電波時計の紹介です。カレンダー機能付き電波時計を探していたのですが、見つからないため、世の中にないものは製作することにしました。
想像以上に苦労しました。結局、基板も作り直しました。
電波時計は標準電波(JJY)を受信して誤差を自動修正する時計です。
福島の40KHzと佐賀の60KHzで日本全国をカバーしています。
電波形式はA1Bで搬送波の振幅をデジタル変調したものです(搬送波の強弱で表現され、最大振幅100%と最小振幅10%です)。
受信周波数 40KHz, 60KHz 表示 グラフィックLCD表示 電源 リチウムイオン電池3.7V,1100mAH 消費電流 8mA(7mAはグラフィックLCDが消費) 電池寿命 1100mAH/8mA=137hour
まずは電波時計の核となる専用IC、SM9501A(セイコーNPC)を扱いやすいようにピン変換します。
電源電圧範囲が2.4〜3.6Vと3V電源仕様です。
高感度であり、0.5uVrms以上の入力電圧を検知します。これが後に大きなハードルとなるのでした。
動作時の消費電流も55uAとほとんど無視できるような電流です。
電波は距離の二乗に反比例して減衰します。
JJYの出力は50KWですが、日本の北と南に位置しているため、微弱電波を扱うことになります。
このためバーアンテナはできるだけ大きいことが望まれます。
電波時計用のバーアンテナも販売されているようですが、一般に入手困難のため自作することにします。 AMラジオよりも周波数が一桁小さいため、インダクタンスも一桁上の4mHが標準的なようです。
もともと40KHz,60KHzという長波のため自然とアンテナも大きなものにならざると得ないという事情もあります。
同調周波数 コンデンサ インダクタ 40KHz 1760pF 4mH 60KHz 2200pF 4mH
(アンテナの基本形であるダイポールアンテナの場合、1/2波長の長さが必要です。)
ただし、ケースとのバランスを考え、外径8mm x全長8cmのフェライトコアを利用することにしました。
若干曲がっているように見えますが、目の錯覚ではありません。フェライトコアは曲がったものがあるので、できるだけまっすぐなものを選びましょう。
インダクタンスの計算は長岡係数を利用して大体を計算できますが、実際との誤差が大きいので別途LCメータを製作しました。
表計算で試算してみると4mHをこのフェライトコアで1重巻きで作成しようとすると長さが足りないことがわかります。
- K=長岡係数(これも変動するため近似式を利用)
- u=比透磁率(フェライトコア、予備実験から14くらい)
- u0=真空の透磁率(4πx10-7)
- N=巻き数
- S=断面積
- d=巻き幅
- r=半径
(1重巻きの場合、734回巻きで、幅が146.8mm必要です。フェライトコアの長さを超えてしまいます。線長も20m必要です。)
3重巻きにすると計算上は幅20mmでちょうど4mHになります。大体そのあたりまで巻き、LCメータで測定しながら巻き数を微調整しました。
ロウで固めています。外径0.2mm,UEW(ポリウレタン銅線)を使用します。
同調用コンデンサもLCメータで測定し、誤差の少ないものを選別しました。
- アナログとデジタルを扱うため、GNDを含めて一旦電源を分離して設計します。
- 3V電源で統一します。当初はHT7733AのDCDCコンバータを利用した3.3Vを想定しました。これが後に悲劇を生みます。
- 回路図にありませんが3.3Vのレギュレータが必要です。
- カレンダー表示をさせるため、グラフィックLCDを使います。これも後に苦労させられます。
配線が大変なためOLIMEXに発注しました。各部を少しずつ仮組みして動作確認をしていきます。
ここからが苦労の連続になります。
ここからはノイズとの戦いです。
- まずはアナログ部を組み立て、JJYを受信することを確認しました。
- デジタル部を組み立て、グラフィックLCD表示の動作を確認しました。
- さていよいよ総合テストです。するとJJYをまったく受信しなくなりました。
オシロスコープとにらめっこしながら原因を追究していきます。さて電波時計製作にあたっての教訓です。
- アナログ部だけに電源供給すると、消費電流がほとんどないことから、HT7733AのDCDCコンバータでも電源ノイズが少なくJJYを受信できました。
- しかし、デジタル部の消費電流8mAでHT7733Aのリップルは200mVも発生していました。HT7733Aのスイッチング周波数は200KHz以下とJJYに近いです。
- 電波の検出電圧がuVオーダーに対して、200mVは20万倍のノイズであり、お話になりません。
- まずはアナログ電源にRCフィルタを追加しました。これにより電源ノイズは少しましになりました。
- さらに電源のリップル除去のため、1000uFのコンデンサを追加してみました。これによりさらに改善されました。
- しかしここまでの対策でも総合的にJJYを受信できません。
- そこでHT7733Aをあきらめ、直接電池駆動(3.0V)とすることにしました。
- ところが、今度はグラフィックLCDのコントラスト不足を発生しました。最低3.3Vないと視認できません。3.2Vでもだめです。
