- 回路図に著作権は認められないと断言している意見をみるが本当だろうか。
- これはある意味正しいがある意味間違いである。
- ネット上の情報を暗黙に信用すると後で痛い目にあう。
- 誰かが言っているからとか、拾ってきた噂話を信じてはいけない。
- 法律や判例に照らし合わせて考えてみよう。
- もちろん特許を取得した回路図は例外とする。
- 著作権ではなく特許権で守られるからである。
- 特許取得済みの回路図を業として無断使用したらどうなるかはわかるであろう。
- まずは基礎知識として、知的財産権に著作権や特許権が含まれている。
- 知的財産権にはこの他にもいろいろな権利があり、その一種が著作権であり特許権である。
- 正確には知的財産権の産業財産権に特許権、実用新案権、意匠権、商標権がある。
- 産業財産権を確立していない回路図に著作権はないのだろうか。
- なお一般的に特許といった場合、広い意味では実用新案を含む場合が多い。
- 実用新案は特許の簡易版という位置づけである。
- 特許権は申請し、要件を満たせば取得できる。
- 一方で著作権は創作し、公開した時点で発生する。
- こうした違いがあることも理解しておこう。
- 知的財産権には回路図配置利用権もある。
- ただしこれは半導体集積回路(IC)内部の話であり、一般的な回路図を保護する権利ではない。
- 産業競争力を高める目的であり、IC内部の話である。ICの外の回路図には適用できない。
- 一般の方がICを設計することは現時点ではないので、別の話である。
- 現時点では企業しか利用することができない。
- 将来、一般の人がICを設計するようになったら適用できるだろう。
- よく勘違いするので気を付けよう。
- 法律で著作権の及ぶ著作物の大枠を定義しているが明確な基準があるわけではない。
- 時代とともに変化する。例えば、音楽は著作物であり、媒体を問わない。
- 昔はレコードしかなかったが、CDであってもかまわない。
- 著作物は「おおむね」例示されているに過ぎない。
- つまり著作物が例示されたものに限られるわけではない。
- 例示されていないが、新聞、雑誌、マンガ、テレビドラマ、俳句や川柳も著作物である。
- 著作権法では次のように記述している。
- 第一章第二条の一項で著作物の大枠を定義している。
- 第二章第十条で著作物の例示をしている。
- 著作権法
----------------------- 著作権法 第一章 総則 第一節 通則 (定義) 第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。 一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。 二 著作者 著作物を創作する者をいう。 ----------------------- ----------------------- 第二章 著作者の権利 第一節 著作物 (著作物の例示) 第十条 この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。 一 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物 二 音楽の著作物 三 舞踊又は無言劇の著作物 四 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物 五 建築の著作物 六 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物 七 映画の著作物 八 写真の著作物 九 プログラムの著作物 -----------------------
- 紙か電子的な媒体かを問わず回路図はアイデア(無形物)ではなく、あきらかに図面です。誰も異論はないでしょう。
- アイデアは著作権の対象になりません。
- もちろんある意図をもって回路図を記述しており、思想なくして回路図は存在しません。
- つまり回路図は思想をもって表現されたものです。もっと言うなら回路図はある目的を実現するために具現化し表現した図面です。
- そして回路図は電気的な設計図です。
- 設計図は専門的な学問で使われる表現手段であり、学術的な性質を有しています。
- 設計図も、著作権法で「学術的な性質を有する図面、その他の図形の著作物」と解釈されています。
- ただしすべての設計図が「無条件に」著作物と認められるわけではありません。
- 判例でも設計図をある条件のもと著作物と認めています。
- 例えば、一般的な創作性のない工業図面は認められません。創作性があれば認められます。
- 例えば、抵抗の直列接続回路図や並列接続回路図を「創作的に表現」したとは認められません。
- 一般的に古くから知られているありふれた回路図を自分の著作物とはいえません。
- それは創作の加わっていない模倣(コピー)です。
