まれます。
- ちなみにP800K(位相補正あり)を電力増幅器で駆動した特性です。
- 位相改善効果に加えて、電力伝達が理想に近づきます。
- 現時点では位相ずれをゼロにすることは不可能であり、±10度以内に抑え込めればベストといえます。
- 理想にまた一歩近づいたといえます。
- フルレンジ・スピーカーだからネットワーク回路は不要なんて常識にとらわれてはいけません。
- 常識が正しいとは限りません。間違いを多く見かけます。「そんなはずはない」という思い込みで「自己修正」できません。
- 実際、測定によって正しい効果を確認できました。
- 次にヘッドホンのインピーダンスと位相を補正してみましょう。
- SE-M290です。アンプは電圧増幅器です。
- 補正前の状態です。
- 補正後の結果です。
- 1kHz以上のインピーダンスの上昇が抑えられ、改善を認められます。
- 1kHz以上の電力低下が抑えられ、改善を認められます。
- 1kHz以上の位相変動が抑えられ、改善を認められます。
- 電力増幅器ではなく電圧増幅器であってもここまで改善されます。
- 電力増幅器を使えば、さらに電力変動を抑え込めるでしょう。
- ※低音部も補正したいなどと、あまり欲張りすぎてはいけません。
- ※人間の欲望は計り知れません。
- ※やりすぎるとバランスを崩します。
- ※「過ぎたるは猶及ばざるが如し」
- ※「足るを知る」
- スピーカーのインピーダンスと位相を測定できるようになったからこそ、その効果を検証できるようになりました。
- パラメータが少しでもずれると、補正どころか悪化させます。
- 理想と現実も違うので、実際に測定して検証しなければなりません。
- 検証できる環境がないと補正できません。
- 古くから知られている方法ですが、今まで実現できませんでした。
- ※補正を希望される方がいれば(測定と補正)サービスとして提供するかもしれません。
ちょっと補足
- DSP内蔵アンプあるいはDSP内蔵スピーカーが登場しはじめています。
- 不思議なことにカー・オーディオの分野で発展しています。
- 車載用サブ・ウーハーの普及が盛んなことが影響しているようです。
- クロスオーバーを調整することでサブ・ウーハーを鳴らすことが目的だったようです。
- もともとはアナログ・イコライザーをデジタル的に行うことから始まりました。
- さてDSPの処理性能が向上し、一部の機種ではキャリブレーションすることで周波数特性をかなりフラットに調整できるようになりました。
- ※キャリブレーションとはマイクで音を拾い、出力と入力の差を比較して自動調節する仕組みです。
- ※ただし自分好みの音に手動調節することが目的のようです。
- 簡単にいえばデジタル・イコライザーで周波数特性を細かく調整できるようになりました。
- 最近の薄型テレビでもDSPを搭載して薄型スピーカーを何とか鳴らそうとしています。
- さらにDSPで位相補正を行うものまで登場しています。ただし破格の値段でとても手がでません。
- 仕組みはAD変換してデジタル信号にしDSPで信号処理します。最後にDA変換してアナログ信号に戻します。
- この方法自体は正しいのですが、スピーカーやアンプの改善をおざなりにしています。
- つまりスピーカーやアンプの手を抜いて、代わりにDSPで補おうという面が目立ちます。
- 本来はスピーカーやアンプを向上し、さらにDSPで補おうというのが正しい方向性です。
- 一方は手を抜いて他方に力を入れるのではなく、両方とも力を入れるべきです。
- デジタル技術を追求すればするほど、実はアナログ技術の重要性がわかってきます。
- デジタル技術だけを追求すればよいのではなく、アナログ技術も同じように追及しないといけません。
- いまだに音の出口であるスピーカーはアナログ動作です。人の聞く音はアナログです。
- そしてDSP処理にも限界があり、スピーカーの特性を超えることはできません。
- 例えばスピーカーが20kHzを再生できなければ、いくらDSPで補正し20kHzを出力しようとしても無理です。
- 筆者はDSPの高度な技術を知った上で、アナログの改善余地を追求しています。
- ※単純にDSPで周波数特性をフラットにすればよいのではありません。簡単に答えは得られません。
- ※DSPにもデメリットがあります。内部処理に時間を要するため、遅延はさけられません。DSPは万能ではありません。
- ※映像と音にずれを生じます。内部で複雑なことをすればするほど目立ちます。
- ※だからタイムアライメント(タイムディレイ、遅延)の調節機能があります。
- ※DSPでは遅延を避けられないので、だったらタイムアライメントなる機能を付加してしまおうと考えたのでしょう。
- ※遅延を調整できますが、遅延をゼロにできません。
謎解き
- なにか違和感を感じなかったでしょうか。
- その違和感の正体を解説します。
- パワーアンプ(電力増幅器、電力駆動アンプ)と称されて市販されていますが、実際には電圧増幅器です。
- アンプの電力特性を測定した結果であり、科学的な事実です。科学的な証明です。
- そう、これが違和感の正体です。
- パワーアンプと称されていますが、中身は違います。これをなんというのか賢い皆さんはおわかりですよね。
- ※そんなの嘘だ、間違いだといっても、科学的に間違っているものは間違いです。誰も否定できません。それが科学です。
- ※電圧増幅器を電力増幅器だと言い張られても通用しません。
- ※リンゴをミカンだと言い張っても通用しません。リンゴがミカンだなんておかしな話ですよね。
- ※うどんをそばだと言い張られても困ります。
- 科学的にスピーカーへ加えたエネルギーに比例して音のエネルギーが出力されます。
- エネルギーは途中で増えたり減ったりしません。入力エネルギーの総和=出力エネルギーの総和です。
- ※エネルギーはロス(損失)も含めて総量は変わりません。これをエネルギー保存の法則と呼びます。
- ※スピーカーのエネルギー・ロスは大きいことが知られていますが、それでも原則として正しい入力が必要です。
- 電気的なエネルギーとは電力(パワー)であり、スピーカーに電力を入力します。電圧ではありません。
- どこで間違ったのか、電圧と電力を取り違えてしまいました。
- こうして、現在に至っています。
- そこで、科学的に正しいパワーアンプを開発しました。
- さあ、わくわくしてきましたね。
- 科学に逆らっても構いませんが、正しい音を永遠に得られません。
- 正しい音を手にしたいなら、科学に従うしかありません。
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