- 単4x2本の3Vでは電圧不足となりました。単4x3本はケースのサイズの関係で入りません。
- そこで、薄型のリチウムイオン電池3.7Vに3.3Vレギュレータを追加することで3.3V電源としました。
- さて電源ノイズ問題をひとまず解決したので、再度総合テストです。しかしやはりJJYを受信できません。まだデジタルI/Oノイズに引っ張られているようです。
- いろいろ調べてみると、アナログパターンのそばをデジタルのパターンが走っているところがあり、試しにパターンを切って離しました。
- するとデジタル的なノイズがピタリと収まりました。なんと、パターン上でノイズが混入していたのです。
- そこでパターン上でノイズが乗りそうな部分をすべて引き直しました。
- さて再度総合テストです。しかしまだ安定的にJJYを受信できません。
- JJYの時間情報は60秒間正確に受信することで一つの情報になります。つまり最低60秒間、一瞬でもノイズ混入してはいけません。
- いろいろ思考錯誤していると、グラフィックLCDを離すをJJYを受信するようになります。
- そこでグラフィックLCDの裏を確認するとなんと、コントラスト用電源としてHT7660というスイッチド・キャパシタ方式のDCDCコンバータが搭載されており、 ここからノイズを放出していることがわかりました。DCDCコンバータは排除したいところです。
- シールドしてみましたが、スイッチング周波数が低いためか効果がありません。幸いDCDCコンバータ部をアナログ部から遠ざけるとJJYを受信します。
- こうなると部品配置を変えるしか手がなく、パターン上ノイズの件もあったので、基板を再設計して再度OLIMEXに発注することにしました。
- アナログ部とデジタル部は可能な限り分離せよ。平行に走るパターンからもノイズがのるので注意。回路図どおりに接続しただけでは動作しない。
- 電源にDCDCコンバータを使用できない。オシロスコープでmVオーダーのノイズが見えるようではだめ。uVオーダーの信号を扱っていることを忘れずに。
- DCアダプタにレギュレータを通した程度ではだめ。電池が最適。
- 部品から発生するノイズ源に注意。アナログ部(アンテナも含む)と極力離して配置すべし。
- 電波時計をPCのそばに置くだけでもJJYを受信できなくなる。
値 数 備考 PIC24FJ64GA002 1 IC1 マイクロチップ(秋月) SM9501AV 1 IC2 セイコーNPC(マルツ) TG12864E 1 LCD1 グラフィックスLCD, 128x64ドット(秋月) 10K 1 R1 カーボン皮膜抵抗1/4W 100K 1 R2 カーボン皮膜抵抗1/4W 5.1K 1 R3 カーボン皮膜抵抗1/4W 1K 1 R4 カーボン皮膜抵抗1/4W 20K 1 VR1 半固定抵抗 12pF 2 C1,C2 セラミックコンデンサ 33pF 2 C3,C4 セラミックコンデンサ 0.22uF 1 C5 積層セラミックコンデンサ 1uF 2 C6,C9 積層セラミックコンデンサ 47uF 1 C8 縦型電解コンデンサ(耐圧16V) 10uF 2 C7,C15 縦型電解コンデンサ(耐圧16V) 1800pF 1 C10 セラミックコンデンサ 2200pF 1 C12 セラミックコンデンサ xxpF 1 C11 微調整用セラミックコンデンサ xxpF 1 C13 微調整用セラミックコンデンサ 32.768KHz 1 XTAL1 CF-308, シチズン(秋月) T 1 フェライトコア, 外径8mm x全長8cm(シオヤ無線) UEW 1 外径0.2mm,UEW(ポリウレタン銅線) 3.7V 1 B1 リチウムイオン電池, 3.7V, 1100mA, LAB503759C2(若松通商) TA48M033F 1 IC3 レギュレータ, TOSHIBA 47uF 1 縦型電解コンデンサ(耐圧16V) 0.1uF 1 積層セラミックコンデンサ
- MPLAB IDEとMPLAB C30で開発しました。
- JJYの情報解析アルゴリズムは苦労しました。
- JJYを受信できないときは、RTCC機能で動作します。
- RTCC機能だけでも月差±3秒程度の精度まで追い込めます。
- 現在は同期回数やJJYの受信感度を知るため、1分間隔で時刻同期するようしています。
- 無調整で自動的に時刻修正します。
概ね満足しています。(C)2010 All rights reserved by Y.Onodera.
- グラフィックLCDの消費電流が思いのほか大きく、常時通電使用とはなりませんでした。
- DCアダプタもノイズの関係で使用を控えました。
- 無調整で自動的に時刻同期するので、電源を入れればいつでも正確な時刻をしることができます。
- 時刻同期には0秒から59秒までの情報を得る必要があります。そのため最悪時刻同期には2分かかります。
- ノイズに悩まされ、対策したために、かなり感度がいいようです。
- 40KHzではたまにデータをロスしますが、かなりの確率で正常受信します。
- 60KHzも受信しますが、時刻訂正するまでに至っていません。