- 他人の小説をコピーして自分の著作物と主張することができないのと同じです。
- いうまでもありませんが、たとえ工業図面に著作権はなくても特許権があるかもしれません。
- 商用利用の場合には特許取得されている場合がほとんどです。
- 例えばUSBやBluetoothは特許の塊です。
- 著作権がないから安心と思ったら大間違いで、特許権で引っかかります。
- 音楽の設計図は「楽譜」です。同様に電気の設計図は「回路図」です。
- 楽譜は著作物です。同様に回路図も著作物です。※ただし後述のように無条件ではありません。
- 回路図に著作権が認められないなら、楽譜も認められないでしょう。
- ちょっと意地悪をするが、回路図で楽譜を表現したり、回路図で富士山を描いたら、どう判断するだろう。
- 著作権では「独創性」までを必要としません。「独創性」がなくても「創作性」があれば著作権を認められます。
- もちろん「独創性」があれば「創作的」と認められるでしょう。
- つまり「独創性」のある回路図は「学術的な性質を有する図面の著作物」と認められるでしょう。
- 今までになく「独創性」があり特許を取得できるような回路図なら著作物であり、著作権が発生するでしょう。
- 独創性があるなら学術的にも優れているでしょう。
- ※古い例をあげるなら、ホイートストンブリッジの回路図は独創性があり、学術的(教科書にも載る)です。
- すべての回路図に著作権がないと判断すると危険です。むしろあるかもしれないことを前提にしたほうがよいでしょう。
- ちょっと特殊な見たことのない工夫のされた回路図に著作権が及ぶかもしれません。
- あるいはすでに特許を取得しているかもしれません。
- 昔はなかった、新しい部品を使った回路図も著作物と認められるでしょう。
- 明確な基準があるわけではありませんが「独創性」「新規性」「創造的」「工夫」「特殊」「特徴」が見られる場合には著作物となるでしょう。
- これに限られるわけではありません。
- 回路図を小説に置き換えて考えるとわかりやすいでしょう。
- 他人の小説をコピーして自分の著作物と言い張ることはできません。
- 昔から知られているありふれた文章に著作権は認められません。
- 例えば「おはようございます」に著作権は認められません。ありふれた文章が誰かの著作物なら誰もこの文章を使えません。
- 例えば、古くからあることわざに著作権は認められません。
- しかし、独自に創造したことわざや詩に著作権が認められます。
- 回路図の複雑さには関係ありません。どんなに単純でも独創性があれば著作権を認められます。
- 単純な俳句、川柳であっても創作性があれば著作権を認められます。
- そんなこと簡単に思いつくと後でいってもダメです。知ってしまえば簡単なのです。ニュートンが万有引力を発見するずっと以前からリンゴは木から落ちていました。
- 何も考えず他人の回路図を勝手にコピーして公開しないほうがよいでしょう。
- 他人の小説や音楽を勝手にコピーして公開するのと同じです。
- もちろん古くから知られ、一般名称としてしられている回路図なら公開しても問題ないかもしれません。
- ただし他人の所有物をそのまま利用するなら、少なくとも承諾を得ましょう。
- 承諾を得ないと、他人の所有物(図面ファイルなど)を盗んで公開したことになります。別の問題があります。
- 回路図に限った話ではなく、図面であれば著作権の及ぶ可能性があります。
- これはいいと思った図面はむしろ著作物である可能性が高いです。工夫や創造性があるからです。
- 他人が創造した著作物の扱いには気を付けましょう。
- もちろん自分で独自に創造したものであれば問題ありません。
- 著作権では結果的に似たものであっても「独自に創造」したものであれば著作物と認められます。
- 著作権の侵害にはあたりません。
- 他人の著作物のコピーではなく、独自に似たものを創造することは許されています。
- 独自に創造するのですから当然別の手段で実現します。別の手段ですからコピーと疑われることもありません。
- 似たものとはコピー商品ではなく、似た機能と理解するとよいでしょう。同じことを実現する方法は1つでありません。
- 別の手段で同じことを実現できます。
- 著作権の範囲は広く、比較的障壁が低く設定されているため、著作物の可能性があります。
- 手書きの案内図(地図)は著作物と認められます。
- 今はなくなってしまった古い廃道を記述した地図は学術的にも貴重といえるでしょう。
- この記事も著作物です。
- 回路図は著作物です。
- ただし昔からあるありふれた回路図に著作権は認められません。誰が書いても差がなくほぼ同じになるからです。
- 記事は著作物です。
- ただし(単なる)事実の伝達にすぎない雑報に著作権は認められません。誰が書いても差がなくほぼ同じになるからです。
- 著作物の要件として「創作性」が必要です。誰が書いても同じになりません。